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2022/01/11 企業グループと事業ポートフォリオのマネジメント(1)~企業の成長と変革のために事業の構成を変革する

前回は、コーポレートガバナンス・コードの考え方の延長にある「グループガバナンス」についてお話ししました。

<< 前回コラム「グループガバナンスはコーポレートガバナンスのグループ内への展開」

今回から数回にわたって、「グループガバナンス」の中で重要な話題のひとつである「事業ポートフォリオのマネジメント」についてお話しします。

目 次

事業ポートフォリオマネジメントは事業の組み合わせの最適化

企業が営んでいる複数の事業の一覧を「事業ポートフォリオ」と呼びます。

そして事業ポートフォリオのマネジメントの目的は、企業の中の事業の組み合わせを評価して最適なものにしようとすることです。
例えば、市場構造が急激に縮小に向かっていてグループ全体の事業構造に大ナタを振るうべきときや、M&Aで社外の力を自社に取り込むときなどに、重要な戦略策定と判断のベースとなります。

重要ポイント1:急激な市場環境の変化でも生き残るために備えられる

事業ポートフォリオマネジメントはなぜ重視されるのでしょうか?

一つ目のポイントは、急激な市場環境の変化に遭遇した時、その企業が生き残れるかどうかに、事業ポートフォリオマネジメントが重要な役割を果たすことです。有名な事例をご紹介しましょう。

2000年頃、写真フィルム業界には市場の急速な縮小が起きていました。これに対して、コダック社、富士フィルム社、コニカミノルタ社などは適切に対応し、生き残りに成功しました。主要商品の市場がみるみる消滅していく状況で、なぜ生き残れたのでしょうか?

これらの企業は、事前に事業ポートフォリオの分析とリスク管理を踏まえて新しい事業のタネを蒔いて育成し、積極的な開発投資をしていました。なんと市場消滅の10年も20年も前から事業ポートフォリオ改革の準備が進められていたのです。

企業の中にある有形・無形の資産を活用して新しいポートフォリオを築いていくことができた企業だけが、危機を乗り越え、第二第三の創業期を迎えられたようです。

重要ポイント2:株主も事業ポートフォリオに注目する

事業ポートフォリオマネジメントの重要性、もう一つのポイントは、株主の関心です。

株主は、企業の事業ポートフォリオとその評価が企業価値と株価に大きく影響することを知っているので、事業ポートフォリオとそのマネジメントには敏感です。特に先進的な投資家は企業の事業ポートフォリオ分析に長けていて、最近ではオリンパスやソニーや東芝などで大きな話題を提供することになりました。

投資家は企業価値の観点から事業のありかたを見ています。

例えば、企業の中に収益性も成長性も高い事業がある時、その事業だけを切り出すと、分割した2社の企業価値の合計の方が、元の会社の企業価値よりも大きくなることもあります。

  元のA社の企業価値 < 分割後のB社の企業価値 + 分割後のC社の企業価値

あるいは企業の中で成長できていない事業でも、M&Aで社外にある事業や技術を取り込むことで大きく成長できることもあるし、売却すると売却先でのシナジーが働いて大きく成長できることもあります。

  成長できていない事業 × M&A ⇒ 大きく成長できる事業に!

この点からも、企業は、投資家を納得させることのできる事業ポートフォリオの戦略を持っていなければなりません。

多角化しがちな日本企業は事業ポートフォリオの新陳代謝が滞る傾向に

日本の企業は事業が多角化する傾向にあると言われています。ひとつの企業が数多くの事業を営んでいるということです。しかも一度始めた事業はずるずると継続されて、事業ポートフォリオの新陳代謝が滞る傾向にあると指摘されています。

また、日本企業の国内総生産は伸びないで、海外での売上・収益が大きな比重を占めてきており、海外企業のM&Aも増えてきています。このようにして、企業活動は地域的にもグローバルに広がっています。

ひとつひとつの事業の経営担当者は、当然それぞれの事業の経営に注力します。
一方、親会社の取締役会は、企業グループ全体の収益力と成長性の向上を目指さなければなりません

事業の多角化とグローバル化は、経営資源の分散となりグループ全体の収益力や効率性・成長力の足を引っ張る結果になりがちです。つまり各事業単体の過去の成果と事業価値を寄せ集めるだけではダメなのです。積極的に育成すべき事業、撤退すべき事業、新規にチャレンジする事業、事業強化のために必要な他社の事業の買収、自社では成長機会のない事業の売却、などの判断を通して、企業グループ全体の収益力と成長性の向上をめざす「攻め」のデザインが必要なのです。

このような観点から、経済産業省は次の文書を公開し、事業ポートフォリオの変革を促しています。
経済産業省(2019年)「グループ・ガバナンス・システムに関する実務指針」(PDF)
 …「事業ポートフォリオマネジメントの在り方」をひとつの章として取り上げています。
経済産業省(2020年)「事業再編実務指針~事業ポートフォリオと組織の変革に向けて~」(PDF)

ご参考:前回コラム「グループガバナンスはコーポレートガバナンスのグループ内への展開」

積極的な事業ポートフォリオマネジメント体制は構築できていますか?

事業ポートフォリオマネジメントが企業の成長や価値だけでなく企業生命をも左右しうること、そして日本でも事業ポートフォリオの変革が推進されており、乗り遅れられない状況であることがお分かりいただけたと思います。

では、事業ポートフォリオマネジメントはどこから取り組めばいいのでしょうか?

その入口は、企業が抱えている各事業の管理単位を定義して、それぞれの事業についてのデータ(ファクト)を整理するところから始まります。

このデータには、多くのことが該当します。事業を構成する商品やサービスのこと、それらの市場や競合の動向、事業の収益構造のこと、商品・サービスを支える技術とそれを支える人的資源のこと、事業に投入している資源(人材、研究・開発費、設備など)のこと、事業が持っている有形・無形の資産(納入実績、お客様との信頼関係、技術や知的財産、市場での評判など)のことなどが考えられます。以下、これらをまとめて「事業の属性」と呼ぶことにしましょう。

ここでまず大事なことは、事業の属性を<必要な人が何時でも見える>ようにする社内システムの整備と構築です。

その上で、これらの基礎データを用いてさまざまな事業ポートフォリオ分析をします。成長を重視する評価・分析では、横軸に事業の投下資本利益率(ROIC)、縦軸に事業の売上高成長率で事業をマッピングする手法などが用いられます。

ここで注意をしなければいけないのは、日本の多くの企業はこの入口の分析で留まってしまいがちで、マネジメントとして、企業理念に沿った変革の方向性を示し、それを具体的な行動に結び付けきれないことです。

事業ポートフォリオ分析はやっているけれど、形式的な恒例行事と化している・・・・・・ということはありませんか?

事業の経営担当者は四半期や会計年度のサイクルで物事を考えがちです。事業ポートフォリオを毎年見直しても事業環境の変化は緩やかなので、彼らには緊迫感の乏しいものになりがちなのです。

その一方で、市場が崩壊する時はグローバルに同時進行することが多く、多くの経営者が想定するよりはるかに速く進行すると言われています。このため、短期での経営判断が生き死にを決めることになるようですが、その時に事業ポートフォリオマネジメントの議論を始めても間に合わない恐れがあります。

新型コロナウィルスパンデミックや、脱炭素の動き、米中関係の緊迫化など、社会と経済の環境が急激にそして同時進行していくこの時代に、企業は事業ポートフォリオの大きな変革を突然に迫られる可能性が高いと覚悟しておくべきです。このような時こそ、事業ポートフォリオを積極的にマネジメントできる体制を早急に構築しておくべきです

積極的な事業ポートフォリオマネジメント
1、各事業の管理単位を定義、事業のデータ(ファクト)を整理
 ↓
2、事業の属性を見える化する社内システムの整備と構築
 ↓
3、事業ポートフォリオ分析
 ・投下資本利益率(ROIC)を用いた手法
 ・縦軸に事業の売上高成長率でマッピングする手法 など
 ↓
4、企業理念に沿った変革の方向性を提示・具体的な行動に結び付ける!

次回から数回にわたって、平常時の事業ポートフォリオマネジメントと、緊急時の事業ポートフォリオマネジメントの両方を視野に入れながら、いくつかの重要なポイントを深堀りしてまいります。

以上

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thumbnail_asai浅井 裕(あさい ゆたか)

コンサルタント(経営戦略策定と実行支援、経営管理の企画と実行支援)

私は、上場企業役員及び子会社2社の社長を務めた後、国立大学法人の監事として働きました。その間組織のガバナンスのあり方を考え、今はBIPの中で「社外取締役・コーポレートガバナンス」研究開発部会を主査しております。このミニ講座では「攻めのガバナンス」を話題の中心に据え、企業経営者自らの大胆な決断に結びつけるお手伝いができることを目指し、コーポレートガバナンス・グループガバナンスについての情報を発信していきます。

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