佐々木昭美のBIエッセイ 明るく楽しくイノベーション

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2014/12/02 経営者・リーダーが「経営戦略」の意味を再認識する好機!

経営者の皆様、リーダーの皆様、読者の皆様。

3月決算の多くの会社では、次年度事業計画或いは中期事業計画策定作業の真っ最中と思われます。この時期は、実践的「経営戦略」の正しい意味を再認識するチャンスでもありますね。

 12月の衆議院選挙によって、日本の政治経済が2年間のアベノミクスの歴史的成果の上に、日本が再成長し、若い世代が希望を持てる健全な政策が広がることを期待したいと思います。

 今後は、マクロ政治経済と同時に、個々の企業(ミクロ経済)の動向が注目の的となる。経営者の皆様、リーダーの皆様、読者の皆様の「経営戦略」によって、企業間格差が一層拡大する時代となります。

BIPは、そのお手伝いの一環として  『ビジネスプランニング演習講座』を開催しています。

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昨年5月に執筆した「経営戦略」に関するBIエッセイを再録しましたので、一緒に考えてみたいと思います。

(1)経営戦略専攻の三品和弘神戸大学大学院経営学研究科教授が示す実践的「経営戦略」――三品和弘 『経営戦略を問い直す』(ちくま新書)――

参考資料

 経営戦略専攻の三品和弘神戸大学大学院経営学研究科教授の『経営戦略を問い直す』は2006年9月に出版され、今年2013年2月に第12刷を数える「経営戦略」のベストセラーと言って良いと思います。売れているからではなく、その内容が秀逸です。

【1.そもそも、「経営戦略」を勉強したことがありますか?】
 三品教授の発する鋭い質問ですが、皆様はいかがでしょうか?

そうなのです。普段、「経営戦略」を語る経営者や部課長の多くが、実は「経営戦略」をきちんと勉強した経験がないことがわかっています。経営における戦略と戦術という言葉の区別と意味をはっきりと話せる方は少ないのが現実です。我々は皆同じですから、今勉強した方に女神が微笑むということになりますね。

【2.戦略は長期利益の最大化にある】
表1-1-1 実質営業利益額による企業の分布と年代別分布 (参考文献1 P27)
参考資料
見づらいですが敢えて掲載します。本書を手に取りしっかりと見てください。私も初めてこの表を見た時には驚きました。感覚で思っていたことがしっかりとデータ処理されていたのです。さすが、アカデミックな研究者の快挙ですね。

この表は、公開情報が連続して収集できる株式上場の歴史が20年を超える製造業672社の分析データです。これから読み取れることは深淵です。

A面とB面では対角線への集中が目立ちます。これは、重要な真実を意味します。

「企業が対角線に乗るということは、10年単位の尺度で見る限り、利益水準に大きな変動がないことを意味します。貨幣価値の変動を除去すれば、長期の利益が倍になったり、半分になったりということは、そう簡単に起こるものではないのです。企業の長期利益は、意外と安定しています。」(参考文献1)

更なる驚きがポイント。40年の歳月を反映したD面の意味が、「経営戦略」へ誘います。

「D面では、五社に一社が利益の倍増、同じく五社に一社が利益の半減という結果に終わっています。10社に1社は利益が倍の倍、同じく10社に1社は利益が半分のまた半分、そんな姿です。見事なまでの左右対称になっています。」(参考文献1)

「経営戦略」の使命が見えて来ましたね。

「変わりにくい長期利益、それを10年単位でいかにシフトアップさせていくか、それが本当の戦略だと私は考えています。変わりにくいものを変えるのでなければ、わざわざ戦略などと大仰な表現を使う必要はないでしょう。本来は安定している水準をいかに上に向かって変位させるのか、または突然の転落をいかに防ぐのか、これぞ戦略を要する難行です。」(参考文献1)

【3.営業利益が指数的に増大するキャノンは経営戦略の成功例】
本当の戦略が見事に機能したと認められる会社は、672社の中におよそ5%、30社あるとされています。その1社がよく知られるキャノンです。営業利益が指数的に上昇しています。
1960年代――2の5乗億円台
1970年代――2の7乗億円台
1980年代――2の8乗億円台
1990年代――2の9乗億円台

「キャノンの躍進の原点は、1962年にさかのぼります。これは、カメラが絶好調の最中にあるタイミングです。ここで、キャノンは創業の事業であるカメラに加えて、事務機事業への参入を決断したのです。」(参考文献1)

【4.驚かないで下さい!戦略はサイエンンスよりはアートに近い】
 欧米の経営学者は、普遍性あるサイエンスを目指して競争していることを私は2月に紹介しました。<ニューヨーク州立大学バッファロー校アシスタント・プロフェッサー 入川章栄『世界の経営学者はいま何を考えているのか 知られざるビジネスの知のフロンティア』(英治出版 2012年11月 )(参考文献5)

 ところが、経営戦略とはそのサイエンスとは真逆のアートに近いと三品教授は断言します。私も同じ考えの持ち主です。過去の理論知であるサイエンスは、学ぶ必要がありますが、未来への経営戦略を提供してくれません。何故なのでしょうか? 答えは以下です。

 戦略の主観性
 戦略は特殊解
 戦略は属人性

「企業は、絶えずコンテクストに埋め込まれています。経済や社会の状況、技術やインフラ、人口構成や法体系、そういう外部要因に囲まれて存在するのです。この手のコンテクストは、時速1センチのスピードで流れる氷河のようなものであり、日々の動きは見えなくとも、確実に動いています。したがって、同じ企業をとっても、時が変われば、コンテクストは微妙に違っています。
 企業がどこに向かうべきなのか、その答えはコンテクストに依存します。それは、コンテクストが企業活動に制約を課すからです。企業が変わらなくても、コンテクストが変化すれば、昨日の最善が今日も最善とは限りません。そこに戦略の醍醐味があると言ってよいでしょう。戦略は、あくまでコンテクストに対応した特殊解なのです。・・・戦略の真髄は、見えないコンテクストの変化、すなわち「機」を読み取る心眼にあると言ってよいかと思います。もちろん、心眼は人に固有のものであり、そこに戦略の属人性が根ざしているわけです。主観に基づく特殊解、それが本当の戦略です。」(参考文献1)

 戦略は人に宿るということに行き着きました。何故か、どうすれば良いのか、それでは三品教授は「経営戦略」をどう考えているのか? その答えは本書のお楽しみです。

(2)著名な元外資系コンサルタントが、経営理論を整理し、新・日本型経営を提唱
――波頭 亮『経営戦略論入門 経営学の誕生から新・日本型経営まで』(PHPビジネス新書)――

参考資料
 波頭 亮『経営戦略論入門 経営学の誕生から新・日本型経営まで』は、先週5月2日に出版されたばかりです。

ご存じのように、波頭亮氏は外資系コンサルタント会社マッキンゼー&カンパニーで勤務した後、独立して㈱XEEDを設立し、戦略系コンサルティングの第1人者として活躍している方です。30年間にわたる経営コンサルティングの仕事から、日本と世界を見てきた方の言葉の重みがあります。

【1.経営戦略論を歴史的系譜に沿って、その成果と欠陥を整理】
本書の第1の特徴は、特に欧米の経営学の諸理論について、歴史的体系的に整理していることです。
 
その理論が発生した時代背景と理論自体の成果と欠陥を簡潔に理解できます。日本では学術研究者でも、実務的な専門家でも、欧米の特定理論を強調する傾向があります。実践的「経営戦略」を策定し、実践する企業人にとっては、基礎的理論武装として役立つと思います。

 1960年代 経営戦略論の誕生
   ・チャンドラーの「組織は戦略に従う」
   ・アンゾフのシナジーと成長マトリクス
 1980年代 戦略の時代
   ・ポーターの競争戦略
   ・コトラーのマーケティングポジションの四類型
   ・戦略論に対する異論:合理的戦略論に異を唱えたミンツバーグ
 1990年代 組織とリソースの時代
   ・バーニーのリソース・ベースト・ビュー
   ・プラハラードのコア・コンピタンス経営
 2000年代 リーダーシップの時代
   ・コトラーの変革型リーダーシップ

【2.経営戦略論の体系=方法論と戦略タイプから4つのパターン】
波頭氏は、経営戦略のパターンを方法論と戦略タイプの立場から4つに分類しています。
 <方法論による対立軸>
 ①「プラニング学派」=戦略は合理的に計画できる
 ②「エマージェンス(創発)学派」=有効な戦略は事前には計画できない
 <戦略タイプによる対立軸>
 ③「ポジショニング学派」=市場における位置取りを戦略の核心とする
 ④「リソース・ベースド・ビュー学派」=組織や経営資源の強みを生かす

分類はわかったが、どう活用したら良いのか?と問う方も当然いらっしゃるでしょうね。

私は、企業戦略は最終的には特殊解、個別解だと思っています。結論は、各企業、各自が考えるしかありません。しかし、無知で間違った理解に偏るリスクを予防し、真剣に最善の経営戦略を考える基礎を提供すると思います。

 波頭氏は、活用について以下のように述べています。

「実際の経営者にとって有効な経営戦略というのは・・様々な理論と手法までが、重層的に活用されて策定され得るものである。理論は端的であり、現実の経営は重層的・有機的である。様々なスコープや手法を重層的に活用するからこそ、多用で不確実に満ちた現実世界の様々な課題に対して現実的有効な対応が可能になるのである。」(参考文献2)

【3.新・日本型経営という新しいモデルの必要性】
私が本書を紹介した理由の一つが、波頭氏の以下の言葉に接したからです。しかも、日本企業の経営戦略への具体的提案をしています。詳細はお読み願います。

「古くは中国文化を取り込み、明治以降は西洋文化を取り込んできた日本は、本来必要なものを長い時間をかけて調和的に吸収することに長けている。しかし、今問われているのは、日本にいながら外国企業の経営戦略パターンを急速に吸収することではない。急速な切り貼り型の受容では限界がある。
 今の日本に必要なのは、日本的な良さ、日本の強さを維持しつつ、いかに新しい事業環境、競争条件に適合的な日本企業独自の“型”を作り上げていくか、である。」(参考文献2)

 地についた実践的経営戦略の共創を旨とする私には大変共感するものです。

 2月に私はBIエッセイで、日本では実践的経営学が軽視され過ぎており、早急な改善を提唱しました。上記2冊の理解の参考に、その一部を再録します。

(3)佐々木昭美 自社で 「実践経営学」が必要な歴史的・理論的背景を知る(再録)

 「稼ぐ」事業リーダー育成には、知識と経験の両面からのアプローチが必要ですが、日本では2つの誤解・問題があると思います。

 事業経営に必要なことは、一般的に人間科学と自然科学の両面があります。また、その実践を時間軸で分析すると、過去の知識と経験を研究教育する領域及び現在と将来を創造する思考と実践の領域の2つの領域がありますので、私は以下4つのマトリクスで考えています。

図2:事業経営の知的基盤・経験基盤の統合フレームワーク
参考資料

【1.かつての業容論・TQM・管理会計・「論語と算盤」経営思想等日本型経営学が軽視され、欧米型経営学が直輸入された】
 かつて、経営学の業容・業態論、理工学部の管理工学等から出発し、製造業から流通業・サービス業へと発展したTQMや会計学から進化した管理会計(事業会計)、経営思想「論語と算盤」等は日本の企業、産業の発展力と競争力の源泉となりました。

欧米はシックスシグマ、バランススコアカード、サプライチェーン等の理論と実践によって日本企業にキャッチアップ。米国は更に競争の舞台自体を変革するビジネスモデルの理論と実践によって再び競争力を強化して来ました。欧州はEU経済共同体としてISO、ERP等購買や社会的基準の共通ルールやシステムの標準化を武器に経済の防衛と世界への進出を進めました。中国や新興国は日本と欧米の長所を取り入れて急成長を遂げています。

 日本は、経済戦争の変化の現実を直視するのが遅れました。更に、学会は経営学や会計学、法学中心にMBA、制度会計、コーポレートガバナンス等欧米型経営学を実態と意味の違いを十分吟味せずに輸入することが中心となりました。明治以来の外国崇拝、自虐的傾向が今もって根強いですね。一部の強い製造業・流通業・サービス業を除き日本の優れた管理会計(事業会計)やTQM等は軽視され、発展が停滞する傾向が最近まで続いています。

【2.大学のアカデミズムと民間企業現場の実践経営学の役割の誤解が解消していない】
参考資料

経営学に関して、学会の研究者が目指すことと、企業現場が求めることとの違いへの誤解が依然として大きいことがもう一つの原因かもしれません。

世界の経営学の研究者はサイエンンスとしての発明、発見、理論創造をミッションとして競争しています。日本の研究者も同様と考えて良いと思います。図2でいうAとBが中心です。

過去の先行研究と過去の企業行動から普遍的な理論や傾向を発見・創造することに集中しています。その成果は、当然次世代への知識教育として還元されることは言うまでもありません。当然、企業幹部は、AとBの優れた知識を学ばねばなりません。

 ところが、企業は現在と未来に生きています。従って、未だ理論として知識になっていない仮説や経験によって計画策定・意思決定・実践活動をし、ユニークな価値や新しい製品・サービスを創造します。これは、各企業が自社で「実践経営学」とでも呼ぶべき分野を担っていることを示しています。CとDの領域です。二次的創造の現場ともいえますね。日本企業の多くは、適正なコストでAとBの領域を手に入れ、C+Dも身につける方法を求めていると思います。

 日本では、MBA・MOT等は大企業派遣者や意欲的個人中心に広がっておりますが、日本全体への広がりはまだまだです。

 一方で上記研修したが余り効果がないという声も少なくありません。誤解を恐れずに言えば、それは上記のマトリクス構造が知られていないことにも原因があるかもしれません。

 現在と将来への「実践経営学」は自社主催で取り組むのが基本ですが、自社だけで実現できる企業は少ないのも現実だと思います。その協力者が必要です。それには、経営者を体験したコンサルタント・学者或いは技術・営業・会計・IT・人事等の専門家・研究者出身で「実践経営学」を5年以上体験したコンサルタント・専門家・学者等が有用と思われます。

欧米では、学会や企業経営者と経営コンサルタントとの人材交流が活発です。また経営コンサルタント業界は弁護士と同様にギルドとして形成され、マーケットも日本の数十倍から100倍と大きく、ギルド自身が厳しい自己認証によって業界の高い地位を確立しているように感じています。

日本では、どうなのでしょうか。私はこの業界に参加して見ると、少しずつですが思いを共有する経営コンサルタント、企業経営者、金融機関、国・自治体の政策立案者、専門家、学者が増加し献身的な努力が始まっています。今こそ、「産学官金専」連携を基礎に、企業の側も、経営コンサルタント・専門家の側も理解し合い、相互成長していく時代になることを期待しています。

 「稼ぐ」π型人材育成を検討の際は、是非気軽にBIPまでご相談頂けると幸いです。
以上

(参考文献)
1.三品和弘 『経営戦略を問い直す』
(ちくま新書 2006年5月第1刷、2013年2月第12刷 定価760円+税別)
2.波頭 亮 『経営戦略論入門 経営学の誕生から新・日本型経営まで』
(PHPビジネス新書 2013年5月 定価 本体860円+税別)
3.入川章栄『世界の経営学者はいま何を考えているのか 知られざるビジネスの知のフロンティア』(英治出版 2012年11月 定価1900円+税別)
4.お茶の水女子大学名誉教授 外山滋比古『考えるとはどういうことか』
(集英社 2012年1月 定価1000円+税別)
5.佐々木昭美 BIエッセイ「2013/02/04 佐々木流 BI経営進化論第16回 「稼ぐ」π型人材育成を自社で開催していますか?

読者の皆様へより便利に参考情報・参考書籍をご紹介するために、Amazon.co.jpアソシエイト・プログラムを採用しています。


thumbnail_sasaki佐々木 昭美(ささき あきよし)

取締役会長 総合研究所所長

経営コンサルタント(経営改善、事業開発、ビジネスモデル、 人事戦略、IPO、M&A、社外取締役)

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