2015/11/18 第16回「「強引な営業」を指導する人材育成の是非」
私が企業人事に在籍していた頃の、少し前の話になりますが、その会社の人事部は、管理本部というスタッフ業務全体を担う部門に属していたので、近くに来客応対を担当する者がいました。そこには取引先、飛び込みも含めていろいろな営業職の方がいらっしゃいます。
会社規模がそれほど大きくなかった頃は、まだきちんとしたセキュリティができておらず、社員が作業しているすぐ横に受付カウンターがあったので、来訪者がいきなりそこに訪ねてきます。
その中には結構強引な営業をする人もいて、お断りしているにもかかわらず、勝手に中までどんどん入ってきて、奥の方にいる管理者に無理やりコンタクトしようとするような場面に遭遇することがありました。
管理部門には女性やベテラン社員が多かったので、こういう方にお引き取りいただく役割は、だいたい当時の私のような、若手の男性社員がやることになります。
そんなある日、新人クラス?に見える若手の営業マンがやってきて、さえぎる社員を押しのけて執務スペースの中に入ってきます。あまりに強引だったので、本気でつまみ出してやろうと気合いを入れて近づくと、その表情はおびえて涙目になっています。
その時は普通に諭してお引き取り願いましたが、行動と表情のギャップがあまりに大きかったので、何か気になっていました。
その後しばらく時間が経ったある日、営業マン教育のコンサルタントという方にお話をうかがう機会がありました。わりと著名な企業の営業責任者だったという経験豊富なベテランでしたが、その方は自分の武勇伝のように、「受付で止められても強引に責任者の名刺をもらうぐらいでないと、営業目標は達成できない」などとおっしゃいます。
あまり賛同はできないものの、さらにもう少しうかがうと、やっぱり最後は「気合と根性で説き伏せるのが大事だ」などという話でした。
もしも経験の少ない営業職が、こういう上司に指導を受けたとしたら、「強引にでもキーマンとコンタクトしろ」「最後は気合いで行かないと契約は取れないぞ」などと言われ、行動の選択肢がそれしかない状態で営業活動に望むことになるわけです。
前述のおびえた涙目の営業マンも、もしかしたらそんな営業ノウハウしか教えられず、他の引き出しを持たないままで、自分の意思に反して強引な行動を取っていたのかもしれません。
私は営業の専門家ではないので、こういう営業手法に効果があるのかはわかりませんが、少なくとも自分が顧客の立場であれば、礼を失したやり方をする営業は絶対にNGです。どんなに良い商品であっても、その人からは絶対に買いません。
本来ならば、相手に合わせたいろいろな営業スタイルが必要で、経験者がそれを教えていくべきだと思いますが、指導する側の価値観によっては、こんな強引な手法が主流となってしまい、結果的に多くの可能性の芽を摘んでいるように思います。営業成約の可能性と人の成長の可能性の両方です。
理屈だけではない、度胸をつけるような経験が必要なことはわかります。ただ、そんな強引な営業方法が本当に効果があるのか、それを教えることが人材育成につながるのかを考えると、私はあまり賛成できません。
特に社会人経験が少ないスタート時点では、誰から何を教わるかということは、その人のその後の成長に大きな影響を及ぼします。
企業が行う「人材育成」は、単に企業の利益に結び付けるということだけでなく、その人の社会人としての将来を左右するような、大きな責任が伴っているということを痛感します。
小笠原 隆夫(おがさわら たかお)
コンサルタント(人事制度、組織活性化、採用支援)
人事制度構築、組織活性化といった人事の悩みは、多くの企業で抱えている のではないでしょうか。
人事コンサルタントとして直面した課題事例や、人の感情ややる気・ムードといった人間の感覚的な切り口を合わせ、みんながハッピーになれる人事、組織とはどんなものなのかを考えて行きたいと思っています。
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