佐々木昭美のBIエッセイ 明るく楽しくイノベーション
2012/02/27 佐々木流 BI経営進化論 第3回 3.11間近。今、企業経営・日本政治経済に必要なことは「稼ぐこと」
先週末は、大雪の仙台でした。昨年、12月に石巻を訪ねて以来の宮城県訪問ですが、深く心に刻まれるものとなりました。
「第2回モバイルコンテンツサミットin仙台宮城」に出席。また、「スマホと機器連携の創発会議」に参加し、夜の交流会でも懇談しました。北海道、東京、岐阜等の方々からの事例紹介もあり、地元のモバイル系、IT系の若い経営者やエンジニアが多く参加し大盛況でした。
会議でも、夜の懇親会でも強く感じたのは、「稼ぎたい」という痛切な思いでした。下請け構造が多い宮城県IT系企業は、震災後顧客からの注文が激減し、経営と生活が大きな困難に陥っています。 県や市の緊急雇用事業で若干の新卒雇用を実施していますが、数が少なく、しかも期限があり、結局成長なければ企業負担か解雇となることは自明です。
しかし、若いIT系経営者やエンジニアは諦めず、世界に繋がる製品やサービスをこの被災した仙台宮城で創造し、産業育成したいという夢を失っていませんでした。特に、その切り口をトレンドであるモバイル、スマホ等と東北の得意な機器製造との連携を模索していました。その思いは楽観的な表情ですが痛切なものを感じました。
間もなく3月11日宮城県沖太平洋岸大地震1年を迎える時に仙台宮城で2日間過ごし、改めて日本企業、日本政府は「稼ぐ」ことに全力を挙げることが、東北復興支援に繋がることを痛感しました。
今、私たち日本人・日本企業は「災害復興、経済復興、日本再生」の猶予ない新たな段階に立っています。
(1)日本企業・日本国民が「働いて・成長して・稼ぐ」時代――復興資金、財政資金を生み出す
――再び、野中郁次郎・遠藤功『日本企業にいま大切なこと』に寄せて――
震災から半年後の昨年9月、野中郁次郎一橋大学名誉教授・遠藤功早稲田大学ビジネススクール教授『日本企業にいま大切なこと』が刊行されました。今改めて、その紹介と私の思いを伝えたいと思いました。3.11を間近に控え、企業経営者・ビジネスマンと政府・政党、メディアの多くが依然として「働いて、成長して、稼ぐ」という課題に正面から立ち向かっていないという印象を拭えません。
野中郁次郎・遠藤功『日本企業にいま大切なこと』は、猶予できない新起点を迎えて、特に日本企業の経営者・社員、経営学を研究・教育・指導する専門家の方々に基本姿勢と叡知を問い、激励する内容で、時期に合った必読書だと強く感じました。
終章の遠藤功教授の単刀直入な言葉を噛みしめたいと思います。
「ふがいない政治を抱え、借金まみれのこの国が、突如として起こった戦後最大の難局を乗り切るには、屋台骨である企業が元気を取り戻し、「稼ぎまくる」しかない。マスメディアでは「集める」(徴税)、「使う」(支出)という話ばかりが議論され、「稼ぐ」ことへの意識が欠落している。しかし、「稼ぐ」ことなしに、この難局を乗り切ることは不可能だ。
誤解を恐れずに、あらためて強調したい。
もう一度、日本人は「エコノミック・アニマル」に戻るべきである。全国民が一丸となって働き、東北の復興を支えなければならない。それこそが彼の地に対して行える最大の「支援」だろう。」(参考文献1)
民間企業が成長して経済のパイを大きくして税収を増やす。結果として雇用、設備投資増加による経済循環も増え、更に税収も増える。株式市場が上昇し、年金や生命保険の資産も増加する。消費税増税の経済環境も生まれます。
私は、これまでの民主党政府や一部メディアが主張する「社会保障と税の一体改革」では、経済復興・財政再建・日本再生はできないと思います。少子高齢化に対応した社会保障支出削減への改革はなく、この間ばらまいた支出を消費税で徴税する財政政策の範囲です。民主党政府の社会保障政策試算には更に多くの消費税が必要と判明し、議論を撤回してしまいました。
自説は、多くの経済学者が主張する「経済と財政の一体改革」が解決の王道だと思います。もちろん、国会議員、国家公務員・地方公務員30%削減含む行政改革は当然です。民間企業が発展して「稼ぐ」環境づくりに政治やメディアはリーダーシップを発揮してほしいと思います。
(2)「日本型経営」が世界先進モデルの時代――「アメリカ型経営」の限界を脱却する
この見出しに誤解を招かないためには説明が入ります。本書の全貌を先ず理解して頂くのがよいので目次を紹介します。序章 日本の経営者は「実践知のリーダー」である ――野中郁次郎
第Ⅰ部 成功している世界企業は「アメリカ型」ではない
第1章 リーマン・ショックと大震災で何が変わったか
第2章 横文字思考の“毒”
第3章 傷ついた日本の「暗黙知」と「現場力」
第Ⅱ部 海外に売り込める日本の強み
第4章 ムダが多いはずの「総合力」が生きる時代
第5章 世界に注目される共同体経営
第6章 優秀な個を結集する「チーム力」
第Ⅲ部 ステーブ・ジョブスに学ぶ「日本型」リーダーシップ
第7章 意志決定のスピードをいかに上げるか
第8章 優秀なミドルをどう育てるか
第9章 賢慮型リーダーの条件
終章 リーダーはつねに現場とともにあれ ――遠藤功
スティーブ・ジョブス氏は、「日本型」のリーダーシップであったという。生き生きした現場から「未来」を洞察する「連続の非連続」イノベーションと述べています。アップルのビジネスモデルイノベーションについては、私が2年半前執筆したビジネスエッセイ『iPod・iPhoneと連続するAppleビジネスモデル創造の秘密を探る』(詳細はこちら>>)をお読み頂くとイノベーションの経緯が理解頂けると思います。現場と対話し、試行錯誤の連続から、非連続のビジネスモデルが生まれました。
最近、アメリカでも、マイケル・ポーター(ハーバード大学教授)のファイブフォース分析やバリューチェーンといった「科学的」な競争戦略からはイノベーションは生まれないと考える学者や経営者が増えているそうです。ポーター氏自身が「クリエイティング・シェアド・バリュー(CSV=共有価値の創造)を企業目的にすべき」と言い出しているそうです。日本企業には当然の「共通善」という価値観に欧米が近づいて来ているとの認識です。
世界各国や成功企業は、むしろ「日本型」経営や「通産モデル」を採り入れ発展している。日本の経営者と学者はアメリカ流と称する一部経営手法を無防備に過度に採り入れ、日本の競争力の根源であった「現場力」や「戦略的総合力」を劣化させているのではないかと指摘しています。産学官民の日本型連携も再構築すべきと述べています。
勿論、日本電産・コマツ・味の素・ユニクロなど「日本国籍のグローバル企業」が続々と増えていますが、日本企業は技術力はあるがビジネスモデルが弱い、変化の時代に合わせた経営スピードになっていない等の改革課題は依然として残っています。
(3)新サムライ「複眼二刀流」の時代と「賢慮型リーダーシップ」
この20年間、日本企業と日本経営学に「経営はサイエンス」なる発想への傾斜が蔓延しました。欧米以上に過度に入り口手順の堅牢な緻密さ優先のオーバーコンプライアンスも広がった。その有効性ももちろん一部あった。しかし、結果は論理至上の理論モデル演繹法では、経営という無限の解がある「生きている実体」に競争力と付加価値をもたらす有効な結果はなり得なかった。これは、過年度参加した2つの学会でも「研究者は、現実の企業経営に役だったのか?と問われて、返答ができるだろうか。」と自己反省の声が公然と表明されたことにも現れています。当然、私も含め企業経営者も、米国発の経営思潮に否応なく影響されたのは事実です。
「あらためてふりかえってみると、「失われた二十年」とは日本企業が自我を失っていた二十年でした。グローバリゼーションの激流に翻弄されて欧米的な価値観を盲目的に導入した結果、日本的な価値観が消失し、去勢され、根無し草になってしまったのです。」(遠藤功 参考文献1)
それでは、これからの時代のリーダーはどうあるべきかについて、野中郁次郎名誉教授は「賢慮型リーダーシップ」と称し、6つの能力を提示しています。
①「よい目的」をつくる能力
②「場」をつくる能力
③現場で本質を直観する能力
④直観した本質を概念化し、表現する能力
⑤概念を実現する能力
⑥賢慮(フロネシス)を伝承、育成し、組織に埋め込む能力
私は2011年新春に、志と実践力の両方備えた象徴的な表現として、新しい日本人像を「新サムライ」と称し、「複眼二刀流」を提唱しました。(詳細はこちら>>)
二項対立に概念化して選択と集中を迫る単眼の理論モデル主義は限界があるだけでなく、過ちを生じ易い安易な議論であった。現実の社会は複雑で深く広い。「総花」とは異なる多変数の総合的複眼的解決力を求められています。実践が先で、その帰納法による理論は後で生まれます。
企業経営はサイエンスとアートの融合した経験科学として深めていくべきであるとの自信を回復した時、そして多くの日本企業や経営学に広がった時、日本は民間企業・国民の力によって再生に向かって疾走始めると確信します。日本は民の国なのである。
以上
(参考文献)
1.野中郁次郎・遠藤功『日本企業にいま大切なこと』(PHP新書 2011年9月1日 第1版)
2.板根正弘『ダントツ経営』(日本経済新聞出版社 2011年4月8日 第1版)
3.佐々木昭美『 iPod・iPhoneと連続するAppleビジネスモデル創造の秘密を探る』(BIエッセイ2009年9月14号)
4.佐々木昭美『 2011年新春にあたり “新サムライ 複眼二刀流で 未来拓く”』(BIエッセイ2011年1月4号)
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佐々木 昭美(ささき あきよし)
取締役会長 総合研究所所長
経営コンサルタント(経営改善、事業開発、ビジネスモデル、 人事戦略、IPO、M&A、社外取締役)
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