2013/09/17 第3回「なぜ「成果主義」がうまくいかないか(「成果主義」と「目標管理制度」の今)」
「成果主義」は、この10数年で「目標管理制度」とセットの形で多くの企業に取り入れられ、途中行き過ぎた形からの揺り戻しはありましたが、現状使われている人事制度では、何らかの形で成果主義的な要素を持っている場合がほとんどと思います。一般的には定着している考え方ということができるでしょう。
にもかかわらず、「成果主義」と「目標管理」については、多くの否定的な見解も見受けられます。私が知る中でも、「成果主義」と「目標管理」によって、業績が上がったとか、社内が活気づいたという100%肯定的な話は、残念ながらあまり耳にしたことがありません。
では、そんな制度ならばなぜやめないのかとなりますが、実際に「成果主義」と「目標管理制度」を全面的にやめたという話もあまり聞きません。これには「思ったほどではなくても一定の効果はあった」ということと、「やめたとしてもその代わりになる仕組みが見出せない」ということのいずれかの理由が多いと思います。中には「後ろ向きな姿勢と取られたくない」「今さらやめるといえない」なんていう、あまり合理的でない理由もあるようです。
少なくとも「頑張った人には報いる」という考え方は肯定しつつも実際にはなかなかうまくいかず、かといって他に良い方法も見当たらず、現場の慣れを期待しつつ、制度を修正しながら運用しているというのが実態ではないでしょうか。
成功事例があまり多くなさそうな「成果主義」ですが、一部ではある程度うまくいっている例もあります。
例えば、比較的大企業で平均以上の賃金水準を維持している会社では、一定の安定の上でのプラスアルファ、インセンティブとして「成果主義」を機能させています。
また成果として認められる要素が定量化しやすく、結果の大半が自分次第で、その評価が人によって左右されないような業態や職種の場合も、比較的うまくいっている例があります。
もちろん、うまくいっているように見えても、社員の定着や帰属意識、社員同士の協働といった目に見えづらい部分では、問題をはらんでいる可能性はあります。
私が「成果主義」のうまくいかない原因として考えるのは、人事制度においてバランスを取らなければならない要素、それは仕事内容や評価における“定量と定性”“主体的行動の可否”“個人とチーム”のバランス、給与における“水準と配分”“ベースとインセンティブ”のバランスが、その会社の状況にマッチしていないということです。
数字では成果を表しづらい仕事内容なのに、数字だけで“定量的”に評価されたり、自分ではどうしようもないことに左右されたり、“主体的”に決められない環境にもかかわらず、結果だけ問われたりするようなことがあると、当然納得しづらいし、成果にもやる気にもつながりづらいでしょう。
「結果が見えやすい目先のことしかやらなくなった」「人材育成をおろそかにするようになった」などという現象は、“個人とチーム”のバランスを欠いた結果だと言えるでしょう。
また「成果主義」は、成果という基準のもとに給与原資を配分する仕組みですから、基本的には決められたパイの奪い合いになります。こういう中で、一定の給与水準という“ベース”が維持できないのに、“インセンティブ”という配分ばかり強調しても、社内が活気づくことはないでしょうし、成果だ評価だといいながら、それを反映する部分がわずかしかなければ、結果は同じでしょう。
歩合給のような制度も、パイを増やせば自分に返ってくるという面はありますが、基本的には売上と賃金を比例させる仕組みで、“ベース”は低く抑えられがちなので、どちらかといえば経営上の都合は良いが、社員にとっては負担が大きい制度だといえるでしょう。(もちろん、こういう制度がマッチする業態もあります)
「成果主義」を取り入れるのであれば、これらの要素のバランスに関する考え方を、人事制度上でどう捉えるかが重要になります。仕事を進める体制、扱う商品やサービスの特徴、社員の気質や組織風土、業績動向や財務状況などを踏まえ、自社の状況にふさわしいバランスがどこにあるのかを、しっかり見極める必要があります。そのためには、単に「成果を上げた人に報いる」というだけではない、もう少し大局的な、本当の意味での人事制度の目的を意識する必要があると思います。
小笠原 隆夫(おがさわら たかお)
コンサルタント(人事制度、組織活性化、採用支援)
人事制度構築、組織活性化といった人事の悩みは、多くの企業で抱えている のではないでしょうか。
人事コンサルタントとして直面した課題事例や、人の感情ややる気・ムードといった人間の感覚的な切り口を合わせ、みんながハッピーになれる人事、組織とはどんなものなのかを考えて行きたいと思っています。
◆ご質問・お問い合わせはこちらから
専門コンサルタントへの、ご質問、ご相談等、お気軽にお問い合わせ下さい。