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2009/01/26 オバマ新大統領『就任演説』からエッセンス(真髄)を読む

1月20日、バラク・オバマ(以下、オバマと略称)第44代米国新大統領が就任しました。米国民だけでなく世界の人々が注目した約20分の就任演説全文を何回も読みました。スピーチライターが、27歳のジョナサン・ファブロー氏であるのも驚きです。皆様は、もう読みましたか。

 2月頃に米国議会で行うであろう「施政演説」とは異なり、詳細な政策発表ということではなく、世界の大国米国の新しい時代認識と価値観、基本姿勢を示す重要な演説である。我々日本人の国益と人生にも大きな影響を与えると思い、そのエッセンス(真髄)を知りたいと思った。私たちの人生も、大きな歴史の影響の中にあることは、疑いようがない。
(参考 BIエッセイ2008年2月4日号「仕事・愛・未来―雪の鳴子温泉で朝まで熱い男女55名」)

 演説の背景を詳しく知りたいと思い、バラク・オバマ Barack Obama『合衆国再生―大いなる希望を抱いて The Audacity of Hope』を再読した。民主、共和両党のイデオロギー原理主義を否定し、現実の普遍的価値観を尊重すると述べている。

讀賣、朝日、産経新聞各紙は22日、日経新聞は24日に全文を掲載しました。日本語訳と構成は各紙微妙に異なるので、後発で練る時間があったと推察される日経新聞の訳文を参考に記載しますので、ご了承願いたい。

オバマ新大統領の就任演説内容(全文)はNIKKEI NET(2009/1/24)をご覧下さい。
 →http://www.nikkei.co.jp/senkyo/us2008/news/20090120e3k2001720.html

(1)我々は危機(テロとの戦争と経済脆弱)のまっただなかにあるが、自信喪失による恐れより希望を選ぶ決意である。

 現状の厳しさと同時に、その原因には、集団的責任という言葉で国民の自省も必要なことをはっきりと求めた。

「我々が危機のまっただなかにいることは、いまや誰もが分かっている。米国は幅広い暴力と憎しみのネットワークと戦争中だ。経済はひどく脆弱(ぜいじゃく)になった。それは一部の人々の強欲と無責任の代償でもあるが、同時に、難しい選択をせず、国家を新しい時代に準備してこなかった集団的な失敗でもある。家は失われ、仕事は奪われ、企業は破綻した。健康保険はコストがかかりすぎ、学校はあまりにも多くの人の期待を裏切る。我々のエネルギーの消費の仕方は敵を強化し、地球を脅かしていることが、日を追うことに鮮明になっている。」

その解決のために、「今日この日、我々は恐れより希望を、争いや仲たがいより目的を共有することを選んだ結果、こうして集まった。」南北戦争による国家分断の危機を挙国一致型政治で打開したリンカーン大統領を尊敬するオバマ氏が、民主党でも、共和党でもない超党派の団結したアメリカを訴えて勝利した価値観を推進することを表明している。

(2)世界一繁栄し、強い国であるアメリカは、再生の作業をもう一度始める。

 アメリカの今日までの発展は、先達の無名の男女の苦闘と犠牲と勤勉の成果であることを中学生でもわかるような具体的例で説いている。そして、再生への決意をこう述べている。
「我々は依然として地球上で最も繁栄し、強い国家だ。・・(略)・・ しかし、現状維持、狭い権益の保護、不快な決断を先送りする時代は間違いなく過ぎ去った。今日から我々は立ち上がり、ほこりを振り払い、米国を再生する作業をもう一度始めなくてはならない。」

 8,250億ドル(約73兆円)の景気対策を打ち出すとされているが、それは将来の変革に結合させる。
「我々は商業の糧となり、我々を結びつける道路や橋、送電網や通信網を造る。科学を本来あるべき地位に引き上げ、医療の質の向上とコストを抑えるために素晴らしい技術を駆使する。太陽、風、大地を使い自動車を動かし、工場を稼働させる。新しい世代の需要に合うように学校や大学を変革していく。これらはすべて実現可能だ。そして我々はこれらをすべてやる。」

(3)再生への道は、政府は小さいか大きいかではなく機能しているかだ。市場は善か悪かでなく監視し制御する。

反ブッシュ路線であると論評することは1面できなくはないが、オバマ氏の著書を読むと正確ではない気がする。古い民主党でも、古い共和党でもない政治理念を志していると思われる。だから、民主党ヒラリー氏を破り、共和党マケイン氏に勝利し、両党支持者の多くがオバマ新大統領に期待しているのではないか。もちろん、最終的評価は具体的政策と実践を見ないとわからないが。

 「皮肉屋は足元で地殻変動が起きているとことを理解していない。時間を浪費しすぎたカビくさい政治論争はもはや通用しないのだ。我々が今日、問うているのは、政府が大きすぎるか、小さすぎるかではなく、機能しているか否かということだ。まともな収入を得る仕事、手が届く保険、尊厳ある老後の生活。これらを各家庭が手に入れられるように、政府が手をさしのべているかだ。答えがイエスな部分については、我々は前進させる。答えがノーな部分については、その事業を中止する。」

 「市場が善か悪かという問題でもない。市場ほど富を生み、自由を広げる力を持つものはない。しかし今回の危機は、市場に対する監視の目がなければ、市場が制御不能に陥ることを思い出させた。国家は成功した者だけを引き立てていては成功できない。我々の経済の成功は、単に国内総生産(GDP)の規模だけでなく、繁栄の広がり、意欲あるすべての人に機会を提供する能力にかかってきた。そうするのは、慈悲としてではなく、共通の利益への最も確実な道だからだ。」

(4)安全と理想に、米国は力と自制両方を行使する。世界は変わった。我々も変わらなければならない。

 「共同の防衛について言えば、安全と理想をてんびんにかける誤った選択を拒絶する。
・・(略)・・先人らがファシズムや共産主義にミサイルや戦車だけでなく、強固な同盟と永続する信念で立ち向かったのを思い起こしてほしい。・・(略)・・我々は、この遺産の守護者だ。」

 「我々は自分たちの生き方について謝らないし、それを守ることに躊躇(ちゅうちょ)しない。自らの目的を達成するために、テロを使い、無実の人たちを殺害する者にいま告げる。我々の精神はあなた方より強く、決して砕けない。あなた方は我々より長続きすることは不可能であり、我々は必ずあなた方を打ち負かす。」

 「イスラム世界に言いたい。我々は互いの利益と互いへの尊敬に基づいた新しい道を求める。対立を助長したり、自国社会の問題を西洋に責任転嫁したりする世界の指導者に言いたい。あなたの国の国民は、あなたが何を壊すかによってではなく、何を築くかによってあなたを判断する。」

 「貧しい途上国の人々に言いたい。畑が豊かになり、きれいな水が流れるようになるようあなたがたとともに取り組んでいく。飢えた体を養い、向上心のある脳を満たしていく。
米国のような国は、もはや国境の外の苦しみに無関心ではいられない。何の考慮もなしに資源を無駄遣いすることも、もうできない。世界が変わったため、我々もそれに合わせて変わらなければならない。」

世界にも率直なメッセージを述べている。日本人の一部の方が、日本の民主党との比較幻想で、米国の民主党の安全保障政策を単純に非戦外交主義、絶対軍縮主義と思うのは歴史的にも現実的にも大きな間違いである。米国の民主党も共和党も、自国と同盟国の安全のため力の行使をためらわない軍事力の必要性の現実を理解する国家である。共和党より人権に厳しいとも言われる面があるし、一方知日派もいるが親中国派、親イスラエル派が多いのも特徴であるとも言われる。

(5)新しい責任の時代だ。自分自身、自分の国、世界に対して義務を負うのが市民だ。
 試練に立ち向かい、未来の世代に自由という偉大な贈り物を送り届けよう。

 「我々が立ち向かう挑戦は新しく、それに立ち向かう手段も新しいかもしれない。しかし我々の成功の礎となる価値観は古い。それは誠実さと勤勉、勇気と公正、寛容さと好奇心、忠誠心と愛国心などだ。これらは普遍の真理である。我々の歴史を通じて前に進む静かな力となってきた。そうであるならば、いま求められているのはこうした真理に立ち戻ることだ。いま求められているのは新しい責任の時代だ。米国人の一人ひとりが自分自身、自分の国、そして世界に対して義務を負うという認識だ。いやいや請け負う義務ではなく、喜んでつかむ義務だ。難しい課題に全力で向かうことほど、精神を満たし、我々らしさを見せることはないからだ。これが市民であることの代価であり、約束である。我々の自信の源泉である。未知の運命を自らの手で形作れと神が呼びかけていることを我々は知っている。これが我々の自由の意味であり、信条である。」

 「希望と美徳によって、氷のように冷たい流れにもう一度勇敢に立ち向かい、いかなる嵐が訪れようとも耐えようではないか。子々孫々が今を振り返った時に、我々が試練の時に旅を終えることを拒否し、引き返すことも、たじろぐこともなかったということを語り継がせようではないか。地平線に視線を定め、神の慈悲を身に浴びて、我々は自由をいう偉大な贈り物を運び、将来の世代に安全に送り届けたということを。ありがとう。」

 このような普遍的価値観と挑戦すべき米国像を表明する黒人初の新大統領を約70%の国民が支持する米国という国家の若さと偉大さに脱帽する。危機にあたって星条旗に結束する米国民の姿を感じる。私も同盟国日本の一人として祈ります。
「神の祝福がみなさまにあらんことを。そして、神の祝福がアメリカ合衆国にあらんことを。」
以上

参考資料
・日本経済新聞 2009年1月24日号13版
・讀賣新聞   2009年1月22日号13版
・朝日新聞   2009年1月22日号13版
・産経新聞   2009年1月22日号14版
・バラク・オバマ『合衆国再生―大いなる希望を抱いて』(ダイヤモンド社2007年12月)

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