2016/09/15 第20回「社内システムが人事制度改訂を阻害しているという会社」
ある上場企業の人事の方と情報交換をさせていただいた中で、その会社の人事制度の話題になりました。
全面改定してから3年以上たち、当初のコンセプトからずれてきていることがいろいろあるそうです。制度見直しや改訂が必要になってきているのは明らかとのことですが、「実はそう簡単には制度を変えられないんです」とおっしゃいます。
よくうかがうと、グループ内のシステム子会社が、社内システムの開発、運用、保守を行っているそうですが、人事系のシステムは何かと使い勝手が悪く、小手先のつぎはぎで、今までいろいろアレンジしてきているのだそうです。
ある部分は独自開発、別の部分はパッケージ製品を利用、さらにそれらをつなぎ合わせるために、カスタマイズ機能を使ったり、独自の作り込みをしたりということが、複雑に絡まりあっているのだそうです。
そんな中で人事制度を改訂するとなると、いよいよ小手先の対応では立ち行かなくなって、人事系のシステムについては全面改訂が必要になるようです。ただ、簡単に試算をしただけも、そのコストがかなり大きなものになることが明らかであるため、簡単には手をつけられないのだそうです。
人事制度上の課題はある程度明らかになっていて、「やりたいことの方向性も、改訂のしかたもはっきりしているが、社内システムとの兼ね合いでそれができない」ということでした。
人事制度を主幹する立場で、意図しているものが進められないことには同情するしかありませんでしたが、企業規模がそれなりに大きくて、社内のIT化が進んでいるような企業であれば、こんな悩みがあることはよく耳にします。これは人事制度だけに限らないことです。
応用が利かないシステムにも問題があると思いますが、すべての業務を詳細に把握しているわけではないシステム担当者と、他部門の業務やシステム全体の事情に疎い各部門担当者が、先の変更まで十分見通して、システム上の対応をするのは難しいことです。
人事制度においては、中身をどうするかは別にして、せめて中期の改訂計画のようなものを、システムの予算計画と合わせて作っておくことが必要だったのでしょう。
こちらの会社で、今起こっている課題を解決しようとすると、どうやって経営陣を説得するか、どうやって予算を取るかなど、社内の政治的な話が中心になってしまい、課題解決の必要性や、人事制度のあるべき姿というような、本質的な話ではなくなってしまいます。
実際に進められている議論も、「この部分の改訂であれば、こんな方法であれば、システム変更が少なくて済む」というような、まずは現行システムの仕組みありきで、いかにそれを変えずに済ますか、いかに予算を抑えるかということが中心になってしまっているそうです。
中小企業で人事制度を扱う場合であれば、こんな制約にはまってしまうことはめったにありませんが、企業のステージが違うと悩みどころはかなり違うものです。
社内システムというのは、全社にかかわることですから、効率的な仕組みにしていくためには、部門間のコミュニケーション、システム部門の調整力やリーダーシップ、開発側と利用者側それぞれの計画性など、いろいろな要件が必要になってきます。
ここまで考えられる企業は、それほど多くはないと思われますが、「人事制度改訂の制約条件が社内システム」などということにならないためには、やはり必要なことです。
こういう状況には陥らない企業が、本当の意味で力がある企業なのかもしれません。
小笠原 隆夫(おがさわら たかお)
コンサルタント(人事制度、組織活性化、採用支援)
人事制度構築、組織活性化といった人事の悩みは、多くの企業で抱えている のではないでしょうか。
人事コンサルタントとして直面した課題事例や、人の感情ややる気・ムードといった人間の感覚的な切り口を合わせ、みんながハッピーになれる人事、組織とはどんなものなのかを考えて行きたいと思っています。
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