2021/01/13 【FC】「「のれん分け」とは?」
こんにちは。BIPの高木 仁(たかぎ ひとし)です。
最近、のれん分け制度を構築したいというご相談が増えてきました。
「のれん分け」は古くから日本にある独立制度で、長年働いてくれた奉公人などに対して「暖簾(のれん)=屋号」を使って独立することを認めるものです。
では、「フランチャイズ」と「のれん分け」はどのように違うのでしょうか?
今回のコラムでは、そのポイントを解説します。
■復習:フランチャイズとは?
FCについては、これまでのコラムで解説してきましたが、ここで改めてポイントを確認したいと思います。
一般社団法人日本フランチャイズチェーン協会では次のように定義しています。
『フランチャイズとは、事業者(フランチャイザー)が他の事業者(フランチャイジー)との間に契約を結び、自己の商標、サービスマーク、トレード・ネームその他の営業の象徴となる標識、および経営のノウハウを用いて、同一のイメージのもとに商品の販売その他の事業を行う権利を与え、一方、フランチャイジーはその見返りとして一定の対価を支払い、事業に必要な資金を投下してフランチャイザーの指導および援助のもとに事業を行う両者の継続的関係をいう。』
FCビジネスのポイントは、次の3つになります。
・本部と加盟者は各々独立した事業体であり契約に基づく共同事業を行なう
・本部から加盟者にFCパッケージが提供される
・FCパッケージの見返りとして、加盟者は本部に一定の対価を支払う
本部と加盟者は法律的にも財務的にも、それぞれが独立した事業体であり、FC契約によって結ばれたビジネスパートナーの関係です。お互いの協力の元で「共同事業」を行なうものであって、同一経営体の元で「共同経営」を行うものではありません。当然ながら、経営の結果(成功/失敗)は、それぞれの責任になります。
本部から加盟者に対してはFCパッケージが提供されます。FCパッケージとは、「商標の継続的使用の許可」「経営ノウハウの提供」「継続的な経営・運営指導」などが含まれます。これらのものが、一連のビジネス展開に必要なものとして、包括的かつ体系的に、標準化されたパッケージとして提供されるものです。
そして、加盟者はこのパッケージの見返りとして、本部に対価を支払うことになります。対価とは、「加盟金」「ロイヤルティ」などです。また、必要な事業資金を自ら投入することになります。
■のれん分け制度は2パターンに分けられる
このように「FCビジネス」では、加盟者は、その業界・業態の経験やノウハウがなくとも最短で成功できるように、FCパッケージ(事業の仕組み)を買います。加盟者は、その企業(本部)で働いていたかどうかは関係ありません。
一方「のれん分け」は、最初に述べたように、古くから日本にある独立制度で、長年働いてくれた奉公人などに対して「暖簾(のれん)=屋号」を使って独立することを認めるものです。のれん分け制度を雇用のパターンから分類すると、「インセンティブ型(キャリアプラン型)」と「加盟前提型(ステップ型)」といった2つに分けることができます。
インセンティブ型は、正規雇用社員向けのキャリアパスとして会社が従業員の独立を支援するもので、従来ののれん分けに近い形態です。
これは、頑張ってきた従業員に対するインセンティブの意味合いが強いため、加盟金やロイヤルティの免除や減額、本部による貸付制度、銀行からの借入に対する保証といった独立に向けた支援をするケースも多くあります。そのため、本部としては、一般的なFC事業よりも財務的なメリットが減ります。
また、独立者に対して直営店を譲渡する場合、その店舗の選定基準が難しくなります。収益の良い店舗の場合は、本部としての収益力が落ちてしまいますし、悪い店舗だと独立制度としての魅力が無くなります。
加盟前提型は、FC加盟を目的として、加盟前に一時的に労働契約を締結し、独立(加盟)を目指すというものです。
このタイプの制度として有名なものが、カレーチェーン最大手のココイチを展開している株式会社壱番屋の「ブルームシステム」で、現代版のれん分けと言えるものです。
CoCo壱番屋に加盟したいと思ってもすぐには自分のお店を持つことはできません。いったん壱番屋へ入社をし、複数の店舗勤務を通じて経営者に必要な店舗経営力を身につけたと認められることでその資格が発生します。
壱番屋のホームページ(https://www.ichibanya.co.jp/comp/bs/)によると、ブルームシステムでは9つの等級制度があり、独立資格を得るのは3等級以上で、入社から5~6年での独立が多いようです。また、独立条件をクリアできず諦める人も多くいるようで、実際に独立オーナーになるのは1割未満とのことです。壱番屋の独立支援制度は狭き門となっていますが、だからこそ失敗する店舗は少なく、業界最大手のカレーチェーンを築くことができたのです。
■のれん分け制度の構築
のれん分け制度を導入している企業では、独立者との間に何らかのトラブルが発生して訴訟問題になるようなケースをよく聞きます。なぜトラブルが起きるかといえば、単純な話しで、きちんとした制度を構築していないし、独立者との契約をきちんと結んでいないからです。
「あいつは俺がかわいがってきた弟子だ。俺の言うことは何でも聞く。大丈夫だ」などと思ってはいないでしょうか?
元従業員でも独立した以上は、事業者として本部と対等な立場になることを忘れてはいけません。本部と独立事業者(加盟者)という双方の立場の中で、互いの言い分に食い違いが出てくるのは自然なことと思ったほうがよいでしょう。
このようなトラブルを防ぐためには、のれん分け制度で何を提供するのかを定め、口約束ではなく、きちんと契約書を交わしておく必要があります。
のれん分け制度に決まった形はありませんが、必要な機能として、「商標使用許諾」「ノウハウの提供」「店舗物件開発」「開業支援」「運営支援(経営指導)」「商品取引」などがあげられます。実際の制度では、これら全ての機能を持つのではなく、いくつかの機能を組み合わせた制度として構築することが多くなります。
そして、のれん分け契約を結ぶに当たり「のれん分け契約書」の作成は必須です。契約書を作成せずに口約束でのれん分けを実施したり、ネット上にアップされているひな形を少し変えただけで対応したりすれば、双方の認識の違いにより、様々なトラブルが生じる可能性が増えます。
のれん分け制度には、FC事業とは異なった特徴があり、本部としては注意すべきポイントが多数あります。のれん分け制度の設計や、その制度の内容とのれん分け契約書の細部を合致させるのは専門的な知識を必要とします。のれん分け制度を考えたら、まずは、FCビジネスの専門家に相談されることをお薦めします。
高木 仁(たかぎ ひとし)
コンサルタント(IT企業 企画提案力強化・人材育成、フランチャイズ本部構築)
私は、フランチャイズコンサルを専門領域の一つにしており、フランチャイズ本部の構築や本部機能の強化などの支援をしています。このコラムでは、フランチャイズビジネスの情報や、フランチャイズ事業化を検討中の皆様に役立つ情報を中心に発信していきます。
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