佐々木昭美のBIエッセイ 明るく楽しくイノベーション
2011/02/14 ホンダ2010年度第3四半期決算――北米・新興国が大幅増益、日本も黒字転換で急回復。
先週9日、自動車8社が2010年4~12月累計決算と2011年3月期決算見通しを発表しました。ホンダの決算概要の分析を通じて、世界経済と経営の最前線を皆様と一緒に考えたいと思います。特に、10~12月期はエコポイント終了と円高為替の影響が顕著に反映する時期ですので、将来を考える上で大変参考になると思っています。
私は、日本のGNPに占める割合の大きい2大産業である自動車業界と情報通信業界を定期的にモニターしています。自動車業界は他の製造業と同じく日本の市場も大きいですが、海外の市場開拓が比較的進んだ世界的にも大きな産業です。
日本自動車業界の成長戦略と商品開発動向について、2010年7月26日BIエッセイ「 熱い成長戦略が報道されたホンダ・トヨタ」を執筆しました。(詳細はこちら>>)
また、2010年11月1日にはBIエッセイ「 ホンダ上期増益決算がはっきりと示した「BI経営(事業開発と経営改善の両輪経営)」の王道」を執筆しました。(詳細はこちら>>)
(1)ホンダ2010年4~12月累計決算が示したもの――事業開発と経営改善の両輪経営で大幅増益
図表1 ホンダ2010年4~12月累計 地域別売上高・営業利益ホンダが9日発表した2010年12月期連結決算は売上高が6.7%増の6兆7、237億円、営業利益が前年同期比95.6%増の5、235億円と大幅な増益になった。一方、2011年3月期の業績予想は、エコカー補助金制度の打ち切りによる反動減や円高の影響で、売上高を3.7%増の8.9兆円に更に1000億円下方修正しました。ただ、コスト削減効果や円高への経営努力などを見込み営業利益は70%増の6、200億円(従来予想比1、200億円増)と大幅上方修正しました。
【事業セグメント別状況】
(二輪事業)
日本は微増、北米微減、欧州横ばいもアジアの大幅販売増で全体として売上台数は16%増加となりました。
(四輪車事業)
日本は9月上旬までのエコカー購入補助金効果もあって上期売上台数は、32万2千台と前年同期にくらべ12.6%の増加となりましたが、エコポイント終了後の10~12月期は前年同期177万台が118万台と33%も減少した。結果、第3四半期累計で前年46万3千台から今期は44万台と前年を下回った。
海外売上台数は、欧州地域で引き続き減少したものの、北米地域で110万2千台やアジア地域77万台と上期中心に大幅増加したことなどにより、前年同期にくらべ増加となりました。
四輪事業合計では、日本の第3四半期減少が大きく、265万2千台と前年同期にくらべ5%の増加にとどまっています。
【所在地別セグメントの状況】
日本は203億円の赤字から879億円の黒字に1082億円収益を改善し、北米は1、107億円の大幅増益、欧州は赤字継続でしたが、アジアは356億円の増益となり、全社として大幅増益となりました。
【増益要因は、北米・新興国増収と日本での減価低減、円高対策】
図表2 増益要因、減益要因分析とBI経営
第3四半期累計の増益要因は注目すべきものです。
円高による為替関連の減益要因は、マイナス966億円と巨大なものでしたが、北米やアジアを中心とした売上増加による増益要因は、2,864億円とそれをカバーする結果となっています。新興国需要の継続した増加と北米市場の回復をはっきりと示しています。一企業で世界経済の流れを変えることはできませんが、世界経済の流れに企業が適応すればその成果も大きいですね。
一方、販売費及び一般管理費279億円や研究開発費384億円の増加があったものの、増産に伴うコスト効率、コストダウン効果などにより1,292億円改善し吸収しています。並みの努力では、円高の為替減益要因をカバーできませんが、フィットハイブリッドの発売等増収努力、徹底した原価、コスト削減等の経営改善努力の成果が日本事業で1082億円の収益改善という数字に表れています。
総じて、事業開発と経営改善の両輪経営がしっかりとホンダの収益回復の要因であることを示しています。BIPが一貫して提唱しているBI経営(ビジネスインテグレーション(事業開発) +ビジネスインテリジェンス(経営改善)の両輪経営)の王道の大切さを改めて再確認する結果でした。
フィットハイブリッドが10月より発売され、フィット新規購入の70%がハイブリッドであるという。10~12月でフィットハイブリッドが日本販売NO.1車となったようです。ホンダの事業開発、成長への挑戦は続いています。
(2)海外が主戦場となった日本の自動車産業――海外比率トヨタ77%、ホンダ86%、日産89%
図表3 トヨタ、ホンダ、日産の海外比率
2010年10~12月期だけの海外比率は、エコポイント終了した日本の売上高大幅減少の影響もあり、日本の自動車各社の海外比率は大幅に上昇し、海外が主戦場であることを鮮明に示しました。
トヨタは、前年同期より5.9ポイント多い77.6%、ホンダが5.5ポイント多い86.1%、日産が5.0%多い89.1%とそれぞれ拡大しました。
需要増の新興国は、米国、欧州、韓国、中国の自動車メーカーや現地自動車メーカーとの激しい競争を勝たねばなりません。
日本は、中国、韓国、インド等との自由貿易協定(FTA)を結んでいないので、日本からの輸出では関税面で不利なので、東南アジア諸国連合(ASEAN)と第3国間FTAを利用して輸出する動きが急増しています。経済産業省の調査でも、ASEAN4(マレーシア、タイ、フィリピン、インドネシア)から自動車などの輸送機械の輸出額はこの5年間で2.8倍に増加しているという。
日産自動車はタイとインドで生産するマーチでFTAを使って部品を相互に融通しているそうだ。
ホンダは、2009年にタイからインドへの完成車の輸出を開始しており、最も競争力ある地域から部品調達を増やしている。
トヨタは国内雇用を重視し、国内生産で海外輸出比率が多いが、国内事業は国内需要減少と輸出の為替の影響等もあり赤字であるが、国内事業黒字化の方針化を急いでいるという。その内容が注目される。
自動車メーカーとパートナーである日本部品メーカーへの影響も大きい。競争力ある内外研究開発拠点と国内生産、現地生産のマネジメントグローバル化の姿がどう変化するかも注目されます。
以上
(参考文献)
1.本田技研工業株式会社 2010年度第3四半期決算説明会
2.讀賣新聞 2011年2月10号朝刊
3.日刊工業新聞 2011年2月10日号
4.日本経済新聞 2011年2月13日号朝刊