2014/07/21 第8回「「差がつく評価制度」は本当に良いことなのか?」
人事制度上の処遇の話題の中で、「うちの会社は同年齢、同じ社歴でも、年収で最大○百万円の差がつく」というような話をされることがあります。自社が能力主義、実績主義であるということを強調したいゆえのお話だと思います。
私が今まで人事制度の検討に関わってきた経験の中でも、主にその会社の経営層の方々から「もっと差がつくような制度にしたい」という要望が出て来ることがあります。「力のある者に厚く処遇したい」「結果を出している者に報いる制度にしたい」と言われることが多いです。
この気持ちは十分に理解できますし、俗に言われる「悪平等」があるのだとすれば、それは決して良いことではありません。そうは言っても、ただ単に給与の金額や昇格スピードなどの差がつくようになればそれが解消されるかといえば、そういうわけではありません。
人事制度における評価というのは、どんな精緻な仕組みであっても、その差が本当に適切なのかは、結局は誰も説明できません。あくまで自社の価値観をもとに作った、現状の仕組みに基づいて評価をするとそういう結果になったというだけです。
100%の納得になることはなかなかないですし、評価結果によって差がつく度合が大きくなればなるほど、その結果に関しての納得できる説明が得られないと、社員たちの意欲はどんどん下がっていきます。これは評価が低かった者だけでなく、高評価を受けた者さえも、その評価が継続しないことに不満を溜めていくというようなことがあります。
人事制度の本来の目的は「組織全体の業績を上げるために、人的資源を活性化する」ということです。言うまでもありませんが、会社というのは人の集まり、人の集合体であり、そこにはいろいろなタイプの人が混在しています。
年令の差や性別の差からはじまり、競争心がある人もない人も、熱い人も冷静な人も、出たがりも控えめも、派手な人も地味な人も、属性やタイプの違いは千差万別です。そしてそのすべての人たちが、会社としての戦力になっています。
ともすれば「差がつく」という形で競争心をあおることが、万人のやる気につながるように思いがちですが、競争が得意な人も苦手な人も、他人との差に興味が強い人も弱い人もいます。
もしも競争の苦手な人が多数の職場であったとすれば、競い合うことを煽るよりも、より落ち着いて協力し合う環境を作った方が、組織としては活性化していくかもしれません。あえて「差をつけない」という仕組みの方が望ましい場合もあり得ます。
自社の特性をしっかり見つめた上で、その特性に基づいた仕組みで評価を行い、その結果として差がつくことがあるのならば、それでも良いと思いますが、ただ初めから「差をつけること」が目的ではありません。
企業風土、仕事の進め方のスタイル、社員の性格傾向などの見極めも行った上で、人事制度の本来の目的である「業績向上のための、人的資源の活性化」を念頭に置いた上で、評価のしかたを考えていくことが必要だと思います。
小笠原 隆夫(おがさわら たかお)
コンサルタント(人事制度、組織活性化、採用支援)
人事制度構築、組織活性化といった人事の悩みは、多くの企業で抱えている のではないでしょうか。
人事コンサルタントとして直面した課題事例や、人の感情ややる気・ムードといった人間の感覚的な切り口を合わせ、みんながハッピーになれる人事、組織とはどんなものなのかを考えて行きたいと思っています。
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