佐々木昭美のBIエッセイ 明るく楽しくイノベーション

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2010/09/21 秋美遊① 国内21年ぶり待望の横浜美術館『ドガ展』!世界中から集うドガ作品「一瞬の中に見る永遠の美」

秋らしくなった先週17日、高円宮妃久子殿下、フィリップ・フォール駐日フランス大使のご臨席の下、「ドガ展」広報大使吉田都さん(英国ロイヤル・バレエ団ゲストプリンシパル)もご参加された横浜美術館『ドガ展』開会式に参加しました。

フランスオルセー美術館所蔵名作46点はじめ、フランス国立図書館、ボストン美術館、メトロポリタン美術館、ポーラ美術館など国内外コレクションの傑作約120点が展覧した画期的な世界的『ドガ展』(9/18~12/31)です。日本では21年ぶりとなるエドガー・ドガの大回顧展といわれます。

「一瞬の中に見る永遠の美」を描くエドガー・ドガ。

『踊り子の画家』と称されるドガの最高傑作≪エトワール≫が日本初公開です。ドガのパステル絵画は本当に素晴らしい輝きです。19世紀フランス上流階級の社交場だった競馬の一瞬を逃さない≪出走前≫など競馬をモチーフにした傑作。公的コレクションに初めて買い上げられた≪綿花取引所の人々(ニューオリンズ)≫など肖像画家でもあったドガ。ドガが生前に発表した唯一の彫刻≪14歳の小さな踊り子≫等にも驚きます。師アングルに教えられた抜群のデザイン力を示す描画の数々。当時新しい写真に大変熱心だったことも初めて知りました。ドガとの新しい出会いが一杯ですよ。

ぜひ横浜美術館に足を運び、約120点にのぼるドガの傑作をじっくりとご覧ください。

ドガ展開会式 ドガ展開会式 ドガ展開会式
※画像:ドガ展開会式出席の様子

(はじめに)エドガー・ドガを楽しむ6つのキーワード

印象派展に7回出展したドガであるが、マネやモネと違い、印象派的ではないとも言われるドガ独特の知的で詩情あふれる世界が堪能できる絶好の機会です。『ドガ展』を共同企画したオルセー美術館の学芸員で、コミッショナーを務めるフィリップ・ソニエ氏は、読売新聞紙上でこう語っています。

「一般的には印象派と呼ばれることが多いドガですが、自分はそう呼ばれることを嫌っていました。「印象」よりも、深い思索に裏打ちされた対象への「分析」を重視する知的な絵描きだったのです。」(参考文献4)

「一瞬の中に見る永遠の美」を表現するドガ作品。『ドガ展』では、初期から晩年までのドガの変遷を鄭重に企画して、近代絵画の新しい可能性を切り開いたドガ表現の革新を伝えています。『展覧会カタログ』(参考文献1)には、詳細な多くの研究論文が掲載されています。

「洗練された都会派の画家」。監修・執筆 千足伸行『DVD美術館④ ドガ NHK巨匠たちの肖像』(参考文献3)は、パリで銀行家の裕福な家庭に生まれたドガが、アングルにデッサンの大切さを教えられ、古典の模写に励み、正確なデッサン力で華やいだパリを描いた画家であると、その背景を本の冒頭で強調しています。

私は、監修・執筆 守山美花、執筆 夏目典子、写真 瀬戸秀美『魅惑のドガ エトワール物語 バレエ名曲集CD付』(参考文献2)で提起した「『ドガ展』を堪能する6つのキーワード」を参考に、『展覧会カタログ』の力を借りながら、私独自の印象も入れた6つのキーワードでご紹介致します。

(1)踊り子(バレエダンサー):ドガの全作品の半分以上がこの主題。「踊り子の画家」と言われる。

踊り子とは、実際はパリオペラ座のバレエダンサー(バレリーナ)を指す言葉です。オペラ座の定期会員になると舞台裏に入ることを許されました。裕福な銀行家の息子だったドガは、20代で定期会員となり舞台裏にも出入り出来るようになり、目撃した踊り子の自然のしぐさ、表情を描くことができたと言われます。

【≪エトワール≫ 1876-1877年 ~エドガー・ドガの代表作。日本で初公開です。】
エドガー・ドガ ≪エトワール≫ エドガー・ドガ ≪エトワール≫
※エドガー・ドガ ≪エトワール≫ 1876-77年 オルセー美術館
©RMN(Musée d’Orsay)/Hervé Lewandowski/distributed by AMF-DNPartcom

エトワールの一瞬の輝きを描いています。今回、日本初公開。すばらしい輝きですよ!≪エトワール≫の展示前は多くの方がしばらく佇み、感嘆の表情に溢れていました。

エトワールとはフランス語で「星」を意味し、パリオペラ座のプリンシプルダンサーの中でも花形スターの称号。≪エトワール≫は、紙にモノタイプで絵を刷り、その上にパステルで着色したドガが好んだパステル画法の最高傑作と言われます。

「放射線上に散る花は、観客の喝采とスポットライトを一身に受け舞台上に躍り出る彼女の躍動感を効果的に表す。・・(略)・・顎や額に明るいベージュ色のパステルでハイライトを入れ、ドガは舞台下からのライティングを表現した。」(参考文献2:7ページ)

【≪バレエの授業≫ 1873-1876年 ~ドガは、観客には見せない仕草や表情を主題に】
エドガー・ドガ ≪バレエの授業≫
※エドガー・ドガ ≪バレエの授業≫ 1873-76年  オルセー美術館
©RMN(Musée d’Orsay)/Hervé Lewandowski/distributed by AMF-DNPartcom

踊り子の一人一人の仕草や表情を見て下さい。今は、授業の合間の休憩時間なのでしょうか? ドガは、それまでは絵画モチーフに取り上げなかった「自然の姿」を好んだ。

手前の踊り子は、「金地の扇子越しに彼女はどこを見つめているのだろう。骨の朱色と首飾りの朱色の呼応が強烈な印象を残す。」 その左の踊り子は、「長く垂らした髪で、背中がかゆくなってしまったのだろうか、気持ちよさそうに背中を掻く表情に注目したい。」(参考文献2:9ページ)

(2)競馬:19世紀ブルジョア階級の新しい娯楽、社交場だった。「馬の画家」ともいわれる

古くさい主題に辟易していたドガは、優美でありながら活気や躍動感のある競馬を主題に選びました。新しい都市の実業家、富裕層にとって野外の競馬は新しい娯楽であり、社交場でもあった。ドガは馬、とりわけ純血の馬への想いが強かったらしい。1960年代初めから80年代まで多くの制作をし、「馬の画家」ともいわれます。

【≪障害競馬-落馬した騎手≫ 1866年 ~落馬という劇的な一コマを描いた野心作】
エドガー・ドガ ≪障害競馬―落馬した騎手≫
※エドガー・ドガ ≪障害競馬―落馬した騎手≫ 1866年 ワシントン・ナショナル・ギャラリー Collection of Mr.and Mrs.Paul Mellon 1999.79.10 Photo:Courtesy of the Board of Trustees, National Gallery of Art,Washington

障害競馬は、職業騎手による平地競争と異なり、紳士たちが自ら行う余暇であった。弟アシルがモデルとされる落馬した騎手の顔の細かな描写と、左側の髭を蓄えた騎手の顔の大振りな筆致が対照的です。遠景には関心なく、落馬という一瞬の表情が焦点なのですね。

【≪出走前≫ 1878-80年頃 ~横長の構図で出走前の情景を集中的に描いた】
エドガー・ドガ ≪出走前≫
※エドガー・ドガ ≪出走前≫ 1878-80年頃 E.G.ビューレー・コレクション

友人マネが観客たちの華やかな雰囲気やレースに関心をもったのとは異なり、ドガの特徴は、出走前の馬と騎手の動きに関心があったと言われます。一緒に展覧されたデッサンの展示と合わせて観てください。騎手だけ、馬だけ、馬にのる騎手といった単体のデッサンでさまざまなポーズで動きを的確につかみ、それらを組み合わせて構図を作ったことがはっきり見てとれますよ。

(3)肖像画:肖像画を得意としていたドガ

油彩、パステル、版画による肖像画の多彩な作品にびっくり。ドガは肖像画が得意でした。4年前の初秋に訪ねたボストン美術館で観た≪エドモンド・モルビッリ夫妻≫≪腕を組んだバレエの踊り子≫にも再会しました。

【≪画家の肖像≫ 1855年 ~最初の本格的な作品】
エドガー・ドガ ≪画家の肖像≫
※エドガー・ドガ ≪画家の肖像≫ 1855年 オルセー美術館
©RMN(Musée d’Orsay)/Hervé Lewandowski/distributed by AMF-DNPartcom

画業初期に15枚の自画像を描いています。師としたアングルの自画像のポーズを真似たとされるが、装いは芸術家らしくなく、ブルジョア階級の身なりですね。

【≪綿花取引所の人々(ニューオリンズ)≫ 1873年 ~ドガの転機となり、初の公的コレクションとなった作品】
エドガー・ドガ ≪綿花取引所の人々(ニューオリンズ)≫ エドガー・ドガ ≪綿花取引所の人々(ニューオリンズ)≫
※エドガー・ドガ ≪綿花取引所の人々(ニューオリンズ)≫ 1873年 ポー美術館

ドガは1872年秋から翌年春、弟が住み、母方の親戚が綿花取引所を営むアメリカのニューオリンズを訪ねています。本作は、一族とその仕事仲間の集団肖像画です。1876年第2回印象派展で賛否注目され、続いて1978年ベアルヌ美術愛好協会展覧会の出品でポー美術館に買い取られました。公的なコレクションに加えられた最初の作品です。
「サロン(官展)を中心とするアカデミズムの絵画に疑問をもち、新しい絵画表現を模索していたドガは、1876年、<<綿花取引所の人々(ニューオリンズ)>>によって、肖像画と風景画を融合し西洋絵画の因習であったジャンルのヒエラルキーを超える表現を実現した。」(参考文献1:72ページ)

(4)浴女:1880年以降の新たな画題。モチーフ、構図に日本美術の影響がみえる。

ドガはこう述べていたという。「裸婦というのは、常に観客の視線を意識したポーズで描かれるものであった」。しかし、ドガは「浴女」のありふれた場面を主題に描き、低俗化することなく伝統的裸婦像からの革新をした。歩きながら、そのデザインの数々を見ると、ドガの細密な描画に裏付けられた構想、構成であることに驚くばかりです。

【≪浴盤(湯浴みする女)≫ 1886年 ~1886年第8回印象派展に10点出展したパステル画】
エドガー・ドガ ≪浴盤(湯浴みする女)≫
※エドガー・ドガ ≪浴盤(湯浴みする女)≫ 1886年 オルセー美術館
©RMN(Musée d’Orsay)/Hervé Lewandowski/distributed by AMF-DNPartcom

フィリップ・ソニエ氏の説明がわかりやすい。ドガ自身も日本美術コレクターで、100点あまりの浮世絵、絵本をもっていたという。

「首筋をスポンジで洗う女性が描かれた≪浴盤(湯浴みする女)≫は、水差しなどの道具がのったサイドテーブルが右前面に、裸婦が左側に描かれています。遠景と近景を隣同士に並べて描く手法は日本の浮世絵の影響。また、女性は自分の動作に没頭し、描き手に気づいていないように見えます。これもドガの特徴ですね。」(参考文献4)

【≪草上の二人の浴女≫ 1896年 ~短く撫でつけるようなパステルの筆致はドガ独特】
エドガー・ドガ ≪草上の二人の浴女≫
※エドガー・ドガ ≪草上の二人の浴女≫ 1896年 オルセー美術館 ©RMN(Musée d’Orsay)/Hervé Lewandowski/distributed by AMF-DNPartcom

場面は野外だが、作品は風景描写に関心ないようである。「鮮やかな色彩や、身体の極端な単純化という本作の特徴は、晩年にドガの視力が衰えたことと無関係ではなかっただろう。」(参考文献1:128ページ)という文章に出会った。我々はどう受け止めるべきでしょうか。

(5)彫刻:意外なドガの彫刻ゾーンがみどころ

生前発表された彫刻作品はこの1点のみだったが、没後のアトリエからは粘土や蝋(ろう)による彫刻の小品が150点発見されています。

【≪14歳の小さな踊り子≫ 1880-81年(1992年頃鋳造) ~ドガが生前に発表した唯一の彫刻】
エドガー・ドガ ≪14歳の小さな踊り子≫
※エドガー・ドガ ≪14歳の小さな踊り子≫ 1880-81年(1922年鋳造) E.G.ビューレー・コレクション

1881年の第6回印象派展に出品。今では当たり前であるは、当時この過度な写実性は大きな反響を巻き起こしたという。モデルはオペラ座の踊り子でモンマルトルに暮らす貧しい家の娘であった。

「オリジナルの像は蝋製で、顔の一部に彩色が施され、リネンのコルセットにモスリンのチュチュ、練習用のトウシューズと靴下をつけていた。髪の毛は暗い色のかつらで、サテンのリボンが結ばれていた。ブロンズに鋳造されたのは、未発表のままアトリエに残されていた彫刻群と同様、ドガ没後のことである。」(参考文献1:108ページ)

(6)写真:ドガ写真作品ゾーンを歩いて、ドガの真実に触れてみる

ドガは早くから写真に関心をもっていたが、1895年頃には当時発売されたばかりのコダックの小型カメラを入手し、写真撮影に夢中になったという。ドガは、写真で撮影した裸婦や踊り子のイメージを絵画の素材として積極的に活用していました。

【≪ステファン・マラルメとポールゴビラール≫】
エドガー・ドガ ≪ステファン・マラルメとポール・ゴビラール≫
※エドガー・ドガ ≪ステファン・マラルメとポール・ゴビラール≫ 1895年 オルセー美術館©RMN(Muséed’Orsay)/Hervé Lewandowski/distributed by AMF-DNPartcom

ドガは、友人の写真を多く撮影しています。ドガは仲間内の結婚を取りまとめることを好んだともいわれています。実際にポール・ヴァレリーとジャンヌ・ゴビラールはドガによって結ばれたという。感情の起伏が激しいとも評された画家ドガは、意外にも世話好きの面があったのでしょうか?

今年11月横浜では、APEC首脳会議が開催されます。世界のリーダー、報道陣らが多数来日します。世界の多くの方々に、日本開港の地横浜ですばらしい『ドガ展』を楽しんで頂けると確信した内覧会でした。

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『ドガ展』
会 場:横浜美術館
〒220-0012 横浜市西区みなとみらい3-4-1
TEL.03-5777-8600(ハローダイヤル)
http://www.degas2010.com/
会 期:2010年9月18日(土)~12月31日(金)
開館時間:10:00~18:00
(毎週金曜日は20:00まで開館、入館は閉館の30分前まで)
休館日:毎週木曜日(ただし、9/23、12/23、12/30は開館)
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以上

(参考文献)
1.編集 フィリップ・ソニエ、横浜美術館、読売新聞東京本社『ドガ展』カタログ(発行 横浜美術館、読売新聞東京本社、NHK、NHKプロモーション)
2.監修・執筆 守山美花、執筆 夏目典子、写真 瀬戸秀美『魅惑のドガ エトワール物語 バレエ名曲集CD付』(世界文化社 2010年9月15日 初版第1刷)
3.監修・執筆 千足伸行『DVD美術館④ ドガ NHK巨匠たちの肖像』(小学館 2010年9月15日 初版第1刷)
4.読売新聞2010年9月5日号 12版28面

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