佐々木昭美のBIエッセイ 明るく楽しくイノベーション

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2010/04/26 年間300万人が訪れる「旭山動物園の奇跡」を実現したリーダー小菅元園長のお話を聞きました

 廃園の危機にあった旭山動物園が蘇った物語は、一見不透明な未来への明るい教訓だと思っています。首都東京の上野動物園に比して唯一年間300万人が訪れる日本最北端の「旭山動物園の奇跡」には誰でも驚く。映画『旭山動物園物語』が上映され、TVドラマにもなり多くの方に知られるようになった旭山動物園。その動物園再生のリーダー元園長小菅正夫氏にお会いして一度お話を聞きたいと思っていました。この4月、その思いが実現できました。

 先日、4月17日(土)新宿京王プラザホテルで小菅元園長の講演「旭山動物園の奇跡-廃園の危機からこうして蘇った」(主催 月刊誌『知致』読者の集い)を聞くことができました。また、前日16日には忙しいTV取材の合間に直接お会いし、楽しくお話する機会に恵まれました。貴重な出会いに感謝の思いで一杯です。

講演から多くのことを学びました。紙面の制約もあり、私が昨年撮影した旭山動物園写真と共に講演メモの一部をお伝えします。

(1)私の旭山動物園との出会い-映画、訪問、そして講演

旭山動物園物語パンフレット 旭山動物園にて
 昨年2月『旭山動物園物語-ペンギンが空を飛ぶ』を見て感激しました。そして、昨年9月快晴の秋、旭山動物園を訪れました。
動物園は溢れんばかりの入園者の歓声・笑顔に満ちていました。旭山動物園は、野生動物の本来持っている素顔、しぐさ、意外な能力や迫力を伝えようと必死で研究努力していると感じました。動物はすごい。動物は楽しい。その野生の素顔を自然に引き出す人間たちもすごいと驚嘆した。もぐもぐタイム、手書き看板、ワンポイントガイドなど野生動物の素顔を情報発信する飼育展示係の「場のプロデュース」が温かいと感じました。

(2)小菅正夫元園長 講演「旭山動物園の奇跡-廃園の危機からこうして蘇った」

小菅氏講演会案内 参考書籍

【誠実で親しみやすいリーダー】

小菅元園長講演は、大変楽しく分かりやすく、とてもお話の上手な方だなと思いました。リーダーにとって「正確に分かり易く伝えること」の大切さを理解して事前によく準備された上で、参加者の気持ちに合ったアドリブでの応答も素晴らしく感じられました。今や、毎日のように全国講演で忙しいそうです。体格が柔道家らしく剛健であるが、“私の話で役立つことがあればどこへも伺います”という謙虚な姿勢からは、持ち前の笑顔と共に誠実さ・親しみやすさが伝わってきます。

【トップクラスの飼育研究、繁殖実績あった旭山動物園】

動物園の飼育係とは、厳しい世界であると思った。

小菅氏は、プロの飼育係とはこう述べる。
 ① 動物のことは何でも知っている。
 ② 難しい動物の飼育で健康に長生きさせる
 ③ 繁殖に難しい動物に子を産んで育てさせる。
 旭山動物園は、ホッキョクグマ、アームヒョー、ヤマアラシ、オオタカ等日本で初めて多くの動物の繁殖に成功した実績があり、多くの表彰実績を持っているトップレベルの動物園である。

【廃園の危機の本質を見抜く】

係長になった途端、廃園の危機を知った。市長も議会も動物園への意欲も失いつつあった。入場者が低迷していたのだ。

「お客様が来ない」のであるが、動物園には当時「お客様」という言葉はなかった。

 データを分析して驚いた。開園以来40万人台が一時59万人のピークに達したがその後減少し続けていた。更に厳密にみると、有料入場者数は開園以来長期減少している。北海道北部の小学校、中学校、高校への無料化の行政施策で一時増加したのであった。

 1991年、飼育係が家族連れで有料入園者への聞き取り調査をした。その答えは、衝撃的だったが、実態を反映した真実を教えてくれた。

 動物を見る時間は、1ケ所平均2.6秒。つまり、ほとんど見ていない。面白くないと言う。「何故か?」の問いにこう答えてくれたという。
① 動かない(クマは寝ている。キリンは立っている。)
② 見るだけ(抱っこしたい。エサをやりたい。お世話したい。)
③ 毎年来てもいつも同じ(ヒマだから仕方なくやってくるが変化がない)
④ 子どもが来るところでしょ

 小菅氏によると、珍しい生きた動物を世界から集めて見せる「動物園」の形は大航海時代以来600年間、その展示方法は基本的に変わっていなかったのだという。

 更に、高度経済成長で所得が増加し、休日が増えた。ディズニーランド始め多くのエンターテイメント施設ができた。旭山動物園もジェットコースターなど大型遊技を導入したが、翌年より入園者は減少した意味を深く問い直した。全国の動物園にも当然同じ現象が起きていた。

【行動展示の創造!動物園はお客様に向かって、本質的に変わらねばならない】

 図 お客様・飼育係・動物の関係
お客様・飼育係・動物の関係

 小菅元園長より動物の行動特性の説明でナゾが解けた。

動物は、エサをくれて、支配している飼育係を見て行動している。お客様をみていない。飼育係のいない時はだらりとする。飼育係は「お客様」という意識は全くなかった。飼育の名人で立派に仕事しているという誇りに満ちていたが、お客様から離れていた。

現在は、飼育係は、職名も「飼育展示係」に変わった。飼育係は動物の生態をよく知っている。その特性、その楽しさを伝える立場に変わった。その最高の環境を提供するのが動物園である。「行動展示」という世界動物園史に残る大変革は現実との格闘技の中で生まれた。

【動物を伝えよう。魅力ある動物園への連続した改革・改善】

お客様の要望に応える動物園らしい改革・改善が始まった。
① 動く動物を見てもらうために、夜間行動する動物を見る「夜の動物園」を開催した。
② 冬の動物園は休園だったが、冬元気な動物、冬の生態をみてもらう「冬の動物園」を開催した。
③ 野生動物へエサを勝手にあげるのは危険な行為であり絶対禁止である。しかし、ふれあいをしたいというお客様への要望に応える「ふれあい動物園」を企画した。

【市民を味方につける活動を始めた】

 市長、議会の説得のためには、市民の理解、支持が大切だと気づき、市民とのふれあいの活動が広がった。
 ①ワンポイントガイド ②親子動物園 ③クイズ大会 ④絵本の読み聞かせ

【全員参加の飼育研究会。改革にスターはいらない】

旭山動物園では毎月1回飼育係全員参加の飼育研究会が、改革に大きな役割を果たした。全員参加が原則で、みんなが揃うべく小菅氏が休暇の日に合わせて運営していたらしい。リーダーの決意と思いがよくわかった。

初めて動物の生態を誰よりも知っているのは飼育係であるが、「お客様」という言葉に当初はきょとんとしたという。お客様への説明の開始には、賛成、反対、棄権・保留があったが、棄権・保留は賛成として全員参加で実行した。一番発表が苦手だった経験ある飼育係が最高の企画をして感激したことも披露された。小菅氏は、改革にスターはいらないと強調する。全員参加の重要性を骨身にしみて体感したのであろう。読まれる手書き看板・POPは飼育係が作成する。リーダーの思いが伝わったのだ。

その後の破竹の前進は、下記の写真を始め皆様よくご存じの事と思います。
 
 旭川市職員という公務員のリーダーであった小菅元園長。昨年3月まで14年という公務員としては異例の長期間園長職で改革実践の先頭に立った。一般的に公務員は改革に消極的と見られがちであるが、事業再生を成し遂げたリーダー小菅氏は笑顔と動物への夢に満ちていました。是非、旭山動物園を訪ねて楽しんでみてください。

以下、私が昨年現地で撮影した旭山動物園の写真です。
<①ほっきょくぐま館 2002年完成>
旭山動物園にて「ほっきょくぐま館」
 地上と水中と両方観察できる。威風堂々の北極の猛者ホッキョクグマを見た。人間を獲物と間違えての水中ダイブの迫力は有名である。

<②あざらし館 2004年完成>
旭山動物園にて「あざらし館」
 北極圈の岩肌を想定した疑岩の環境。海の豹と書いてアザラシ。ゆったりしていて、ごろんとした体つきがわかりますよね。ところが、水中では想像もできない位俊敏である。

<③ぺんぎん館 2000年完成>
旭山動物園にて「ぺんぎん館」
 空飛ぶペンギンを見ようと、水中トンネルへの順路は長い長い待ち行列であった。冬期開園期、毎日行われるキングペンギンの散歩にもたくさんの人だかりができるのは有名である。

<④おらんうーたん館 >
旭山動物園にて「おらんうーたん館」
 もともと高い樹上生活のオランウータンの生態を引き出す空中放飼場。毎日動かないでのんびりの動物の姿がほほえましい。一旦動き出すと空中の動きは迫力があるそうです。

<⑤サル舎>
旭山動物園にて「サル舎」
 4種類の多彩な顔ぶれの個性的サルが見られる。アフリカ出身のアビシニアコロブスとブラッザグエン。東南アジア出身のシロテナガザルとワオキツネザル。

<⑥総合動物舎>
旭山動物園にて「総合動物舎」 旭山動物園にて「総合動物舎」 旭山動物園にて「総合動物舎」
 キリン・カバ・サイ等の草食大型動物と大きな鳥エミュー、ダチョー、ペリカンが近くに住む。鳥類では世界最大がダチョウだという。キリンに負けずと首が長い。スローな動きのサイを見ていると、動物たちはどんな進化で今の体になったのか不思議に感じる。

<⑦くもざる・かぴばら館 2005年完成>
旭山動物園にて「くもざる・かぴばら館」
 写真のカピバラをじっと見ていた。微動だにしない。一日のんびりとマイペースで過ごすという。すばしっこいクモザルとの同居で対照の妙を見せる狙いという。

<⑧小獣舎>
旭山動物園にて「小獣舎」
 不思議なひょうきんな動きのシロフクロウ。寝ていると思いきや一定時間間隔で首をくるっ、くるっと回転させ、見ていて愉快である。レッサーパンダ、アライグマ、ウンピョウ、ホッキョクギツネ、アフリカタテガミヤマアラシなど個性的動物が集まる。

以上

(参考文献)
1.小菅正夫『<旭山動物園>革命―夢を実現した復活プロジェクト』(角川書店 2006年2月)
2.小菅正夫・岩野俊郎著・島泰三編『戦う動物園』(中央公論新社 2006年7月)
3.小菅正夫『生きる意味って何だろう?―旭山動物園長が語る命のメッセージ』(角川書店 2008年12月)
4.BIエッセイ2009/02/16 映画『旭山動物園物語―ペンギンが空をとぶ』を観ましたか
5.BIエッセイ2009/09/28 秋美遊① 待望の旭山動物園探訪と札幌美術館散策

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