記事の詳細
サンノゼ シリコンバレー視察レポート
※ BIP 取締役企画連携部長 手塚里美
2015年2月、イノベーションを生み出し続けている場所、米国シリコンバレーを視察訪問しました。
グローバルIT企業本社屋9社を訪ね、この地域を体感し、なぜシリコンバレーがイノベーションを生み出し続けているのか?を深く考える機会となりました。
その疑問を解く最大のキーワードは「エコシステム」です。
シリコンバレーの歴史的背景と、現地の状況、シリコンバレーのエコシステムについてレポートしたいと思います。
1.世界をリードするグローバルIT企業本社とは
Apple、Google、Facebook、intel等、今や世界中の人が知る企業本社は、大学のキャンパスの様な雰囲気だった事が印象的でした。
これらの企業の事務所が、開放的でアイデアが生み出しやすい環境作りや、働きやすい仕組み作りに力を入れている事は日本でもよく紹介されています。
2.シリコンバレーの歴史と環境
シリコンバレーとはどんなところなのでしょう?
カリフォルニア州、サンフランシスコの南に位置する地域。「シリコン」は、1970年代にこの地域の主産業となったシリコンチップの製造会社を、「バレー」はサンフランシスコ湾の南にあるサンタクララバレーを指すという。サンノゼを中心にIC(集積回路)半導体を扱うマイクロエレクトロニクス関連企業の他、現在のIT業界をリードする企業が多く集まっています。
さらに歴史を遡ると、1800年代、ゴールドラッシュの時代。一攫千金の夢を抱いて多くの人がこの地にやってきました。情熱をもってイノベーションを生み出し続けるこの土地の精神の根源には、開拓者達の情熱が受け継がれ影響している。実際、スタンフォード大学を創設したリーランド・スタンフォードも、この時代にカリフォルニアに移住してきています。
スタンフォード大学については、2年前の視察の際に同大学を訪問し現地で話を聞く機会を得ました。スタンフォード大学は、シリコンバレーにおいて欠かす事のできない教育拠点となっています。(参考TOPICS 2012.1.26. 「2012CES、シリコンバレー視察レポート」>> http://www.bi-p.co.jp/?p=2593)
また、この地域を巡っていると、緑の多さ、そして温暖でからっとした爽やかで過ごしやすい気候に気が付きます。2月にもかかわらず日本でいうところの5月位の陽気でしょうか。一年を通して過ごしやすく、全米で一番過ごしやすい地域と言われているそうです。この地に人々が集まる理由は、この温暖な気候も外してはいけないと感じました。
Google本社のあるマウンテンビューにあるComputer History Museum(コンピュータ歴史博物館)では、簡単な計算機器から始まり、真空管、半導体、現在のコンピュータ機器まで、シリコンバレーを拠点とする情報技術の発明と発展の歴史を知る事ができました。ここでは、スーパーコンピューターや、Appleの初期製品、Google初期のサーバーラック等大変貴重な展示品も見る事ができます。
情熱的で先進的な人々が集まった歴史、そして快適な気候環境、さらにイノベーションを生み出す仕組みがシリコンバレーに集結しています。
シリコンバレーが存在する大きな理由について、デボラ・ペリー・ピシオーニの著書「シリコンバレー最強の仕組み」(参考書籍1)では下記のように纏めています。
■シリコンバレーが生まれた理由
①スタンフォード大学
②真空管
③モフェットフィールド
④フレデリック・ターマン
⑤エレクトロニクス産業の成長
⑥ショックレー半導体研究所
⑦スピンオフ文化
⑧ベンチャーキャピタルの成長
3.シリコンバレーのエコシステム
イノベーションを生み出し続け、人や企業が成長を続けるシリコンバレーには効率的な仕組みが存在しています。
シリコンバレーを生んだ歴史や環境、スタンフォード大学を中心とした教育基盤、産学連携、優れた起業家達、ビジネスモデルと共に発展したベンチャーキャピタル、さらに進化する起業とエンジニアリング、実力主義と開放性と協力を重んじ失敗も旅の一部として受け入れるエコシステムがシリコンバレーでは回っている。
情熱と知識・技術、社会の仕組みが集結し、エコシステムとして機能しているのです。
「端的に言えば、シリコンバレーでは、「失敗を受け入れる文化」「リスクを引き受ける投資家」「産業と強く結びついた大学(教育)」、この3つがうまく連携・循環していることが、多くのヒトとカネをひきつけ、イノベーションを生む仕組みの核となっている。」(参考文献1より)
コンピュータ歴史博物館で案内してくれた日本人職員の山崎氏からは、日本とシリコンバレーの違いの一つとして、シリコンバレーには優れたメンターが沢山いるというお話を伺いました。
起業家やイノベーターを導く優れたメンター、その他にも弁護士、会計士、デザイナー、銀行、投資家等、起業家の応援団となる仕組みが集結し、それらが密に結びついている事も、シリコンバレーのエコシステムの重要な要素となっている。
また、シリコンバレーや、サンフランシスコのカフェで目にしたのは、PCに向かって熱心に作業に取り組む人々や、明るく活発にビジネスミーティングをしている人々の姿だった。明らかに日本のカフェとは違う雰囲気を感じた。
気軽でオープンにアイデアを創造し、変化にも柔軟に対応する。イノベーションを生み出し続ける雰囲気についても、ここでは感じる事ができました。
※写真はサンフランシスコで訪れたカフェの様子。大手IT企業も出資するカフェで、スタートアップや若い起業家が集まる。
4.まとめ
今回の視察では、シリコンバレーへの理解を深め、イノベーションを生む企業や人材に必要な要素について考える機会となりました。
日本もシリコンバレーの様なイノベーションを生み出す「エコシステム」が必要なのではないのだろうか。
また、シリコンバレーと聞くと、華やかに成功したIT企業をイメージしてしまうが、シリコンバレーで成功した企業の裏には沢山の失敗がある。ホームランばかりではない。今のシリコンバレーの成功の裏には数えきれない失敗も存在する。日本では失敗する事は恥ととらえたり、失敗を認めない雰囲気がある。失敗を許す環境も必要なのです。
日本ではエコシステムを作る事はできないのでしょうか?
益々発展するアプリ、最近話題のウェアラブル端末、そしてこれからの自動車技術・・・産業やビジネスモデルは発展し、シリコンバレーはこれからも進化し続けるだろう。強力な経済的優位性を誇る世界のイノベーション拠点から、まだまだ目を離してはいけないと感じました。
今回、シリコンバレーで学んだ「エコシステム」を参考に、企業が、個人が、小さくてもイノベーションを起こすことの大切さについて考えるきっかけとなりました。変化し続ける社会の中で、ビジネスモデルの変革は絶えず考え続けなければならないテーマ。
前向きな体験の連続で、大変有意義な視察となりました。
<参考資料>
1.デボラ・ペリー・ピシオーニ「シリコンバレー最強の仕組み」日経BP社 2014年7月
2.泉田良輔「Google vs トヨタ 「自動運転車」は始まりにすぎない」角川EPUB選書 2014年12月
3.竹内一正「史上最強のCEOイーロン・マスクの戦い」PHPビジネス新書 2015年3月
4.コンピュータ歴史博物館 http://www.computerhistory.org/
5.2012.1.26.TOPICS 「2012CES、シリコンバレー視察レポート」http://www.bi-p.co.jp/?p=2593
手塚 里美
取締役 企画連携部長
プロフィールはこちら>>BIPへのご質問、ご相談等、お気軽にお問い合わせ下さい。