佐々木昭美のBIエッセイ 明るく楽しくイノベーション

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2011/06/06 人気作品に加え、技法の秘密を知る画期的なパウル・クレー展(東京国立近代美術館)

――常設展「東北を思う」特集も秀逸です――
待ちに待った「パウル・クレー展-おわらないアトリエ」(東京国立近代美術館 5/31~7/31)を週末に鑑賞しました。同時に、柿沼万里江さん(チューリッヒ大学、本展カタログ執筆者)の講演「ウラのウラを読む」を聴講することができました。クレーには、表だけでなく裏も絵の作品があるのです。

やはりパウル・クレーは人気で老若男女の家族、カップル、個人と多彩な参加者でした。特に若い方、女性はもとより意外に男性も多いのに驚きました。講演も入りきれないほどの希望者で一杯でした。

そして、何よりも今回のパウル・クレー展の画期的展示に驚き、大満足しました。

● 抽象と具象両面の詩情に溢れ、「線と色彩」の融合が印象的で、驚きに満ちた作品たちで一杯。何回も訪れたい誘惑に駆られ、時間を忘れて館内を歩いていました。日本初公開多い約170点が集結した特別展示です。全作品約9,600点の内、約4,000点を所有するベルンのパウル・クレー・センターに全面協力頂いた作品群です。

● 「油彩転写の絵画」「切断・再構成の絵画」「切断・分離の絵画」「オモテとウラ両面の絵画」など「手仕事の芸術家」クレーの絵画制作プロセスと作品の関係が初めて明らかにされました。私のような素人でも、もちろん小学校高学年以上の子供たちが見ても理解できて、楽しく刺激的な画期的展示でした。ファミリーや学校での見学・体験も面白いと思いました。

● チューリッヒ、京都、東京そしてベルンの研究者たちが国際的に協働して学術レベルで最新の成果が京都、東京の国立近代美術館開催に結実したものであることを知りました。美術、デザインなど芸術を学ぶ方々もきっと興味を抱くと感じました。カタログは多くの論文に満ちています。スイスと日本との友好の絆を紡ぐ多くの皆様の努力に感動しました。

今回、公式画像7枚をお借りして弊社BIPWebサイトでご覧いただくことができます。是非、緑多い北の丸公園にある「パウル・クレー展――おわらないアトリエ」(東京国立近代美術館)にお出かけ下さい。

東京国立近代美術館の常設展では、東北出身の作家作品、モデルや風景が東北の作品39点特集コレクションを開催しています。日本近代のすばらしい作品群です。別途料金なしでご覧頂けます。

参考資料 参考資料 参考資料

(はじめに――パウル・クレーと私の出会い)

スイスの画家パウル・クレーとの初めての出会いには、意外な縁があります。

数年前にスイス企業のお手伝いをしていました。事務所にスイス風の雰囲気が少ないので絵を贈呈しようと思っていた矢先に、故郷宮城県出張がありました。ちょっと空いた時間に宮城県美術館を訪ねると「パウル・クレー展」を開催中でクレーの絵がとても気にいってしまいました。リトグラフを販売していましたので、早速1枚購入して、スイス企業日本事務所へ贈りました。

今回、新藤真知『もっとしりたい パウル・クレー 生涯と作品』(参考文献3)を読むと、宮城県美術館は<<乙女(夢をみて)>>・<<アフロディテの解剖学>>・<<世界劇場(寄席)>>など、国内最大35点のクレー・コレクションをもっていることを知りました。クレーとは仕事の縁での出会いですが、故郷宮城県が繋がりの深いことに感慨を抱きました。また、寄ってみたくなりました。

(1) 現在/進行形――アトリエの中の作品たち

参考資料
・「ベルンのアトリエでのパウル・クレー」1939年、撮影:フェリックス・クレー/パウル・クレー・センター(ベルン)

参考資料
・《花ひらいて》1934, 199 油彩・カンヴァス、81.5×80.0㎝/ヴィンタートゥーア美術館

私たちは、クレーを写真で知ることができます。もちろん、自画像も描いており、会場にも彼らしい抽象表現の作品がありました。

クレーは生涯に、5つの街にアトリエを構えます(ミュンヘン、ヴァイマール、デッサウ、デュッセルドルフ、ベルン)。会場には、彼の最後のアトリエとなったベルンのアトリエのイメージを再現しています。

アトリアや住居の壁には、完成・未完成にかかわらず数多くの自作がかけられていたそうです。しかも、クレーは自分で写真を撮りしっかり記録しているのです。ゲルマン的合理性の現れでしょうか?絵画作品にも年号と同時に番号がついていますね。

有名な<<花ひらく>>は、二重の意味でクレーの絵画への意図的しかけを知る作品です。<<花ひらく木をめぐる抽象>>1925、119 東京国立近代美術館所蔵作品を90度回転させて2倍に拡大したイメージに基づいているそうです。同時に本作品は、裏面に「木」のイメージが描かれた両面作品でもあります。面白い着想に溢れた画家ですね。

(2) 写して/塗って/写して――油彩転写の作品

参考資料
・《バルトロ:復讐だ、おお!復讐だ!》 1921, 5 油彩転写・水彩・紙・厚紙、24.4×31.2㎝/個人蔵(ベルン、スイス)

「線描と色彩」の多彩なクレー作品の秘密の一つが、独自に生み出した技法「油彩転写」によるものであることを初めて知りました。

鉛筆やインクで描いた素描を、黒い油絵の具を塗った紙の上に置き、描線を針でなぞって転写した後、水彩絵の具で着彩するという技法なそうです。さらには、そこからリトグラフや油彩画が制作されることもありました。

(3) 切って/回して/貼って――切断・再構成の作品

クレーは、とりあえず仕上げた作品を2つないしそれ以上の部分に切断し、そこから新たな作品を生み出したそうです。

切断された断片の上下を反転させたり、左右を入れ替えたりしながら、新たに組み合わせで再構成し、台紙に貼ってひとつの作品をしています。

(4)切って/分けて/貼って――切断・分離の作品

参考資料
・《カイルアン、門の前で》 1914, 72 水彩・鉛筆・紙・厚紙、13.5×22.0㎝/ストックホルム近代美術館

上記のように切断された後に、分解された部分が、組み合わされることなく、それぞれが独立した作品をなった事例もあります。

(5) おもて/うら/おもて――両面の作品

参考資料
・《考え込んで》 1939, 918 紙・色鉛筆・紙・厚紙、19.8×29.4㎝/個人蔵(スイス)、パウル・クレー・センター(ベルン)寄託

びっくりしたことが、クレーの両面作品の存在です。柿沼さんの研究によると550点以上の両面作品があるそうです。もちろん、全てが意味のあるとは限らないと述べていましたが。実際に見るとその機知というか、創造性というか、楽しいなあと苦笑いする次第です。単に失敗作の裏を活用する経済的意味とは別に、意図的にしかけるプロデューサー的素養を持っていた稀少な画家かもしれませんね。

(6) 過去/進行形――非売とされ、手元に遺された“特別クラス”の作品たち

参考資料
・《襲われた場所》 1922, 109 ペン・鉛筆・水彩・紙・厚紙、30.7×23.1㎝/パウル・クレー・センター(ベルン)

参考資料
・《山のカーニヴァル》 1924, 114 水彩・白亜下地・紙・厚紙、24.0×31.3㎝/パウル・クレー・センター(ベルン)

特別クラスの略記号「SCI」を見つけました。

クレーは、自ら作った作品リストをある時点より8つのカテゴリーに分けているそうです。その中でカテゴリー8にあたる「特別クラスSonderklasse」の作品は非売とされ画家の手元に遺されました。

クレーはどんな作品を「特別クラス」にしたのでしょうか。大変興味がありますね。

(終わりに――クレーの生涯と作品への尽きない探究(ヴァイオリニストの画家への道、文字絵の背景、膨大な日記・記録、晩年の天使シリーズ連作、バウハウス教授とスイス亡命など)

クレーについて、一言でいうと「色彩と線の交響楽」(参考文献6~9)という日経新聞の言葉がいいですね。その中で、「片足で踊る三人の裸の人物」は葛飾北斎の「北斎漫画」第8編「無礼講」から着想を得たと、ジャポニスムとの出会いをも紹介しています。

日本パウル・クレー協会代表 新藤真知『もっとしりたい パウル・クレー 生涯と作品』(参考文献3)からは、生涯や人間像、作品全体を知りました。特集「もっとしりたい」は、①ヨーロッパの芸術運動 ②クレーの自画像 ③クレー絵画と音楽 ④クレーの天使等を紹介しています。

水沢 勉 日経ポケット・ギャラリー『クレー』(参考文献4)は、クレー自身が自分で描いた絵画と、その説明を自らした日記・手紙を一体で編集しています。クレーの内面と表現を知る手がかりですね。

谷川俊太郎『クレーの天使』(参考文献5)は、前作『クレーの絵本』に続く待望の書き下ろしです。谷川さんは、あとがき「天使という生きもの」でこう述べています。「クレーの描く天使は、ミケランジェロのそれとも、フラ・アンジェリコのそれとも違う。クレーの天使たちはギリシャの神々のように人間的だ。かれらは私たちと同じように苦しみ、無邪気に喜び、涙にくれ、悩んでいる。」

画家パウル・クレーは、音楽、詩歌の天才でもあったとも言われています。展覧会やコレクションの名プロデューサーでもあったようにも思えます。

見る喜びと知る喜びに満ちた一日でした。そしてスイス探究旅行の喜びを夢想させてくれたパウル・クレー展でした。

以上

『パウル・クレー展― おわらないアトリエ』
会期:2011年5月31日(火)– 7月31日(日)
会場:東京国立近代美術館(東京都千代田区北の丸公園3-1)
開館時間:午前10時~午後5時(6月の金、土曜日は午後6時まで開館。入館は閉館の30分前まで)
休館日:月曜日(ただし7月18日[月・祝]は開館)
主催:東京国立近代美術館、日本経済新聞社
お問い合わせ:ハローダイヤル 03-5777-8600
http://klee.exhn.jp/index.html

(参考文献)
1.監修ヴォルフガング・ケルステン、編集 池田祐子、三輪健仁『パウル・クレー/終わらないアトリエ』カタログ (日本経済新聞社 2011年)
2.東京国立近代美術館 『パウル・クレー/終わらないアトリエ』パンフレット
3.新藤真知『もっとしりたい パウル・クレー 生涯と作品』(東京美術 2011年5月)
4.水沢 勉 日経ポケット・ギャラリー『クレー』(日本経済新聞社 1993年8月 1版)
5.谷川俊太郎『クレーの天使』(講談社 2000年10月 第1刷)
6.日本経済新聞 2011年4月17日号 「パウル・クレー――色彩と線の交響楽①」
7.日本経済新聞 2011年4月24日号 「パウル・クレー――色彩と線の交響楽②」
8.日本経済新聞 2011年5月 1日号 「パウル・クレー――色彩と線の交響楽③」
9.日本経済新聞 2011年5月 8日号 「パウル・クレー――色彩と線の交響楽④」

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thumbnail_sasaki佐々木 昭美(ささき あきよし)

取締役会長 総合研究所所長

経営コンサルタント(経営改善、事業開発、ビジネスモデル、 人事戦略、IPO、M&A、社外取締役)

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