記事の詳細

人事制度構築を行うにあたって、その会社によって要望は様々ですが、初めにお話をうかがう段階では「基準や手順を細かく作り込んで欲しい」と言われることが、意外に多いものです。

もう少しお話をうかがうと、「いちいち考えなくて済むように」「誰でも同じように事務的に運用できるように」などと言われます。「うちのマネージャー連中は自分で判断できないから、決まりを作ってやらないと動けない」などと言われることもあります。“制度・仕組み”に委ねる比重をできるだけ高くして、“運用”を楽にしようという考え方です。(制度と運用のバランスについては、また機会をあらためて書きたいと思います)

そんな人事制度の運用の中で、特に課題としてあがることが多いのは、「評価」に関する部分です。評価者による差が大きい、評価基準があいまい、一方的に甘いまたは辛いとの偏った評価などが言われます。
こういう課題の対策として出てくるのが、評価者のスキル向上のためと称しての、「評価者研修」です。ある会社では、「評価結果の精度向上が、人事制度の運用上で最も重要である」として、かなり力を入れているところもあります。

きちんと時間をとって教えようということで、それ自体は大変すばらしいことですが、実際に効果があるのかというと、私はそこまでの重要性は感じていません。いくら実際の制度に基づいて行っても、実際に起こった事例を使っても、どうしても研修と実際は違うという部分があります。
また、特に中小企業では、研修という機会をわざわざ設けるのが、なかなか難しいことも多いです。そういう会社ほど、研修に対する期待値が高かったりするので、せっかく実施したのに、それほどの効果が見られないなどという失望が大きかったりします。

私が制度作りをお手伝いする時、もちろん「評価者研修」のような内容を組み込んで考えることもありますが、そうではない方法を取ることもたくさんあります。

まず一例として、制度の運用手引書を作り、その中に、「一般的な人事評価の心得」のような内容を記載するようなことをします。もちろん知っていればできるという事ではありませんが、ある会社では、これを見た社員の方が、「前からこういう内容を知っていれば、もっときちんとした評価ができていたと思う」という話をされていました。
人事評価を行うにあたっての基礎知識や心構えなど、自分だけではなかなか調べる機会はないでしょうし、自分で勉強しようとする内容でもないでしょうが、ある程度の知識が必要であることもまた事実です。自分なりに理解する材料として提示しておくというだけで、あえて時間を取らなくても意外に効果があります。

また、実際の運用の中に評価調整会議などを設け、評価の目線合わせはその中で行うようにすることがあります。まさに本番の評価結果を題材にした事例研究なので、実感がない事例になることはあり得ませんし、別建てで研修をやる実務上の負荷を軽減する事ができます。この回数を何度か重ねることで、評価基準が共通認識として作られていきます。裁判で判例を積み重ねていくことと少し似ています。

「評価者研修」に手間ひまをかけることが可能で、研修と実際のギャップを埋めていくことがじっくりとできるなら、それはそれで良いことだと思います。ただ、忙しい会社であればあるほど、研修はなかなか実施しづらいですし、評価者のスキルアップのための最善の方法が「評価者研修」とは限りません。

とはいえ、「うちは評価者研修なんかはやる時間がないなぁ」などと何もしないのは、やはり少し工夫が足りないと思います。次善の策として考えられることはたくさんあるはずです。

どんなことでもそうですが、「自社の身の丈に合わせて、出来ることを考えながらやっていく姿勢」が大切だと思います。

[page_content お問い合せボタンコラム]
[page_content プロフィール小笠原隆夫] [page_content 無料相談会CTA]

BIPコラム

ページ上部へ戻る