佐々木昭美のBIエッセイ 明るく楽しくイノベーション
2009/03/02 ブックガイド人気の秘密と自分の情報リテラシー再構築を考える
書籍全体は長期低迷の中で、ブックガイド人気が際だっている。雑誌『プレジデントPRESIDENT』保存版特集『勝ち残る人が読む本 落ちる人の本 09年版 「役職・課目・場面別」厳選600冊!』(参考文献1)は、私とスタッフが東京・さいたまの書店を探してやっと1冊だけ購入できた。ちょっと出遅れると本社直売含めてすぐ売り切れ状況でした。想定以上であった。勝間和代氏、神田昌典氏という最近の人気著者を擁したChabo!を応援する著者の会著『黄金のブックガイド~私をつくった名著 人生を変えた一冊』(参考文献2)、神田昌典+勝間和代著『10年後あなたの本棚に残るビジネス書100』(参考文献3)、水野俊哉著『成功本50冊「勝ち抜け」案内』等が出版され、ブックガイド関連本が大きなスペースで積み上げられている。良く売れているそうだ。
インターネット時代において、最近のブックガイド人気の秘密を知りたくて、上記4冊を購入し読んで見ました。私は、店頭はもちろん書評やブックガイドの愛好者ですが、皆さんは本の選択をどうしていますか。ブックガイドを活用していますか。
(1)「“学び本”ブームはなぜ起こっているのか」の探究から見えてくるもの
経済評論家 勝間和代氏は、その著書や紹介書はほとんど売れるという超売れっ子である。その勝間氏が、「“学び本”ブームはなぜ起こっているのか」(参考文献2:2ページ)のタイトルで、その背景について2つの変化から説明をしています。<第1は、社会情勢が「自己責任の時代」に大きく変化したことだと言います。>
『企業も政府も、・・(略)・・面倒をみたい気持ちはあるのですが、面倒をみる余裕がなくなってきたのです。政府は未曾有の財政赤字を抱えていますし、会社も儲かっているのは一部の企業だけで、多くの企業は以前のように社員の家族まで手厚く面倒をみるほどの利益を上げられなくなってきました。』(参考文献2:2ページ)厳しい時代を認識して、ビジネスマンの多くが自分の職業と人生のためには、これまで以上に本格的に勉強しなければと自覚したということでしょうか。世の真実を知って、甘かった自己認識を改め、自己投資することは理由はともあれ良いことですね。日本でも、社会人がMBA・MOT等大学院で再度専門的勉強をする方も増えています。欧米のエリートは、20~30歳台に2つ以上の修士取得はよくあることです。米国で20~30年前に起きた社会変化が、日本にも本格的に訪れたのでしょうか。背景は同じですが、そのスピードと深さに注視していくべきだと思います。
<第2は、デフレとインターネットの爆発的発展と述べています。>
私がインターネットビジネスの世界に入って16年ですが、この期間日本だけはデフレの時代でした。そのデフレの時代に、特にここ10年でISP(インターネットサービスプロバイダー)が発展し、日本は世界一のブロードバンドインターネットの最先端国家になりました。『1990年代にインターネットが登場して、それでもしばらくは知識獲得の方法として書籍が主、インターネットが従だったのですが、ここにきて主従が逆転しつつるという状況にまで変化してきたのです。・・(略)・・ではどうしたらいいか――「とりあえず、先人の話を聞いてみよう」となり、そのニーズが“学び本”に向かっているのだと思います。』(参考文献2:2~3ページ)
『本は、この出版不況にもかかわらず出版点数だけは右肩あがりで、毎日200点の新刊が出されていますし、インターネット上のコンテンツの量も飛躍的に伸びています。そこで何が起こっているかというと、情報の取捨選択が非常に困難になってきています。このことが最近の“読書本ブーム”を引き起こしているのです。』(参考文献2:6~7ページ)
今までの方法での読書や学校という伝統的手法だけでは通用しなくなるのではないかという不安を感じるようになって、新しい手法、新しい情報選択を求めて模索していると分析しています。
(2)読者がブックガイドに求めるものと、ブックガイド著者が本を選ぶ視点
<読者は、現在のブックガイドに何を求めているのでしょうか。>
直接インタビューの代わりに、売り切れたと思われるプレジデント2009年2月2号(参考文献1)のテーマ構成からニーズを推察してみる。当然ながら、実に多様である。◇経営トップ告白「勇気をくれた!」永遠の60冊
◇「役職別」力をためる、グンと伸びる105冊
~若手社員、中堅社員、部課長、役員・社長候補、女性リーダー
◇30場面別「あなたの困った!」を救うベストガイド
~生活を防衛する、ビジネスの達人になる、心に安らぎを取り戻す、スキルと教養を磨く、男心・女心がわかる、
◇「10大課目別」勝敗を分ける勉強本150冊
~マーケテイング、営業、企業経営、金融・経済、科学・技術、法律・社会、世界情勢、倫理・哲学、会計・財務、政策・政治
<ブックガイド著者は、どんな視点で本を選択して、紹介しているのでしょうか。>
作家・コンサルタント 神田氏は、『本の選択は、知識の出合いではなく、人との出合いである――そのことを踏まえて、私としてはあなたの学びになるだけでなく、友人になれる本を選びました。・・(略)・・ただ重要なのは、本のセレクションは、あなたの個性であるということです。本棚は、頭の中、そして心の中を映し出します。ですから一番やってはいけないことは、本書に掲載された本を順番に1冊ずつ読破しようとすることです。・・(略)・・むしろ、あなたの身体が衝動を感じる本を買ってください。』(参考文献3:はじめに)
と述べている。人生を変えた「運命の本」との出合いとして、ジョセフ・マーフィー著『マーフィー眠りながら成功する(上・下)』(三笠書房)、渡部昇一著『知的生活の方法』(講談社)を紹介している。
本職はプログラマーで、カリスマBOOKブロガーの子飼弾氏も、専門のIT分野のおすすめ本と別に「僕の人生を変えた本」4冊を紹介しています。筒井康隆『家族八景』(新潮文庫)、ロバート・A・ハインライン『異星の客』(創元SF文庫)、ジョー・ホールドマン『終わりなき戦い』(ハヤカワ文庫)、カール・セーガン『コンタクト』(新潮文庫)。(参考文献2:106~107ページ)
結論的には、それぞれの専門分野とノンジャンルの両面というオーソドックスな見解のようです。本とは、学びのガイドである。同時に本を通じた出合いは人生を変える力もある潜在力を秘めている。
<私は、多数のブックガイドを組み合わせて活用する。>
本自体が100倍、1000倍の情報を選択し、統合し、創造した価値ある情報だと思います。インターネット時代においても本の価値は変わらないと思う。ブックガイドは、更にその本の中から取捨選択してガイドする本です。そういう点では、私は、1冊に絞らずに多くのガイドブックや新聞・雑誌書評、ブログ書評等を総合的に組みあわせて活用する能力を再構築する必要があると思いました。本との出合いにも良縁でありたいと思う。(補足)情報リテラシー・メディアリテラシーという言葉を知っていますか。
ブックガイドをめぐる問題は、自分の情報リテラシー・メディアリテラシー再構築について考えさせてくれる。情報リテラシー(じょうほうリテラシー 英:information literacy)とは、情報 (information)とリテラシー (literacy)を合わせた言葉である。『リテラシーとは、読み書きできること、ひいては広く社会で求められる「教養」を身につけていることである。』(参考文献5:177ページ)
日本においては、コンピューターリテラシーと混同されている場合があるので、注意が必要である。情報リテラシーとは、現在におけるリベラルアーツといった方が良いかもしれない。
本エッセイは、情報リテラシーがその主題でないが、関連する本2冊を紹介する。
◆三輪眞木子著『情報検索のスキル~未知の問題をどう解くか』
『本書では、未知の問題への取り組みに求められる情報の獲得と新知識の創造を問題解決の重要な要素と考え、その全体を情報問題解決プロセスとしてとらえる。』(参考文献5:2ページ)
◆日垣 隆著『情報の「目利き」になる!~メディア・リテラシーを高めるQ&A』
『メディア・リテラシーとは、私の考えでは、情報の目利きになる、ということです。・・(略)・・社会人の教育的テーマです。』(参考文献6:9~10ページ)
『換言すれば、メディア・リテラシーとは、広い意味で取材能力と表現力のことなのです。』(参考文献6:215ページ)
以上
(参考文献)
1.『プレジデントPRESIDENT』-勝ち残る人が読む本 落ちる人の本 09年版 「役職・課目・場面別」厳選600冊!(プレジデント社 2009年2月2号)
2.Chabo!を応援する著者の会『黄金のブックガイド~私をつくった名著 人生を変えた一冊』(東洋経済新報社 2008年12月)
3.神田昌典+勝間和代『10年後あなたの本棚に残るビジネス書100』(ダイヤモンド社 2008年10月)
4.水野俊哉『成功本50冊 「勝ち抜け」案内』(光文社 2008年1月)
5.三輪眞木子『情報検索のスキル~未知の問題をどう解くか』(中央公論新書 2003年9月)
6.日垣 隆『情報の「目利き」になる!~メディア・リテラシーを高めるQ&A』(ちくま新書 2002年9月)