佐々木昭美のBIエッセイ 明るく楽しくイノベーション

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2011/05/16 ふるさと宮城県大崎市訪問レポート――『東北人の魂は耐えて、震えている』

 先般、BIPパートナー会議で東北復興支援が話題となり、弊社らしい持続的な支援プログラムを検討することになりました。地域によって、被害の内容と程度が異なるので、まずは故郷が宮城県である私が視察し、報告することにしました。

 新幹線が開通し、5月14~15日に震災後初めて、宮城県大崎市を訪ねました。今回の大震災は、私の実家がある 大崎市(旧田尻町)宮城県内陸北部も被災地です。一部私事も混じった報告ですが、ご了承願いたいと思います。この地域は水稲を中心とした典型的な農村地帯です。旧田尻町、旧古川市を車で見てまわりました。5月19~20日は、海岸部を視察予定です。

 現在、宮城県のホテルは仙台だけでなく新幹線古川駅周辺も満杯です。鳴子温泉や秋保温泉でも空きが少ない状況です。民間会社・自治体関係者の復興支援、保険会社の調査員、各分野の研究者、長期ボランテイア等の宿泊の為です。当日現地へ行っても、宿泊先確保はほとんど不可能です。幸い、私は大崎市の実家を拠点に、周辺を視察することができました。

 宮城県大崎市周辺は、水稲の田植えが一斉に始まっています。日中は暖かくなりますが、朝夜はまだ寒く、ストーブのお世話になりました。
参考資料

(1)宮城県内陸部も激甚地帯

 東北地方太平洋沖大地震が発生した3月11日は、雪の舞う寒い時期でした。宮城県の内陸部も地震の激甚地帯です。海岸部は、地震による巨大津波という2次災害が、無常な激しさで多くの命を奪い、町ごと破壊した。今なお避難している方々が多くいます。メディア報道が悲惨な海岸部に集中していることもあって、内陸部の方々は、「命まで取られなかった」と言って、東北人らしく被害を敢えて言うのが憚られるという思いを持っており、黙々と少しずつ復旧を進めている様ですが、実相は激甚災害です。


【① 家、事務所の全壊、半壊があります】
新幹線古川駅周辺の旧古川市(現大崎市)は中心街でオフィスや商店も多い地域ですが、建物が壊れ、閉鎖しているオフィス等が散見されました。内部の破壊、ひび割れは相当程度あると思われます。

 一般家庭の家の全壊、半壊もあります。大崎市の私の親戚の中にも全壊家庭があり、仮設住宅の希望を申請していました。

【② 東北道の橋破壊、道路は陥没、隆起が多い】
 学生時代通学で通った東北道を繋ぐ江合川の橋は破壊がひどく、一時閉鎖されたそうです。メイン道路なので、仮復旧して使用できる様になりましたが、隆起とズレが目視できるので不安な状況です。道路は隆起とへこみ、ヒビ割れが数十メートル毎にあり、運転していてもスピードを出せません。

【③ 冬の停電は悲惨。電柱は傾いているものが目立つ】
 電柱は相当数が傾いているのがすぐ目に付きます。地震の激しさがわかり、ビックリします。相当ひどい電柱には、補助柱の補強で仮復旧してものもあります。この地域の停電は、震災後数日から10日前後らしく、比較的早い復旧地域のようです。

 冬の停電は悲惨でした。今やストーブも電源が必要なものが多く、暖房が困難でした。家中の壁、ガラス破砕、品々の散乱、さらなる余震の心配もあり、実家の家族は数日間車の中で夜寝たという。地震の前日にガソリンを満タンにしていたのが幸いだったそうです。避難所も、灯油等が無く、大変な時期が長く続いたそうです。

 農村部にも、オール電化の住宅が普及していますが、その家庭は停電の影響が大きかったそうです。
夜、灯りをつける事ができた家庭は自家発電機を持っているか、太陽光発電を採り入れた家庭であり、それらの家ではTVも見られたそうです。

【④ 上水の復旧に20日以上かかった】
 上水の断水が、相当大変だったようです。農村地域も100%自治体上水道化となっています。食事はもとより、洗濯、風呂等が厳しい状況でした。

 幸い、実家は野菜のビニール栽培用に自家用井戸を持っていました。地域で持っていた一台の災害用自家発電機を使って井戸から水を汲み上げたそうです。自宅の産直センターでは照明もついて、地域の食事と水の提供場所になったそうです。他地域でも井戸が大活躍したそうです。

【⑤ 都市ガス復旧の遅れ】
 都市部は、都市ガスが多いがその復旧に時間がかかって困った体験をしています。電気が回復しても、
食事や風呂用の熱源が使えない状態となりました。プロパンガスの家庭は、比較的早く復旧したそうです。

【⑥ 下水がまだまだ復旧せず、非常に深刻な問題】
 大崎市も農村部への下水化が進んでいますが、一番遅れているライフラインが下水の復旧です。実家は、家の前まで下水管がきており、今年個別管接続を検討していたそうですが、当面見込みは立たない状況となっていました。すでに下水導入済みの家庭はほとんど復旧しておらず不便な状態が続いています。自治体は、簡易トイレは暫時設置していますが、色々な方々が使用し、衛生管理が大変なようで、敬遠する方もいるようです。

 バクテリアによる浄化槽を備えた実家の産直センターにあるトイレはかなりの期間、地域で利用されたようです。家に畑を持っている家庭では、穴を掘って排泄した家もかなりあるようです。

 余り、下水問題は報道されていませんが、ライフラインとしては今一番困っている課題の一つですね。

【⑦ 通信ケーブル、通信基地局建物破壊した地域の復旧が遅かった。BCP対策が課題】
 光サービスと携帯電話は、地域によって復旧に差が起きたようです。通信ケーブルが切断された地域は、固定電話やインターネットに影響が出た。携帯電話は基地局破壊の地域は遅れたが、それ以外は直後に復旧したそうです。

 先般報道の通り、またソフトバンク自身が反省している通り、東北地域でのドコモとauの契約は増加したが、ソフトバンクの携帯はつながらないということで契約は横ばいだったようです。都市部のiPhone(アイフォーン)人気は大きいですが、東北ではインフラ投資への姿勢の差が災害時に表面化しました。

 企業のサーバで、バックアップとっていない会社は今大変苦労している話を聞きました。中小企業が多い地域では、BCP対策はまだまだの印象を持ちました。

【⑧ お寺の墓石はほとんど倒壊状態】
 3月11日と4月7日の大きな地震で、各地のお寺の墓石はほとんど倒れているそうです。私も、実家の寺を訪ねて驚きました。90%位は、程度は様々ですが倒壊していました。今、生活に必要なことにお金が必要で、墓の再建は相当時間がかかるように思いました。

東北出身者が多い関東の兄弟、親戚の支援が必要と感じた次第です。贈与や相続税制の緩和が必要ですが、民主党政府はむしろ相続税への課税強化をしています。改善を強く要求する必要を感じました。

【⑨ 企業、商店等の災害被害と消費不振で失業増加】
 ほとんどの地域でライフライン復旧に時間がかかっており、3~4月は避難と復旧作業に忙殺されていました。5月以降になって少し落ち着いてきていますが、雇用問題が表面化しつつあるようです。

 企業や商店が被災して、復旧に時間がかかるために、資本力のない企業や商店が再建を断念して閉鎖し、失業が起きています。

【⑩ 心身の負担による病気、死亡。地域医療体制の再建が課題】
 私の弟も、4月に病気となり入院中で、見舞いのため市立病院を訪ねました。本来は、専門病院に移送予定でしたが、地域中核病院は海岸部の病院破壊や避難の広域化もあって満杯状態で、移送がどんどん遅れています。

 神戸淡路大震災後にも起きましたが、今回も震災後の心身の疲労と避難の長期化で病気と死亡の動きが見られるとのことです。

 地元宮城の河北新報(5月15日号)によると、宮城県は震災被災地の地域医療の再建策を協議する「地域医療復興検討会議」(仮称)を18日設立すると報道されていました。

(2)『東北人の魂は耐えて、震えている』

 ツイッターで、毎日『災害復興、経済復興、日本再生』のタイトルで発信していましたが、宮城県の震災現場を訪ねて、何をどう語ればよいのか、手が止まってしまいました。

帰途に、仙台駅前の書店で地元の雑誌、書籍等を探し、数冊購入しました。その中に、東北にゆかりのある作家、学者等の震災体験を綴った本『仙台学 Vol.11 東日本大震災』があり、新幹線の中で読みました。皆さんが、同じように当初は書くことをためらったが、語り部が必要だと思い直し、ペンをとったと書いており、私と同じ思いにあったのだと勇気をもらい、この報告を即日書くことを決意しました。

その本の中で私のいたく感じ入った文を引用して紹介します。


【宗教学者 山折哲雄『東北人の魂は耐えて、震えている』】

「こんどの巨大地震は、端的にいって「東北」そのものを直撃したのだということです。それ以外の何物でもない。そして福島原発の一部損壊による放射能汚染も、ほかならぬ東北の福島の心臓部におそいかかったということにほかなりません。しかも、その「東北」の原発が「東京」の電力をまかない、「東京一極集中」の虚飾にみえた繁栄を支えていたということであります。・・・
 
いま私は、「東北」の魂が耐えに耐えて、震えるものを感じています。「東北」のいのちが、しずかに身じろぎし、日本に向かって、世界に向かって立ち上がろうとしている気配を感じています。」(参考文献1)

【作家 伊坂幸太郎『震災のあと』】

 「僕は今回の震災で、こういった際にいかに自分が無力であるかを痛感した。今も痛感している最中だ。このままではいけない、と思ったのは、つい先日、友人からのメールが来たからだ。仙台に住む、公務員の彼は、被災者の支援や本来の業務で、とてつもなく忙しいように感じられるのだが、「今が、公務員の頑張りどころだから」と書いていた。

そうか、と思った。こういった事態でがんばるために公務員になったのだ、とそういった強い気持ちが伝わってきた。おそらく、彼だけではなく、たくさんの人が、「ここがふんばりどころだ」と仕事しているに違いなく、それを思えば、いつまでもくよくよしているわけにはいかないと思った。」(参考文献1)

【作家 佐藤賢一『光のページェントまで』】

「“もう光のページェントはみられないの”とも、子供たちには質された。いわれてみれば、最後に仙台を訪れたのが昨年の暮れ、買い物がてら家族で光のページェントをみにいったときだった。定禅寺通りの欅並木が、無数の電球でライトアップされる。いわずと知れた、杜の都の冬の風物詩である。・・・
 
“うん、またみたいねえ” 子供たちに答えながら、私は思う。

また、光のページェントをみたい。実感がないならないなりに、綺麗だなあと夜空を仰いだ思い出をよすがとして、この悲劇を忘れないようにしよう。ああ、また光のページェントをみたい。みられるようになるまでは、自分に何ができるか考え続けよう。それが数種の葛藤を折り合わせた、今の私の思いである。」(参考文献1)

 私はまぎれもない東北人である。「伊達男」と冗談を言うこともあった。2日間の被災地への旅は鎮魂と希望への祈りとなった。そして、東北人の震える魂に寄り添っていきたいと思った。

以上

(参考文献)
1.雑誌『仙台学 Vol.11 東日本大震災』((有)荒蝦夷 2011年4月26日第一刷)
2.河北新報 2011年5月15日号

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thumbnail_sasaki佐々木 昭美(ささき あきよし)

取締役会長 総合研究所所長

経営コンサルタント(経営改善、事業開発、ビジネスモデル、 人事戦略、IPO、M&A、社外取締役)

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