佐々木昭美のBIエッセイ 明るく楽しくイノベーション
2011/04/18 宮城県仙台在住作家 伊集院 静【新幹線人間塾】
私が宮城県仙台在住の作家 伊集院 静(いじゅういん しずか)氏と出会ったのは、JR東日本発行の車内月刊誌『トランヴェール』でした。今年3月で連載の終わりを伝える最終エッセイを読んで、残念な思いでいました。週末、近くの本屋で伊集院 静『大人の流儀』『作家の愛したホテル』が偶然目に留まりました。そして、一気に読みました。3・11大震災が発生し私の心に生まれた、故郷宮城への「アイム・ウィズ・ユー」の思いに誘われたのでしょうか?それとも、神様が引き寄せたのでしょうか。
赤裸々に明かす自分の人生を通して、人間の「流転」と「大人の男」を語る言葉に引き込まれました。
(1)東北新幹線車内誌『トランヴェール』で伊集院 静 巻頭エッセイと出会う
私は、JR東日本新幹線の座席前網BOXで無料提供している月刊誌『トランヴェール』数冊を、大事に自宅の書斎に保管しています。東北新幹線『トランヴェール』で伊集院 静 巻頭エッセイと出会い、人間力リテラシーを学ぶ学校や塾は身近な周囲に満ちていることを教えられました。いつしか、新幹線は私の「人間塾」に早変わりしてしまった。
「この2月、JR東日本車内誌『トランヴェール』の巻頭エッセイは、伊集院 静(いじゅういんしずか)『暖炉の火』。十数年前から北国に暮らすようになった伊集院氏が、冬の暖炉の火で思い出した記憶を書いています。薪を運び、ゴミ一つなく清掃した少年を思い出し、仕事の訓(おしえ)としたという。・・・・
“仕事の基本は、丁寧と誠実なのだと思った。”」(2010年2月号 参考文献3)(BIエッセイ2010/02/15号 「出し惜しみしない」:私の「JR東日本-新幹線人間塾」)
(2)新入社員、新社会人の4月~「本物の大人」の振る舞いを語る『大人の流儀』
『大人の流儀』は、「週刊現代」に2009年7月18日号から2011年1月22日号掲載された原稿に加筆して単行本化した作品ですが、世の空気“KY”に迎合しないで「本物の大人」をぶつけた傑作だと思います。約40編の短編を集めたエッセイですが、その最初と最後の作品を紹介します。最初の短編は、「大人が人を叱る時の心得」。
この4月、多くの職場で新入社員を迎えました。希望に胸をふくらませているだろう新社会人には、本気で叱れという。
「私は、人が社会を知る、学ぶ上でのいくつかの条件のひとつは、“理不尽がまかりとおるのが世の中だ”ということを早いうちに身体に叩き込むことだと思っている。・・(略)・・
どやしつけてくれた経営者が、親方が、先輩が、いかに正しいことをしてくれたかは後年になってわかるものだ。
なぜ、叱ることが必要なのか。
それは今の新しい人の大半が、本気で叱られた経験を持たないからである。
なぜ、叱ると身に付くか。
叱られた時は誰も辛いからである。辛いものは心身にこたえるし、よく効くのだ。」(参考文献1)
(3)愛する人との別れ~「妻・夏目雅子と暮らした日々」を初めて語る『大人の流儀』
『大人の流儀』最後に掲載された短編は、「愛する人との別れ~妻・夏目雅子と暮らした日々」である。女優、夏目雅子さんがなくなって25年の月日が過ぎて、やっと書くことができたと言う。もちろん、家族も了解の上である。伊集院静氏が、旧姓小達雅子さんと出会ったのは、1977年1月パリでした。広告制作会社のディレクターであった伊集院氏は、その後しばらくしてから再会し始まった交際が公に発覚し、即日辞職した。その後8年間、逗子のホテルで居候生活となった伊集院静氏のもとに夏目雅子さんが来るようになり結婚したという。やっと鎌倉で二人暮らしを始めて1ケ月後、彼女の病気が発覚して入院することとなった。
「二百九日間の入院でしたが、当人は本当によく治療に励んでくれました。生来の明るい性格もありましたが、泣きごとを口にしたのは一度しかなかったように思います。私も仕事を休んで病室に入りました。それが大人の男として取るべき手段だったかは今もよくわかりませんが、彼女の安堵になったならば(勿論、私自身にとってもそうですが)それはそれでよかったのだろうと思っています。」
「亡くなった後、私は故郷に帰りました。・・(略)・・生死が何たるかをわかっているつもりでしたが、故郷に戻ってしばらくした或る夜、突然、現状のことも、これから先のことも何もかもどうしたらいいのかわからなくなったんですね。・・(略)・・
救ってくれたのは肉親であり、恩師や友人、後輩であり、もうひとつは酒ですね。眠れない状況は酒が救ってくれました。アルコール依存症になりましたが、これも先輩が救ってくれました。自分は何もしてないんですね。すべて自分以外の人の助けというか、慈愛のようなものに抱かれていたのでしょう。」(参考文献1)
同じ立場になった時、自分はしっかりできるのだろうか? 心が張り裂けそうな思いで読みました。
そして、人生に起きる無常、運・不運を知り、人間の強さと同時にその弱さを痛感しました。
(4)大人の男の美術館巡る旅エッセイ~ヨーロッパ、アフリカ、北米、アジアの旅を語る『作家の愛したホテル』
『作家の愛したホテル』は、『日経おとなのOFF』2001年11月~2007年6月に掲載された原稿に加筆して単行本化されたものです。40才台から10数年間、伊集院静氏は、美術館や歴史を取材しながら旅する人生を送る。1年の半分以上が海外という時期も相当続いた。ホテルは彼の定宿となった。本書は、その旅先での出来事をめぐるエッセイ集です。
第1部 ヨーロッパ編(フランス、スペイン、イギリス、イタリア、ベルギー、ポルトガル)
第2部 北米編(アメリカ、カナダ、メキシコ)
第3部 アフリカ編(エジプト、モロッコ、ケニア)
第4部 アジア編(インドネシア、日本)
第1部の「人間力ということ」という短篇の中で、伊集院氏が、“なぜ、この都市(パリ)に芸術が集中したか”を問うています。
「毎年、パリのグランパレやプチパレで開催される美術展を見てみるといい。何年も前から企画を立案し、一人の画家の絵画展ならば、世界中に分散した作品を何年もかけて交渉し、これを借りだし、おそらくその世紀の間には人々が二度と同時に目にすることができない本物の絵画を収集する。
絵画鑑賞は一にも二にも本物を鑑賞することである。本物の絵画が語るものは、評論家や美術史家が語るものとは比べものにならない。フランス人は、それを理解している。
これは、フランス人の人間力である。」
「すでに私たち大人は仕方ないにしても、大人の男としては、未来の日本が美をいつくしみ、生活のかたわらに美が存在する国であって欲しい、と願う。経済動向や、国境紛争に目を向けるのも、大人の男の大切なことであろうが、古代の日本人がフランス人以上に、美をいつくしむ人々であったことを若者と子供に伝えたい、と思うのは、だいそれたことだろうか。」(参考文献2)
美術館巡りと旅行が趣味の私にとって、読んでいて思い出の地が蘇り、味わい深い本となりました。
思えば、作家 伊集院 静氏は、語られる苦難の人生の中でいつしか「大人の人間塾」の塾長にもなったようである。
(参考文献)
1.伊集院 静『大人の流儀』(講談社 2011年3月18日第一刷)
2.伊集院 静『作家の愛したホテル』(日経BP 2009年11月23日1版)
3.東日本旅客鉄道株式会社『トランヴェール』2010年2月号
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佐々木 昭美(ささき あきよし)
取締役会長 総合研究所所長
経営コンサルタント(経営改善、事業開発、ビジネスモデル、 人事戦略、IPO、M&A、社外取締役)
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