佐々木昭美のBIエッセイ 明るく楽しくイノベーション

 INDEX 

2009/02/23 ビル・エモット英「エコノミスト」元編集長の世界の見方

 英国人であるエモット氏は、英国人と日本人は内気で似ていると述べる。世界覇権国家であった英国人程でないとしても、同じ島国である日本人の多くの方が、昨今の経済危機を体験しつつある中で、マクロな認識(世界の政治・経済・社会・科学・技術等)の重要性を痛感していると思います。2008年年末からマクロな認識に関する資料を収集・研究しています。少しずつ紹介させていただきます。

 英『エコノミスト』元編集長ビル・エモット著・烏賀陽正弘(うがや・まさひろ)訳『世界潮流の読み方』(PHP研究所2008年12月 本体780円税別)は、世界の多面的考察に役立つ卓見な小冊子である。電車通勤の合間や休日1日で読める秀逸なコラムの集大成である。テーマと地域の組み合わせで構成されている。その一部を味わってもらいたい。世界を知るウォッチしておくべきジャーナリストだと思う。
参考文献「世界潮流の読み方」

(1)エモット氏のコラムから一部紹介「アメリカはなぜオバマを選んだのか」
   ―経験が浅くても大統領になれる保守的なアメリカ憲法

 黒人初のオバマ米国大統領就任は、世界で最近最もホットな出来事である。“希望と美徳によって、試練に立ち向かおう”と、オバマ大統領は1月20日就任演説で呼びかけた。〔BIエッセイ2009年1月26日号『オバマ新大統領“就任演説”からエッセンス(真髄)を読む』参照〕普遍的価値を掲げ、希望という楽観主義を取る姿勢に共感し、尊敬する一方、その背景についての本質的理解は不十分であると思った。アメリカという国は、我々が想像する国とはとてつもなく違うのでなないか、という直感を強く持ったのである。

 英国人で世界潮流の観察を生業とするジャーナリストであるエモット氏も、同じようにアメリカの他国との相違を強調している。
『2008年の選挙結果は、単なる人種やオバマ氏の個人的な問題のいずれとも違うものがあることを、アメリカ人以外の私たちに教えてくれる。すなわち、アメリカは他国に比べて、どのように相違し、いかに独特であるかということだ。しかも、他の民主国家とは明らかに違うのである。』(185ページ)

一体どう違うのか? エモット氏は、以下4点で説明している。
 
 第1は、アメリカは人種の多様な移民国家である意味をどう読み解くかである。
『まず一つ目に、社会の本質そのものが違うのだ。大半の国は、多様性や、大多数を占める民族の他に、マイノリティー(少数民族)が存在することを懸念する。・・(略)・・アメリカでの国家全体のアイデンティティは、多様性にある。・・(略)・・人種間の対立は、アメリカが不安定で、争いが絶えない国であるかのように外国人に誤解されるのだ。・・(略)・・だが、アメリカは本質的に、多様性の下に建国された移民の国であり、権利の平等を約束されているので、国民はそれを獲得するために、激しい争いになるのである。』(185~186ページ)

 第2は、アメリカ人は、本能的に変革に夢を持つという国民的特性の認識である。
『オバマ氏が当選したことは、・・(略)・・二つ目のきわめて重要な相違点も示している。すなわち、物事が間違った方向に進むと、アメリカ人が、本能的に再生や刷新、それに変革を求めようとするのだ。アメリカ人は「アメリカン・ドリーム」と呼ぶのは、チャンスを得る夢だけでなく、再生し、新しい考えの下に、新たな場所で、新生活を始める夢を持つことである。』(186ページ)

 第3は、アメリカ人は、楽観主義とポジティブな考え方が強い国民であるとの認識である。
 オバマ氏も、過去の失政への批判はするが、
『そのような攻撃は、彼の真意ではなかったのだ。変革は可能であり、再生はきわめて重要なだけでなく、実現可能だというのが彼の真意である。“Yes, We Can”(われわれはきっとできる)が、絶え間なく繰りかえされた、彼のキャッチフレーズだった。』(187ページ)

 第4は、アメリカ独特の政治制度が、オバマ大統領誕生の真の意義と喝破する。
『アメリカ建国の父、トーマス・ジェファーソンとジョージ・ワシントンが十八世紀末に合衆国憲法を制定した際、彼らは政府が国を支配することを意図的に難しくしている。大統領と議会、それに最高裁判所の3権に分離したことは、専制政治を防止し、いかなる人間や集団も、国家の政策を少なくとも長期間支配しないことを、確実にしたのである。 
私は、このきわめて束縛的で保守的な憲法こそが、オバマ氏の並外れた勝利を導いた最後の理由だと考えている。大統領権限がかなり制限されているから、選挙民は彼のような経験が浅い非白人を、最高の座に就かせる危険を冒せるのだろう。・・(略)・・多様性と再生、それに楽観主義のすべてが、憲法で制限されていることが、オバマ氏をアメリカ第四十四代の大統領への勝利に導いた真の意義なのだ。これはアメリカ以外には、起こりえないことである。』(188ページ)

 アメリカ以外では、起こりえないと強く断定する論評は、我々に大事な視点を提供してくれる。国内外のマスメデイア(登場する学者等含め)の見解を盲信せず、アメリカという国を賢察せよという警句である。エモット氏は、マスメディアがダミング・ダウン(知的水準の低下)している現代において、尚極上の情報を求める多くの人々がいることも紹介している。(「イギリスの小さな町の“書籍祭り”-ありきたりの情報に満足できない人々」268~273ページ)

(2) ビル・エモット『世界潮流の読み方』のセールスコピー

 読書は多様な深い考察を導く一助であるのは、世界共通のようである。書評とは、一つのジャーナリズムの領域であるが、インターネットでの本購入の飛躍的増大と共に、書評とセールスコピーの領域混合が進んでいるようである。しかし、購入のポイントは書店店頭と変わりない。著書のPR文を抜粋して紹介する。

 <訳者 烏賀陽正弘(うがや・まさひろ)氏のあとがき>
 「格調高い英語もさることながら、感嘆させられるのは、その洞察力や分析力の深さと、視点のスケールの大きさだ。・・(略)・・さらに、エモット氏の論旨は、非常に理論的な上に、説得力がある。というのは、彼は必ず現地に自ら足を運び、事実をその目で確かめ、論考しているからだ。」

 <本の帯>
 世界同時不況で欧米、日本、アジアはどうなるのか?
 英『エコノミスト』元編集長が冷静かつ大胆に予測する!

 <目次>
序章  欧米の失速で、日本経済はどうなる
第1章 日本の課題と挑戦
第2章 中国―世界の注目を浴びて
第3章 変容するアジア大陸
第4章 アメリカ-信用収縮に苦悩する大国
第5章 ヨーロッパ-新たな課題を乗り越える
第6章 中近東とアフリカ-紛争を終結できるか
第7章 グローバリゼーションと地球温暖化
第8章 レジャーと娯楽

<著者略歴>
ビル・エモット Bill Emmott

1956年ロンドン生まれ。オックスフォード大学で政治学、哲学、経済学の優等学位を取得。英国『エコノミスト』誌ブリュッセル支局員、ロンドン経済担当記者を経て、1983~86年、東京支局長として日本に滞在。その後、ビジネス部門編集長となり、1993~2006年、同誌編集長を務める。

日本のバブル崩壊を予言した90年の著書『日はまた沈む』がベストセラーに。2006年には、日本経済の復活を宣言した『日はまた昇る』(草思社)を刊行し再び話題となる。他の邦訳書に『アジア三国志』(伏見威蕃訳、日本経済新聞社)、『日本の選択』(ピーター・タスカ氏との共著、講談社インターナショナル)、『これから10年、新黄金時代の日本』(烏賀陽正弘訳、PHP新書)など。

以上

トップへ

サービスのご案内

無料相談会

お問い合わせ

コラム「ミニ講座」

BIエッセイ

特集コラム

採用情報

無料メルマガ

無料メルマガ
BIPニュース
配信中!

BIPからのお知らせ、ビジネスに役立つ情報、佐々木昭美のBIエッセイ要約等、月2回配信!

メールアドレス:

東北復興支援

ページ上部へ戻る
Top