2021/09/29 コーポレートガバナンスとは
初めまして。BIPコンサルタントの浅井 裕(あさいゆたか)です。よろしくお願いいたします。
私は、上場企業の役員及び子会社2社の社長を務めた後、国立大学法人で監事を務めました。その間組織のガバナンスのあり方を考え、今は当社の中で「社外取締役・コーポレートガバナンス」研究開発部会を主査しております。
今回は、コーポレートガバナンスとグループガバナンスの話題を深く理解するために知っておきたい、日本でコーポレートガバナンスが重要性を増してきた経緯と、その意味についてお話しします。
目 次
■最近「ガバナンス」という言葉をよく聞くようになった
最近は「ガバナンス」という言葉がいろいろな場面に登場するようになりました。
企業の不祥事を扱った記事では「ガバナンスの立て直し」「ガバナンスのほころび」「ガバナンスが機能していない」、企業体制に関する記事では「ガバナンスの評価」「ガバナンス体制変革」などのように使われています。
また近年注目されている「ESG投資」のGはガバナンスのGです。これは投資判断の企業評価に新しい観点を導入した投資方法で、環境(Environment)、社会(Social)、そして3つめがガバナンス(Governance)とされています。
ガバナンスとは統治・支配・管理、つまりコーポレートガバナンスとは企業のガバナンス、企業統治のことです。
■「コーポレートガバナンス」は第二次安倍内閣の成長戦略で登場
では、「コーポレートガバナンス」という言葉は、どのようにして認識されてきたのでしょうか?この言葉は、2013年に第二次安倍内閣が発表した成長戦略<日本再興戦略 -JAPAN is BACK->の中で、
翌年の<日本再興戦略改訂2014 -未来への挑戦->では、
コーポレートガバナンス・コードは2015年に制定され、「2015年はコーポレートガバナンス改革元年」であったと言われるようになります。そして、<未来投資戦略2017-Society 5.0の実現に向けた改革->では、「アベノミクスのトップアジェンダであるコーポレートガバナンス改革」と認識されるようになりました。
■東証再編で改訂版の原則が重要な役割を果たすことに
2021年6月には2回目のコーポレートガバナンス・コードの改訂がなされました。
2022年4月には東証の市場区分が、現在の東証第一部、東証第二部などの区分から、プライム市場・スタンダード市場・グロース市場の3つの区分に再編成されますが、そこではこの改訂版のコーポレートガバナンス・コードの原則が重要な役割を果すことになります。
今後、企業経営の分野ではガバナンスという言葉がさらに重みをもってくるでしょう。
■企業価値を守る「守りのガバナンス」と増大させる「攻めのガバナンス」
さて、コーポレートガバナンスという言葉が登場してから、企業のガバナンスが年々重要性を増してきていることはお分かりいただけたと思います。ではコーポレートガバナンスとは実際にはどのようなことなのか、もう少し詳しく説明しておきましょう。
いま日本企業に求められているのは、企業がステークホルダーの期待をきちんと理解して、経営者が迅速・果断に、そして透明性と公正さをもって経営の意思決定ができる仕組みと体制を持つことです。
ステークホルダーというのは、株主をはじめ顧客・従業員・取引先・地域などの利害関係者のことです。
企業の価値とは何か?を考えるとき、それはステークホルダーの期待に対して企業が応えられる力だ、と考えることができます。
企業価値には、財務的な価値と社会的な価値があるので、両方について考えなければなりません。財務的価値は「きちんと稼いで、お金で期待に応えてください」という企業の基本的な価値ですが、社会的価値は企業が社会に対して持つべき責任をきちんと果たすことができるかどうかを評価するものです。
財務的価値と社会的価値にキズをつけないための仕組みを「守りのガバナンス」、中長期的に価値を増大させる仕組みを「攻めのガバナンス」呼んでいます。
つまりコーポレートガバナンスとは、企業の財務的価値と社会的価値の両方を守り、中長期的に増大させるための、攻めおよび守りの仕組みと体制を持つことなのです。
■政府が行えるのは環境整備のみ、ボールは企業へ
再興戦略では、コーポレートガバナンス改革によって日本の企業が攻めのガバナンスを身に付けることを目指してきましたが、現実的には、<形式>から<実質>に落とし込む難しさが認識されています。
そして「政府が行えるのは環境整備に留まらざるを得ず、経済成長を牽引するのはあくまで企業であり、産業の新陳代謝を加速し、未来に向けた投資を増やしていくためには、最終的には、企業経営者自らの大胆な決断こそが必要」だと認識されています(日本再興戦略改訂2015)。
ボールは企業に投げられています。
■本ミニ講座のビジョン「攻めのガバナンス」
当社は「企業様と共に事業開発・経営改善に取り組み 第2・第3の成長を創るパートナー」であることをビジョンとしております。
このミニ講座では攻めのガバナンスを話題の中心に据え、企業経営者自らの大胆な決断に結びつけることのお手伝いができること目指して連載を進めていきます。
第2回は、今後の議論の基礎として「コーポレートガバナンス・コード」の概要をおさらいします。
第3回では、「グループ・ガバナンス・システム」の概要を取り上げます。
実は、グループガバナンスのことは、コーポレートガバナンス・コードの中では大きく取り上げられていません。支配株主を有する親子上場などの上場会社の、少数株主の保護の観点でのみ触れられています。
ですが、当社では企業の成長戦略にとって、そしてコーポレートガバナンスにとって、非常に重要な領域であると考えて、このミニ講座のメインテーマの一つとして取り上げます。
事業ポートフォリオの改革は、M&A戦略や、関連企業や事業部門の再編成、コングロマリットディスカウントからの脱却、業界の再編成の基礎となるものであり、経済産業省はコーポレートガバナンスに関連した一連の実務指針の中で、「グループ・ガバナンス・システムに関する実務指針(グループガイドライン)」を2019年に、「事業再編実務指針~事業ポートフォリオと組織の変革に向けて~(事業再編ガイドライン)」を2020年に策定しています。
第4回目以降は、コーポレートガバナンスとグループガバナンスの中から大事な個別テーマを選んで進めてまいります。
◆BIP株式会社 総合研究所
「社外取締役・コーポレートガバナンス研究開発部会」では、企業経営経験者、企業経営の大学・民間研究者、企業の現役役員などのメンバーがコーポレートガバナンスの研究をしています。当社はまた、コーポレートガバナンスを担うことのできる社外取締役・社外監査役候補者の人材紹介もしております。
詳細はこちら>>https://www.bi-p.co.jp/consul/cg/
尚、このミニ講座のコラム記事は、あくまでも筆者の個人的な意見であり、会社としての意見ではありません。
以上
次の記事へ >> 『コーポレートガバナンス・コードの概要』
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浅井 裕(あさい ゆたか)
コンサルタント(経営戦略策定と実行支援、経営管理の企画と実行支援)
私は、上場企業役員及び子会社2社の社長を務めた後、国立大学法人の監事として働きました。その間組織のガバナンスのあり方を考え、今はBIPの中で「社外取締役・コーポレートガバナンス」研究開発部会を主査しております。このミニ講座では「攻めのガバナンス」を話題の中心に据え、企業経営者自らの大胆な決断に結びつけるお手伝いができることを目指し、コーポレートガバナンス・グループガバナンスについての情報を発信していきます。
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