佐々木昭美のBIエッセイ 明るく楽しくイノベーション

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2009/09/28 秋美遊① 待望の旭山動物園探訪と札幌美術館散策

 9月秋のシルバーウィーク。快晴に恵まれ、私は初めて待望の旭山動物園を訪ねた。本当に愉快で楽しい時間を直接体験出来ました。年間300万人に親しまれる日本最北の動物園は、世界最新の「行動展示」が大きく発展していました。レストランの食事(人気のスープカレー、うに焼き、ハッシュドビーフパイ包み)も大変美味しかったですよ。
 
 ほっきょくぐま館、あざらし館、ぺんぎん館、さる山、おらんうーたん館、サル舎、総合動物舎、もうじゅう館、チンパンジーの森、くもざる・かぴばら館、シカ類、北海道産動物、小獣舎、は忠類舎、ととりの村、ワシ・タカ舎、キジ舎、タンチョー舎。

 やはり実際に見ると楽しさが格別である。動物の目を傷つける、光を恐れて展示場に来なくなる恐れがある等でフラッシュ撮影は絶対禁止なので、自然光で多くの写真を撮りました。大混雑の中での短時間ずつの素人撮影ですが、野生動物の素顔を是非皆様にご覧頂き、一緒に楽しんでほしい、そして訪問して欲しいと思います。

 今年2月に、映画『旭山動物園物語―ペンギンが空をとぶ』を観て感激し、是非旭山動物園を訪れたいと思っていました。その時の感動をBIエッセイに書きました。角川映画様のご好意で長期に画像使用を許可頂いておりますので、再度ご紹介します。「動物はすごい。動物は楽しい。夢を一つ一つ実現していく人間はもっともっと素晴らしい。何度も感激の涙を流しました。」(BIエッセイ 2009年2月16号『映画「旭山動物園物語-ペンギンが空をとぶ」を観ましたか』詳細はこちら>>

 旭山動物園訪問翌日、フリーな半日を札幌美術館散策で過ごしました。約20年ぶりに、道立近代美術館、道立三岸好太郎美術館を訪ね、また、新しい発見に出会いました。

(1)快晴の旭山動物園:野生動物の素顔、しぐさ、迫力に歓声、笑顔の波

旭山動物園にて 旭山動物園にて

 快晴の秋、旭山動物園は溢れんばかりの入園者の歓声・笑顔に満ちていた。旭山動物園は、野生動物の本来持っている素顔、しぐさ、意外な能力や迫力を伝えようと必死で研究努力していると感じた。動物はすごい。動物は楽しい。その野生の素顔を自然に引き出す人間たちもすごいと驚嘆した。もぐもぐタイム、手書き看板、ワンポイントガイドなど野生動物の素顔を情報発信する飼育展示係の「場のプロデュース」が温かい。
 
<①ほっきょくぐま館 2002年完成>
旭山動物園にて「ほっきょくぐま館」
 地上と水中と両方観察できる。威風堂々の北極の猛者ホッキョクグマを見た。人間を獲物と間違えての水中ダイブの迫力は有名である。

<②あざらし館 2004年完成>
旭山動物園にて「あざらし館」
 北極圈の岩肌を想定した疑岩の環境。海の豹と書いてアザラシ。ゆったりしていて、ごろんとした体つきがわかりますよね。ところが、水中では想像もできない位俊敏である。

<③ぺんぎん館 2000年完成>
旭山動物園にて「ぺんぎん館」
 空飛ぶペンギンを見ようと、水中トンネルへの順路は長い長い待ち行列であった。冬期開園期、毎日行われるキングペンギンの散歩にもたくさんの人だかりができるのは有名である。

<④おらんうーたん館 >
旭山動物園にて「おらんうーたん館」
 もともと高い樹上生活のオランウータンの生態を引き出す空中放飼場。毎日動かないでのんびりの動物の姿がほほえましい。一旦動き出すと空中の動きは迫力があるそうです。

<⑤サル舎>
旭山動物園にて「サル舎」
 4種類の多彩な顔ぶれの個性的サルが見られる。アフリカ出身のアビシニアコロブスとブラッザグエン。東南アジア出身のシロテナガザルとワオキツネザル。

<⑥総合動物舎>
旭山動物園にて「総合動物舎」 旭山動物園にて「総合動物舎」 旭山動物園にて「総合動物舎」
 キリン・カバ・サイ等の草食大型動物と大きな鳥エミュー、ダチョー、ペリカンが近くに住む。鳥類では世界最大がダチョウだという。キリンに負けずと首が長い。スローな動きのサイを見ていると、動物たちはどんな進化で今の体になったのか不思議に感じる。

<⑦くもざる・かぴばら館 2005年完成>
旭山動物園にて「くもざる・かぴばら館」
 写真のカピバラをじっと見ていた。微動だにしない。一日のんびりとマイペースで過ごすという。すばしっこいクモザルとの同居で対照の妙を見せる狙いという。

<⑧小獣舎>
旭山動物園にて「小獣舎」
 不思議なひょうきんな動きのシロフクロウ。寝ていると思いきや一定時間間隔で首をくるっ、くるっと回転させ、見ていて愉快である。レッサーパンダ、アライグマ、ウンピョウ、ホッキョクギツネ、アフリカタテガミヤマアラシなど個性的動物が集まる。

(2)動物たちの命のメッセージ:旭山動物園板東元新園長の野生動物への思い

参考文献
映画『旭山動物園物語―ペンギンが空をとぶ』の監督で俳優の津川雅彦氏は、旭山動物園のすばらしさを次のように賞賛する。

「『生命の平等』をテーマとし、自然破壊や絶滅動物にも関心を持たせる日本の最北の動物園『旭山動物園』が発信したその偉大なテーマは、遙かに将来に向けて明るく、そして心を暖め、奥深さと広さを合わせ持った世界最新最高のテーマパークなのだ!」(参考文献2:158ページ)

 “旭山動物園の奇跡”のリーダー小菅園長とはどんな人かを2月のBIエッセイで書いた。今回は小菅園長の定年(現在名誉園長)に伴って、今年4月に新園長に就任した板東元(ばんどう・はじめ)新園長の思いを著作『動物を向き合って生きる』から私なりの視点で紹介する。誤解、誤読があれば、お許し願いたい。

 幼少期の虫、鳥たちとの時代、酪農学園大学での獣医への道、そして旭川動物園での野生動物との出会いと、個人史が前半を占める。動物への愛着と心の成長体験がよく伝わってくる。そして今、副園長から園長となり、公的リーダーとなった板東氏の伝えたいことに興味を持った。動物のプロは、私たちに何を言いたいのだろうか。長いが引用する。

『旭山動物園には、信じるところがあり、伝えたいメッセージがある。それは、野生動物は、ペット種でも家畜種でもないということ。野生動物はすごいんだ!ということ。それを伝えるために、人間の感覚ではなく、動物の側に立って展示をする。人間の側に立って、「かわいい」とか、ショーをするから「えらい」というのではなく、その動物が本来持っている能力や動きをありのままに見てもらいたい。・・(略)・・それからもうひとつ、ぼくが伝えたいと思っているのは、「将来の地球環境を考える」ということだ。・・(略)・・多くの人が子供のときに「生の野生動物」を見て、オーラのような何かを感じたとしたら、「地球は人間だけのものではない」と考える心を持つことができるのではないか。-野生動物は絶滅させてはいけない。言葉ではなく、それがピツとわかる感性が一番強い力になると思う。そのために、動物園は必要なのだと、とぼくは思っている。』(参考文献3:193~200ページ)

 私は、人類発生以来の動物と人間との関係、動物園の歴史等詳しく知らない。しかし、動物のプロが、今考えていることを率直に発信してくれることは良いことだと思う。謙虚に専門性の持つ先進性と普遍性を深め、市民、お客様との対話の中で、お互いの未来を一緒に探る新鮮なムーブメントに発展することを願っている。

(追記)札幌の道立近代美術館、三岸好太郎美術館を散策

道立近代美術館 三岸好太郎美術館にて 参考文献

 旭山訪問翌日、札幌在住時代によく散策したコースを約20年ぶりで歩いた。大通り西18丁目地下鉄駅で降りる。道立近代美術館と道立三岸好太郎美術館を鑑賞、喫茶倫敦館で休憩し、植物園周辺を歩き、札幌駅に到るコースである。

 道立美術館で「北の光をうたう中野北漠の世界」展(参考文献5)を観た。北漠は北海道焼尻島出身の書家である。漢字仮名交じりの近代日本語を題材とする「近代詩文書」という表現を初めて知った。展示写真が撮影できないので、齊藤千鶴子『金子鴎亭-近代詩文書の開拓者』(参考文献4)の表紙写真をご覧頂きたい。『北漠は「近代詩文書」を提唱した書家・金子鴎亭(1906~2001年)に師事している。』(参考文献5:181ページ)

 札幌出身の洋画家三岸好太郎美術館は、私の大学後輩で美術専攻のI氏が一時学芸員で勤務しており、たびたび訪ね、会話を交わした思い出深い場所である。今は、宮城県に戻り、大学で教鞭を執っていると聞いた。画家三岸については、工藤欣弥・寺嶋弘道『三岸好太郎-夭折のモダニスト』(参考文献6)という良いガイドブックがある。
以上

(参考文献)
1.今津秀邦 監修 旭川市旭山動物園『ガイドブック旭山動物園』((株)エムジー・コーポレーション 2007年5月)
2.週間SPA編集部編『旭山動物園の奇跡』(扶桑社 2008年6月)
3.坂東元 著、あべ弘士 絵『動物と向きあって生きる』-旭山動物園獣医・板東元(角川学芸出版 2008年11月)
4.齊藤千鶴子『金子鴎亭-近代詩文書の開拓者』(北海道新聞社 2006年3月)
5.図録 北海道立近代美術館『北の光をうたう中野北漠の世界』(中西出版(株) 2009年9月)
6.工藤欣弥・寺嶋弘道『三岸好太郎-夭折のモダニスト』(北海道新聞社 1988年4月)

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≪一部再録≫

BIエッセイ2009年2月16日号『映画『旭山動物園物語―ペンギンが空をとぶ』を観ましたか』より詳細はこちら>>

(3)“奇跡”のリーダー小菅園長とはどんな人か
―『<旭山動物園>革命』『戦う動物園』『生きる意味って何だろう?』を読んで感じたこと―
参考文献
 今回は映画の紹介が主ですが、モデルとなったリーダー小菅園長に興味を持ち、著書を読んでみました。私は、「ビジネスモデル改革経営論」「人間力と経営技術力による改革実践力育成」とでもいうべきコンサルティングを研究・実践しています。劇的な変革は、ビジネスモデルの改革創造を伴う場合が多く、推進する改革人材の広がりが大事であることが知られています。自治体が直轄して経営する動物園とはどういうものか、公営組織が変革するプロセスにも大変興味を持ちました。成功モデルの特定解を知り、そのリーダーをもっと知りたいと思いました。

 本のタイトルは、一見現職公務員の著書とは思われない激しい言葉となっていますが、リーダーを体験した方は当然過ぎる、共感するキーワードです。各著書で写真を拝見すると、体育会系らしいがっちりした体格ですが、表情は温厚で、落ち着いた風格を感じます。私と同じ昭和23年生まれの団塊世代で、北海道大学獣医学部を卒業して旭山動物園に就職したそうです。著書には、透徹した人間観、世界的な動物園の歴史観・経営論が背景にあります。公的組織リーダーとしての改革へのメソッドの厚みがあり、根底には、命と生き方に対する精神性などが脈々と流れています。エンターテイメントの卓越した監督と考えるだけだったら、得意の柔道で投げ飛ばされてしまうに違いありません。

 誰もが聞きたい質問にこう答えています。
『「旭山動物園には、上野動物園のように、パンダなどの珍獣がいるわけでもないのに、どうしてこれだけの人気が集まったのでしょう。」よくそんな質問を受ける。ペンギン、アザラシ、ホッキョクグマ、オランウータン、ニホンザル、ゾウ・・・、旭山動物園にいる動物は、どこの動物園にもいる種類だから、そういう質問がでるのも当然といえば当然だろう。質問に対する答えを一言でいえば、「見せ方を工夫したから」である。それまで動物園は、動物の姿形を中心に見せてきたが、その方法を根底から変えたのだ。・・(略)・・私たちが何よりも優先して考えたのは、その動物にとってもっとも特徴的な能力を発揮できる環境を整えることである。』(参考文献1:14~15ページ)

 その改革の原動力は何でしょう。旭山動物園には1975年より30年以上続く月1回以上の勉強会があり、危機の時にこの勉強会が「理想の動物園」プロジェクトに発展していきました。動物園とは、『整理すれば、「レクリエーションの場」「教育の場」「自然保護の場」「調査・研究の場」の四つの役割がある。』(参考文献1:23ページ)動物園の展示方法は、動物の側になって考える事。その時、飼育係の経験、世界の研究が基礎になってアイデアが生まれる。「学術的知識は、よい展示をつくる」と小菅園長は表現しています。

 改革に必要な組織は何かと問うている。北大柔道部時代が原点だとして、「限界を超えて、自分自身と戦える人材の育成」を目標にする。企業の経営にも通じる厳しく困難だが本質的なテーマを掲げています。また、『もう一つ私が大事にしているのは、失敗を恐れずチャレンジする気持ちである。私は、アイデアを考えたのに、実行に移さない人には怒ることがある。失敗なしで成功する人間なんていない。生物の進化は、数え切れないぐらいの遺伝子の失敗があり、たまたまうまくいった一つの突然変異が、遺伝して増えていくのである。だからやってみなければわからない。失敗しながら進んでいくしかないのだ。』(参考文献1:107ページ)

 動物園の歴史と新たな役割も紹介しています。我々一般の者が、動物園を理解してほしいという願いと親切心でしょうか、日本の動物園年表も初めて読ませて頂きました。小菅旭山動物園園長は、動物や自然を代表して私たち人間一人一人にとって考えるべき多くのメッセージを発信している。

『旭山動物園の主なスタッフは皆、「動物園に出す金はドブに捨てるようなものだ」と言われた時代を経験している。そのいちばん苦しいときに、「自分たちのやっていることの意味はなにか?動物園の社会の中での意味はなにか?」をぎりぎりまで問いつめた経験を旭山動物園のスタッフは皆、もっている。その答えが野生動物の命を感じてもらうことだった。』(参考文献2:66ページ)
10名前後の飼育メンバーから始まった変革精神の真髄は骨太い。嵐のような「革命」的入園者数の増加を支えているバックボーンである。
(参考文献)
1. 小菅正夫『<旭山動物園>革命―夢を実現した復活プロジェクト』(角川書店 2006年2月)
2. 小菅正夫・岩野俊郎著・島泰三編『戦う動物園』(中央公論新社 2006年7月)
3. 小菅正夫『生きる意味って何だろう?―旭山動物園長が語る命のメッセージ』(角川書店 2008年12月)

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