佐々木昭美のBIエッセイ 明るく楽しくイノベーション

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2009/02/16 映画『旭山動物園物語―ペンギンが空をとぶ』を観ましたか

 2月11日祭日に、映画『旭山動物園物語―ペンギンが空をとぶ』(参考文献1)を観ました。動物はすごい。動物は楽しい。夢を一つ一つ実現していく人間はもっともっと素晴らしい。何度も感激の涙を流しました。小さな子ども連れの家族、若い恋人たち、一人の女性、年配のご夫婦等、映画館は朝から満杯でした。是非、観て頂きたいと思います。

 私は20代から19年間札幌に住み、少しは北海道各地を訪れました。当時子どもたちと何度も札幌円山動物園や登別クマ牧場で遊びましたが、旭川市旭山動物園には行ったことがありませんでした。『旭山動物園の奇跡』(参考文献3)は、最近知れ渡っておりましたが、いよいよ2月7日映画『旭山動物園物語』が全国公開されました。園長役に西田敏行、監督:マキノ雅彦、音楽:宇崎竜童、主題歌:谷村新司等と個性あるゴールデン世代が活躍しています。西田さんが演ずるモデルの小菅園長は、私と同じ年生まれでもあり、同世代の活躍はうれしいです。

入場者26万人と存続の危機に直面した旭山動物園が、10年後に入場者300万超える『日本一元気な動物園』(参考文献4)に再生した中には人々の胸を打つ人間物語があり、戦ったリーダーたちがいました。映画に感動し、自治体直営事業である旭山動物園の奇跡に大変興味を持ち、少し詳しく知りたいと思い市販の本も読んでみました。様々な角度から興味が沸きますね。
映画「旭山動物園物語」プログラム

(1) 夢を叶えた人々の愛と奇跡と感動の物語
―現在の園長と副園長が実在のモデルとなったー

「旭山動物園を率いる滝沢園長(西田敏行)と新人飼育係・吉田(中村靖日)。このふたりの登場人物は、それぞれ実際に旭山動物園の発展に尽力を注いできた小菅園長、坂東副園長がモデルになっている。」逆境にあっても決してあきらめることなく、動物たちを信じ、愛し、夢を叶えた人々の愛と奇跡と感動の物語である。(参考文献1)
(映画『旭山動物園物語―ペンギンが空をとぶ』公式ホームページより)

 苦難の時の人間模様が生々しい。あきらめずに未来への地道な準備、蓄積をする。市民との交流、啓蒙による動物園ファンとの絆の広がり、美人女性新市長誕生(萬田久子)のわずかの機会をものにするリーダーシップ。何よりも動物への飼育係全員の深い愛情が切々と伝わる。どこにでもいる人々が成し遂げた奇跡。

(2)“水中を飛ぶペンギン”“オランウータンの空中散歩”“ホッキョクグマのダイブ”
―奇跡を起こした日本初・世界先端の動物“行動展示”が映画で見られる-


参考文献

年間入園者最低の1996年は26万人。行動展示を始めた1997年に30万人と増加開始。2001年は57万人と50万人を突破。2004年は144万人、2005年は206万人、2006年304万人を超え、以後300万人をキープしている。

「旭山動物園を一躍有名にしたのは、1997年に実施された“行動展示”。動物の一番イキイキとした美しい姿を見てほしい、という飼育スタッフの一途な思いのもと、世界で初めて革命的な展示方法が生み出された。そしてもちろん、物語の中心で輝くのは、たくさんの動物たち。猛スピードで空へ向かって飛ぶペンギン、雪玉を投げるゾウなど、映画でしか観ることのできない動物たちがスクリーンで待っている!」
(映画『旭山動物園物語―ペンギンが空をとぶ』公式ホームページより)

 ・ぺんぎん館(2000年完成)

 360度透明の水中トンネルを歩く。不思議な感覚だ。その周囲をペンギンたちがものすごいスピードで左右・上下自由自在に飛び回る。そう“ペンギンは鳥”なのです。冬はペンギンの屋外ヨチヨチ散歩が大人気で、海外からの観光客も多い。ショーではなく、得意な力を出してあげる環境を用意してあげたのです。

 ・オランウータン舎・館(2001年・2005年完成)

 類人猿の中でゴリラの次に2番目に大きい。高さ17Mある2本の柱に張られた14Mのロープ。毛むくじゃらの大きなオランウータンが悠々と渡ります。もともとボルネオ等のジャングルの高い木の上でほとんど生活する樹上生活者なのです。自然に近い環境を作りました。チンパンジーやニホンザルのように飛び移ることはなく、両腕を使って移動する。落ちない掴む力はすごいという。

 ・ほっきょくぐま館(2002年完成)

 巨大プールの側面がガラス張り。見学している人の頭上からホッキョクグマがザブンと突進してくる。すごい迫力でビックリする。見物の方の頭が、大好物のアザラシが顔を出した様子に似ているかららしい。演技ではありません。ホッキョクグマの自然の習性を飼育係が知っていて皆さんに伝えたいと考えたのです。

 ・あざらし館(2004年完成)

 北半球だけに生息するゴマフアザラシ。円柱水槽を上下に行き来して、のぞきこむとジッと止まってにらめっこするアザラシも。円柱水槽は、広いプールにつながって自由に行き来できるようにしています。

旭山動物園のすべての動物を紹介している旭山動物園公式ホームページの案内をご覧頂きたい。やはり、“直接体験はすごい”と最近旭山動物園を訪れた札幌在住の娘に感動の言葉を聞きました。映画制作スタッフも動物の本能的恐ろしさに緊張しながらも、ワクワク楽しみながら撮影したと思います。

(3)“奇跡”のリーダー小菅園長とはどんな人か
―『<旭山動物園>革命』『戦う動物園』『生きる意味って何だろう?』を読んで感じたこと―


参考文献

 今回は映画の紹介が主ですが、モデルとなったリーダー小菅園長に興味を持ち、著書を読んでみました。私は、「ビジネスモデル改革経営論」「人間力と経営技術力による改革実践力育成」とでもいうべきコンサルティングを研究・実践しています。劇的な変革は、ビジネスモデルの改革創造を伴う場合が多く、推進する改革人材の広がりが大事であることが知られています。自治体が直轄して経営する動物園とはどういうものか、公営組織が変革するプロセスにも大変興味を持ちました。成功モデルの特定解を知り、そのリーダーをもっと知りたいと思いました。

 本のタイトルは、一見現職公務員の著書とは思われない激しい言葉となっていますが、リーダーを体験した方は当然過ぎる、共感するキーワードです。各著書で写真を拝見すると、体育会系らしいがっちりした体格ですが、表情は温厚で、落ち着いた風格を感じます。私と同じ昭和23年生まれの団塊世代で、北海道大学獣医学部を卒業して旭山動物園に就職したそうです。著書には、透徹した人間観、世界的な動物園の歴史観・経営論が背景にあります。公的組織リーダーとしての改革へのメソッドの厚みがあり、根底には、命と生き方に対する精神性などが脈々と流れています。エンターテイメントの卓越した監督と考えるだけだったら、得意の柔道で投げ飛ばされてしまうに違いありません。

 誰もが聞きたい質問にこう答えています。
『「旭山動物園には、上野動物園のように、パンダなどの珍獣がいるわけでもないのに、どうしてこれだけの人気が集まったのでしょう。」よくそんな質問を受ける。ペンギン、アザラシ、ホッキョクグマ、オランウータン、ニホンザル、ゾウ・・・・、旭山動物園にいる動物は、どこの動物園にもいる種類だから、そういう質問がでるのも当然といえば当然だろう。質問に対する答えを一言でいえば、「見せ方を工夫したから」である。それまで動物園は、動物の姿形を中心に見せてきたが、その方法を根底から変えたのだ。・・(略)・・私たちが何よりも優先して考えたのは、その動物にとってもっとも特徴的な能力を発揮できる環境を整えることである。』(参考文献5:14~15ページ)

 その改革の原動力は何でしょう。旭山動物園には1975年より30年以上続く月1回以上の勉強会があり、危機の時にこの勉強会が「理想の動物園」プロジェクトに発展していきました。動物園とは、
『整理すれば、「レクリエーションの場」「教育の場」「自然保護の場」「調査・研究の場」の四つの役割がある。』(参考文献5:23ページ)
動物園の展示方法は、動物の側になって考える事。その時、飼育係の経験、世界の研究が基礎になってアイデアが生まれる。「学術的知識は、よい展示をつくる」と小菅園長は表現しています。

 改革に必要な組織は何かと問うている。北大柔道部時代が原点だとして、「限界を超えて、自分自身と戦える人材の育成」を目標にする。企業の経営にも通じる厳しく困難だが本質的なテーマを掲げています。また、
『もう一つ私が大事にしているのは、失敗を恐れずチャレンジする気持ちである。私は、アイデアを考えたのに、実行に移さない人には怒ることがある。失敗なしで成功する人間なんていない。生物の進化は、数え切れないぐらいの遺伝子の失敗があり、たまたまうまくいった一つの突然変異が、遺伝して増えていくのである。だからやってみなければわからない。失敗しながら進んでいくしかないのだ。』(参考文献5:107ページ)

 動物園の歴史と新たな役割も紹介しています。我々一般の者が、動物園を理解してほしいという願いと親切心でしょうか、日本の動物園年表も初めて読ませて頂きました。小菅旭山動物園園長は、動物や自然を代表して私たち人間一人一人にとって考えるべき多くのメッセージを発信している。

『旭山動物園の主なスタッフは皆、「動物園に出す金はドブに捨てるようなものだ」と言われた時代を経験している。そのいちばん苦しいときに、「自分たちのやっていることの意味はなにか?動物園の社会の中での意味はなにか?」をぎりぎりまで問いつめた経験を旭山動物園のスタッフは皆、もっている。その答えが野生動物の命を感じてもらうことだった。』(参考文献6:66ページ)
10名前後の飼育メンバーから始まった変革精神の真髄は骨太い。嵐のような「革命」的入園者数の増加を支えているバックボーンである。

 映画『旭山動物園物語―ペンギンが空をとぶ』を是非観てくださいね。

驚異的で斬新な施設デザインをリードした板東副園長が語る言葉も興味深い。著書『動物と向き合って生きる』『夢の動物園』を参考文献に掲載した。
以上

(参考文献)
1. 2009『旭山動物園物語』制作委員会『旭山動物園物語 ペンギンが空をとぶ』劇場用プログラム
  (角川映画 2009年1月)
2. 原子禅 文・亀畑清隆 写真『旭山動物園のつくり方』(柏艪舎 2005年4月)
3. 週間SPA編集部編『旭山動物園の奇跡』(扶桑社 2008年6月)
4. 多田ヒロミ、ザ・ライトスタッフオフィス『日本一元気な動物園』(小学館 2005年5月)
5. 小菅正夫『<旭山動物園>革命―夢を実現した復活プロジェクト』(角川書店 2006年2月)
6. 小菅正夫・岩野俊郎著・島泰三編『戦う動物園』(中央公論新社 2006年7月)
7. 小菅正夫『生きる意味って何だろう?―旭山動物園長が語る命のメッセージ』(角川書店 2008年12月)
8. 坂東元 著、あべ弘士 絵『動物と向きあって生きる』-旭山動物園獣医・板東元(角川学芸出版 2008年11月)
9. 坂東元『夢の動物園―旭山動物園の明日』(角川学芸出版 2008年12月)
10.浜なつ子 著、あべ弘士 絵『旭山動物園12の物語』(角川学芸出版 2008年7月)

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