佐々木昭美のBIエッセイ 明るく楽しくイノベーション

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2008/11/04 日本の“王朝文化”に触れた大琳派展

―文化の秋 美と人生を味わう(1)―

<まえがき 文化の秋に寄せて>

 昨日、11月3日は文化の日であった。すでに秋後半ですが、11月のBIエッセイは、「文化の秋 美と人生を味わう」をテーマに書いてみたいと思います。

私は、昭和敗戦後の秋9月、両親より名前は昭美と“美”を頂いて生まれた。残念ながら、美術、音楽などの分野だけは、学業で最高点を取れなかった記憶が強い。子供の頃、男の子にとって“美”の名前はやっかいなこともあったが、“美”を“よし”と読ませて、“義”ではなく、わざわざ“美”を使った親の真意を無限に連想できて楽しいと思えるようになった。

「佐々木さんは、いつも夏のようですね。いつも、心が熱い。」と言われることがある。体育会系(中高卓球部、社会人野球ピッチャー)のノリで熱いタイプであるのはその通りではあるのだろうが、爽やかで静かな秋が大好きである。もちろん、人生のすばらしさは、灼熱の夏のような燃える人生があってこそ、秋の軽やかなバランスが心地よいと感じるのであろう。心の美もあってよいと思う。秋は、美と人生を味わう最高の季節である。

<「大琳派展―継承と変奏」を観て>

 先般、上野公園の東京国立博物館にて、尾形光琳誕生三五0周年記念「大琳派展―継承と変奏」を鑑賞した。 本阿弥光悦の生誕四五0周年でもある。“華やかさ”と“静寂”を融合した日本人独特の魂と表現に触れることができ、大いに満足した。11月16日までなので、是非お奨めしたい。
東京国立博物館前にて

(1)1972年以来の「琳派」総合展覧会

 「琳派」の総合展覧会としては、滅多に見られない企画だと知った。東京国立博物館創立百周年記念特別展(1972年)以来の大規模な展覧会であり、盛況であった。
 本阿弥光悦、俵屋宗達、尾形光琳、尾形乾山、酒井抱一、鈴木其一の六人の作品である。
 国宝7件、重要文化財34件を含む絵画、書跡、装飾工芸など約240点が展示されています。

(2)「琳派」の何に惹かれたのか? 

 この10年程前から内外の美術館めぐりは、私の人生の一部になりつつある。広義の「琳派」と称される現代作家の絵に惹かれ、数年前に購入し自宅に飾っている。
琳派という名は、光琳の名前に由来し、琳という文字は美しい玉という意味をもっているという。そして、琳派という流派は『何よりも、鮮やかな絵具と金銀を多用した豪華さが人々の目に美しく映る。人間が最も単純に、それゆえ純粋に、希求する美の世界といえるだろう。』(図録32ページ)
 美の純粋性という意味を説明するように求められても、私にその能力はない。只、琳派の美には、見たい、触れたいと心が素直に感じる何かがある。華美はあってよい。

(3)宗達、光琳、抱一、其一『風神雷神図』『燕子花図屏風』の「継承と変奏」が一堂に

 教科書の記憶からすぐ思い出す『風神雷神図』は、4人の作品が一堂に見られます。
俵屋宗達筆『風神雷神図屏風』(京都・建仁寺)、尾形光琳『風神雷神図屏風』(東京国立博物館)、酒井抱一筆『風神雷神図屏風』(東京・出光美術館)、鈴木其一筆『風神雷神図襖』(東京富士美術館)と、所蔵が異なる名品の比較鑑賞という場に好きな時間遊歩する愉悦を味わえる。

 王朝文学である伊勢物語をモチーフとした有名な尾形光琳筆『燕子花(かきつばた)図屏風』(東京・根津美術館)。酒井抱一『燕子花図屏風』(東京・出光美術館)は、光琳の燕子花を継承しつつ、表現は『王朝物語から江戸俳諧の世界へと転生している。』(図録142ページ)という「変奏」を自分の目で細部まで見ることが出来る。

 「琳派」は、狩野派のように世襲による画派ではない。光琳が光悦、宗達に私淑し、その光琳を抱一、其一が慕い、触発され継承されてきたと考えられています。同時に『現代の我々が勝手に作品を集め枠組みを作っただけの流派かもしれない。』(図録34ページ)という意識をもつべきとの見解にも出会った。

(4)武家社会で花開いた京都町衆の「王朝文化」復興

華やかな「琳派」が、何故徳川時代に勃興したのか私には大いなる疑問であった。

『本阿弥光悦(1558-1637)と俵屋宗達が活躍したのは、江戸時代初期の京都である。慶長八年(1603年)に徳川家康が幕府を開いて、政治・経済上にも圧倒的に優位にあったとき、京都では、天皇を中心とする公家や茶屋・後藤・角倉といった上層の町衆らによって、伝統的な王朝文化の復興がはかられていた。』(図録46ページ)という。

 その百年後、京都を代表する呉服商「雁金屋」の次男、三男が尾形光琳、乾山である。
当時、光琳意匠(デザイン)は人気ブランドとなり、小袖、団扇、焼物、蒔絵の器物などに取り入れられた。弟乾山は、陶磁器の分野に展開した。

 江戸に生まれた酒井抱一は、光琳の百年忌法要を営み、『光琳百図』を出版し、光琳顕彰に力を注いだ。『しかし、抱一は光琳の画風をそのまま継承したわけではなく、俳味や機知に富んだ、光琳が創り出した京都のものとは一風違った琳派の画風を江戸の地において、つくり上げたのである。』(図録222ページ)という。そのトーンの変化は、見ていて素人の私にもハッキリ分かる。

平安朝から綿綿と続く和歌絵本や歌謡絵本の継承と、光悦・宗達による金銀泥による新しい色彩装飾が、“王朝文化”の総合芸術復興にまで繋がる契機となったのは神秘にも見える。芸術創造力に乏しい私には、美を求める人間性・精神性の秘められたエネルギーは永遠なのだとすぐ人間讃歌に寄り添ってしまうのは単純すぎるのだろうか。もちろん、個人技の卓越性・偶然性に限りない敬意を表した上であるが。
「継承」とは、多くの作家の綿々とした努力と支える無数の人々の心の有り様に対する価値ある金メダルだと思う。

(5)美(び)と人生(たび)の喜びを味わう

イタリアルネサンス絵画は有名である。スペイン宗教絵画、オランダフランドル絵画も見どころがある。今年夏に訪れた古代ギリシャ建築・芸術は素晴らしかった。もちろん、日本画、日本工芸も負けていない。

内外の美術館・博物館を訪れていつも感じるのは、その時代の材料、絵具、技法などの技術・表現力への驚嘆もあるが、何よりも人間の普遍的な精神性の躍動と発露である。しかも、その多様性というか、時代性というか、心の宇宙の広がりである。人類の心の息吹と美意識を脈々と伝える“美術作品”。

私の美(び)への意識的触れあいの歴史は短いし、知識は少ない。そのためかどうかは自分でも判からないが、美への純粋な喜びを強く感じることが多いが、それは人生(たび)の喜びを同時に味わっているからかもしれないと思う時がある。

以上

(参考文献)東京国立博物館・読売新聞社『図録 大琳派展―継承と変奏』(引用は、図録と略称する)

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