第11回「Ｍ＆Ａ成功に向けた「企業風土の可視化」の取り組み」

コラム「ミニ講座」

2015/01/15　第11回「Ｍ＆Ａ成功に向けた「企業風土の可視化」の取り組み」

スピード感を持った事業戦略を実現する上で、Ｍ＆Ａは有効な手法の一つと捉えられるようになっています。Ｍ＆Ａに積極的なのは、かつては外資系企業が中心でしたが、昨今では国内企業でも、その規模の大小を問わずに実行される機会が増えています。

Ｍ＆Ａのメリットがある一方で、実際に統合された組織がシナジー効果を得るのは、そう簡単ではありません。Ｍ＆Ａは企業同士の結婚に例えられますが、結婚にはお互いの性格や生活上の習慣といった部分での相性があります。Ｍ＆Ａでは“企業風土の相性”がこれにあたります。

結婚は一対一の個人同士の関係なので、それぞれ目の前の相手との相性を見極めればよいですが、Ｍ＆Ａの場合は、お互いが“企業”という人間の集合体です。いろいろな考えの人がいて、その考え方には幅があります。このため、経営陣の相性は良くても一部の現場同士では相性が悪いなどといった、局所的な不整合が出てきます。そして、実際には組織の末端で起こるこのような些細な行き違いが、会社全体のシナジーに多大な影響を及ぼします。

企業風土の相性を見極めることは、重要だが思いのほか難しいということですが、にもかかわらず、Ｍ＆Ａが行われる際には、企業データや事業ドメインといった理屈上の相性ばかりが優先され、企業風土の相性を見極めて、それを融合させるような取り組みは、ごく表面的なことであることが多いです。

企業風土の違いがどんな所に出るかというと、例えば、ある業務の進め方として、自らいろいろな判断を下しながら、非常に自律的に行動する社員がいたとします。一見すれば仕事ができる優秀な社員と思いますが、これを上司への相談が少なく自分勝手な判断をする、組織的な動きができないダメな社員と捉える価値観もあります。

これは良し悪しではなく、それぞれの企業風土や文化として染みついたものなので、それぞれの価値観としてそう簡単に変えられるものではありません。それぞれの社員がこういう違いを取り上げて、お互いに「あいつらはダメだ」「あいつらのやり方はおかしい」と批判を始めます。考えてみれば、目の前に自分たちの価値観とは正反対の人間がいきなり現れたとしたら、そんな反応になってしまうのは無理もありませんし、お互いの“良くない第一印象”というのは、後々まで尾を引いて残ります。

こういう反応を極力避けるためには、事前にお互いをよく知っておくことが必要になります。社員同士が顔を合わせるイベントなど、方法はいろいろ考えられますが、その方法の一つとして、「企業風土の可視化」があります。企業風土調査のツールを使う、社外の第三者機関に依頼するといったやり方が一般的だろうと思います。

企業風土の違いについては、特に日本の企業の場合、お互いにはっきり伝え合う努力をしなくても、相手の意図を察しあうことで、なんとなく通じてしまうハイコンテクストな環境であることが多く、企業風土の違いが意思伝達に直接影響するため、少しの違いに過剰反応してしまう傾向があります。意図した通りに指示が伝わらない、評価基準のばらつきが大きくなるなどといった実害も出てきます。

しかし、「企業風土の可視化」をしておくと、あらかじめお互いの会社の価値観として、同じ部分と違う部分を認識でき、お互いの拒絶反応を減らすことができます。また、新会社としての企業風土の在り方を事前にすり合わせる、新たな組織や人事の仕組み作りに活かすといったこともできますし、相手によってコミュニケーションの取り方をアレンジするなど、現場で実務を行う上での対応もできます。

Ｍ＆Ａでは、相手選びや統合プロセスなどの前段部分が重視されがちですが、実際には統合した後の事業展開や組織運営などの結果が、Ｍ＆Ａの成否として評価されます。それなりに時間もかかりますし、様々な想定外や状況変化もあります。

Ｍ＆Ａを成功に導くのは簡単なことではありませんが、その一助として、「企業風土の可視化」というテーマにも取り組んでみてはいかがかと思います。

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