2014/11/14 第10回「賃金の「年功」は無くなっても、職務経験の「年功」は無くせない」
先ごろ大手電機の日立製作所が、国内にいる管理職の賃金体系について、グローバルな共通基準を用いたものにあらため、これまでの年功的な賃金要素は廃止するとの発表がされました。
かつての大企業のように、中途採用がほとんどなく、多くの社員が新卒入社から定年まで勤め上げるということであれば、長期的なスパンで人件費の調整を見込める年功賃金には、それなりのメリットがありました。
しかし、昨今のグローバルかつ人材が流動化した環境下では、年功賃金は優秀な人材を獲得する上での競争力を阻害する仕組みとなってしまいます。賃金を決定する上で、年功的な要素を考慮することは、今後は減ることはあっても増えることはないというのが実際のところでしょう。
その一方で、最近あらためて「年功序列」を見直し、うまく活用しようという動きが一部の企業に出てきています。
例えば、入社後10年間は、会社として必要なスキルと経験を身につけてもらう期間として位置づけ、昇格スピードには差をつけずに社内で業務経験を積み、競争はその後からというようなことをしているところがあります。会社として10年の育成期間を設けるということですが、その間でも短期的な成果は、賞与で差をつけて反映するのだそうです。
「年功序列」というと、不平等な仕組みの象徴のように言われることもありましたが、世の中に存在する仕事の中で、年月を経ていくことで身につけられるスキルや経験、すなわち年功的な要素がまったく関係ないものというのは、たぶんほとんどないと思います。新しい発想、新しい技術、新しい方法だけがすべてということはないでしょう。
仕事の結果として得られる成果に、年令が関係ないことは確かだと思いますが、職務経験においては、年令相応の経験値というのは確実にありますし、周りからもそれに合わせた要求をされます。スキル・経験と年令は、正比例の関係ではありませんが、ある程度の相関性はあります。
かつての「年功序列」は、それが第一優先の基準だったため、生み出した成果、保有能力や経験にかかわらず、ただ年令や勤続年数が上だというだけで、給料も役職も権限もみんな上というものでした。
そこから成果主義への移行がありましたが、今度はそればかりを重視しすぎたため、中長期の職務経験の積み重ねで得られる経験知や暗黙知(言葉では表しづらい知識)が、軽く扱われるようになりました。中高年層を中心にしたリストラなどで、現場が回らなくなってしまう企業がたくさん出てきました。
体力、記憶力、新しいことへの適応力や吸収力といった、年令とともに衰えていく能力がある一方、人脈、応用できる事例、経験に基づく引き出しの数や中身、その他いわゆる人生経験は、年令とともに増えていきます。これらをすべて足し引きしたものが、仕事をしていく上での「総合力」ということになります。
この「総合力」は、年令を問わずに増やすことができます。若年層ではいろいろなことを素早く吸収すること、中高年層では衰えるものを上回る積み上げをすることです。
経験値や暗黙知も含む「総合力」に注目すると、「経験する」「場数を踏む」ということにおいては、ある程度の時間をかけてそれを繰り返していくことが必要です。中長期で考える年功的な要素が、人材育成には必要になってきます。
賃金としての「年功」は無くなっていくでしょうし、もう不要なのかもしれませんが、職務経験の「年功」は無くせないものです。
そんなことを考えると、適度な内容であれば、特にまだ未経験に近い若年層においては、「年功序列」も必要な考え方ではないかと思います。
小笠原 隆夫(おがさわら たかお)
コンサルタント(人事制度、組織活性化、採用支援)
人事制度構築、組織活性化といった人事の悩みは、多くの企業で抱えている のではないでしょうか。
人事コンサルタントとして直面した課題事例や、人の感情ややる気・ムードといった人間の感覚的な切り口を合わせ、みんながハッピーになれる人事、組織とはどんなものなのかを考えて行きたいと思っています。
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