佐々木昭美のBIエッセイ 明るく楽しくイノベーション
2010/09/06 未知の至福①「半年で50万部突破!栃木県在住柴田トヨさん98歳の詩集『くじけないで』」
新暦9月となりましたが、気象観測始まって以来の残暑だそうですね。暑さのせいもあり、私の週末は冷房の力を借りて、自宅での読書とCD鑑賞が増えました。皆様、いかがお過ごしでしょうか。今年は、国民読書年。昨年9~11月に「読書の秋」シリーズを4回書きました。今年は、千夜千冊で有名な松岡正剛著『ちょっと本気な 千夜千冊 虎の巻 読書術免許皆伝』に着想を得て、「未知の至福」というタイトルで自分でも思いがけない読書世界にも跳んでみたいと思います。
産経新聞「朝の詩(うた)」から生まれた柴田トヨさん白寿の処女詩集『くじけないで』が、3月に出版してすでに50万部を突破するベストセラーになったと知って読みました。
短い言葉に込められた深い強い思いに感動しました。男の目にも涙が溢れました。
(1)半年で驚異の50万部突破!NHK「おはよう日本」、フジテレビ系「とくダネ!」、朝日新聞「天声人語」、日本経済新聞ほかメディアで大反響!!
この本は、産経新聞「朝の詩(うた)」に掲載された35点と下野新聞に掲載された3作品や未発表4作品の42作品を収録した処女詩集です。3月に出版してすでに50万部を突破するベストセラーだそうです。上記のように多くのメディアにも取り上げられています。著者柴田トヨさんの簡単なご紹介をします。
柴田トヨ(しばた・とよ)
*1911(明治44年)6月26日、栃木市に生まれる。
*裕福な米穀商の一人娘だったが、十代の頃に家が傾き、料理屋などへ奉公に出る。
*33歳の時、調理師の柴田曳吉と結婚し、翌年、健一を授かる。
*曳吉とは、1992(平成4)年死別。以来、宇都宮市内で一人暮らしをしている。
*趣味:若い頃は読書、映画、歌謡曲鑑賞。熟年時代は日本舞踊。現在は詩作。
*好きな俳優:長谷川一夫、山本富士子、八千草薫、市原悦子、水谷豊。
*好きなテレビ番組:「家政婦は見た!」、「相棒」シリーズなど。
*夢:自分の詩作が翻訳され、世界中の人に読んでもらうこと。また、同郷の作曲家船村徹に詩集を読んでもらうこと。
(2)私が特に感動した五編-「母」「私」「風呂場にて」「くじけないで」「二時間あれば」
私の特に感動した五編を引用してご紹介したいと思います。
【母 Ⅰ】
「亡くなった母とおなじ 九十二歳をむかえた今 母のことを思う
老人ホームに 母を訪ねるたび その帰りは辛かった
私をいつまでも見送る 母
どんよりとした空 風にゆれるコスモス 今もはっきりと覚えている」(参考文献1 P12~13)
私も三年前、一言も言葉をかわすこともなく母を失った。やはり暑い夏だった。今でも信じられない。いつまでも子を思う心だろう、寂しさもあっただろう、字は少し乱れていたがしっかりとした文面の手紙を偶然去る直前にくれました。今も大事にしまっています。母とは、特別な人なのですね。柴田トヨさんのお母さんも優しく強かったに違いない。
【私 Ⅰ】
「九十を過ぎてから 詩を書くようになって 毎日が 生きがいなんです
体は やせ細って いるけれど 目は 人の心を 見ぬけるしさ
耳は 風の囁(ささや)きが よく聞こえる 口はね とっても達者なの
「しっかり してますね」 皆さん ほめて下さいます
それがうれしくて またがんばれるの私」(参考文献1 P )
90歳過ぎてから詩作を始めた柴田トヨさんに率直に驚く。しかも、産経新聞「朝の詩」に35点掲載された腕前に更に驚く。詩人で「朝の詩」選者である新川和江さんは、「トヨさんのように生きて行こう」という題でこう敬意を表している。
「たくさんの応募ハガキの中から、トヨさんの詩がひょっこり顔を出すと、いい風に吹かれたみたいに、さわやかな気分になるのです。ああ、わたくしも、「トヨさんのように生きて行こう」と、誰に会うわけでもないのに、毎朝鏡に向かって、うすく口紅をさします。そう、トヨさんを真似て生きて行くわたしに、会うために、です。
今もなお、みずみずしい感性をお持ちでいらっしゃるとは、なんと素晴らしいことでしょう。専門の詩人の世界においても、それはきわめて稀なことです。」(参考文献1 P4~5)
【風呂場にて】
「風呂場に 初日が 射し込み 窓辺の水滴が まぶしく光る朝
六十二歳の倅に 朽ち木のような体を 洗ってもらう
ペルパーさんより 上手くはないけれど 私は うっとり 目をつぶる
年の始めのためしとて―― 背後で 口遊(くちずさ)む歌が聞こえる
それは昔 私が お前にうたってあげた歌」(参考文献1 P48~49)
六十二歳の息子に体を洗ってもらう柴田トヨさんの無上の喜びが強く伝わってくる。私のすでに亡くなった父母も、実家で同居する実兄やそのお嫁さんへの感謝の言葉を、遠く離れた私に漏らすことがあった。普段は口ゲンカもあったようであるが、身近に我が息子がいる安心感に優るものはなかったに違いない。長兄夫妻に感謝し過ぎることはない。
【くじけないで】
「ねぇ 不幸だなんて 溜息をつかないで
陽射しやそよ風は えこひいきしない
夢は 平等に見られるのよ
私 辛いことが あったけれど 生きていてよかった
あなたもくじけずに」(参考文献1 P54~55)
本書のタイトルとなった詩作です。「陽射しやそよ風は えこひいきしない」という凜として真実を伝える言葉が温かく感じるから不思議だ。当たり前ではあるが、たとえ厳しい現実にも向き合うしかないのよ、陽射しやそよ風の心地よさに喩えて明るく背中を押してくれる。生きていれば必ずいいことがあるよ、98歳の柴田トヨさんが励ましてくれる。
【二時間あれば】
「世間には まだ解決されていない たくさんの事件がある
コロンボ警部 古畑仁三郎警部 二人が協力してくれたら
犯人をきっと つかまえてくれる筈
二時間あれば」(参考文献1 P84~85)
私も好きで良く見たテレビ番組を柴田トヨさんもしっかり見ていたらしい。ウィットが効いた詩ですね。「相棒」シリーズの俳優水谷豊も好きなそうだ。「98歳でも恋はするのよ 夢だってみるの 雲にだって乗りたいわ」と詠うみずみずしい「秘密」という詩もあります。
もうすぐ100歳!柴田トヨさんの人生讃歌をあなたも味わってみませんか!
あっという間に読めて、じっくりと心に効いてきます。
以上
(参考文献)
1.柴田トヨ『くじけないで』 (飛鳥新社 2010年3月25日 初版第1刷発行、8月26日 第13刷発行)
2.松岡正剛『ちょっと本気な 千夜千冊 虎の巻 読書術免許皆伝』 (求龍堂 2010年6月18日 第4版)
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