佐々木昭美のBIエッセイ 明るく楽しくイノベーション

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2011/01/17 本当に凄い「空と宇宙展」!世界初小惑星探査機「はやぶさ」、世界初小型ソーラー電力セイル実証機「イカロス」を訪ねました!

 先週末、東京上野公園にある国立科学博物館『空と宇宙展~飛べ!100年の夢』(~2月6日まで)を見ました。

2010年6月小惑星イトカワ探査機「はやぶさ」のカプセル帰還成功、12月宇宙ヨット(帆船)「イカロス」の金星接近飛行観測の成功と、日本の宇宙探査は世界初、世界一のアイデア、技術、実績に溢れていました。世界初、世界一の宇宙技術とたくさんの奇跡を体感できるすばらしい場に接し感動で一杯になりました。一人ででも、そして未来を担うお子様と一緒にご家族で訪ねてほしいと強く思った次第です。
 
 このエッセイを書こうと思ったのは、『空と宇宙展~飛べ!100年の夢』を見て感動したことと同時に、「はやぶさ」プロジェクトマネジャーの宇宙航空研究開発機構(JAXA)教授川口淳一郎氏の言葉に同感の思いを抱き、深く感銘したこともあります。

 「私が「はやぶさ」から受け取ったメッセージは「自信と希望」。そして失敗を恐れない『勇気ある挑戦』です。・・(略)・・最初から諦めていたら、何もできません。予算が厳しいなら厳しいなりに、知恵とアイデアを働かせて、挑戦すればいい。知恵をアイデア、そしてモノづくりの情熱。ともすれば忘れがちな日本人の心を。「はやぶさ」は教えてくれました。」

「「はやぶさ」のプロジェクトで目指したものは、もちろん技術実証もありますが、次代を担う人材を育成することです。宇宙や科学技術にはまだまだ夢があるんだと示すことで、若い方に希望を与えたい。子供にもその親にも、宇宙開発や科学技術に少しでも関心を持ってもらいたい。たとえその後、宇宙を目指さなくても、どんなジャンルでもいいのですが、新しい知的な挑戦を志すようになってくれれば、一技術者として、これほどうれしいことはありません。」(参考文献4)

参考書籍 空と宇宙展~飛べ!100年の夢

(1)「はやぶさ」実物大モデルに感動-イオンエンジン、太陽電池、ヒートシールドカプセル、サンプラホーン等。

小惑星探査機『はやぶさ』 参考書籍
小惑星探査機『はやぶさ』 画像提供:池下章裕

 使命を果たし、2010年6月13日光線を描いて燃え尽きたあの「はやぶさ」君に会いたくて、東京上野公園にある国立科学博物館『空と宇宙展~飛べ!100年の夢』(~2月6日まで)を訪ねました。燃え尽きた「はやぶさ」と同じ実物大モデルが展示されています。「はやぶさ」は、世界初だらけ、新技術の塊でした。
空と宇宙展~飛べ!100年の夢 空と宇宙展~飛べ!100年の夢
 「はやぶさ(MUSES―C)」のミッションは、サンプルリターン(小惑星イトカワから表面の物質を地球に持ち帰る技術)の確立と4つの技術実証(①イオンエンジンを主推進力に惑星航行する ②電波・光学情報を用いて自律的な操縦する機能の搭載 ③微少重力下の天体表面物質の採取 ④帰還時の大気圏再突入に耐えるカプセル開発)でしたが満点以上の大成功でした。

 「はやぶさ」の大きさ自体は、重さ510キログラム、軽自動車より軽く、本体の大きさも1メートル×1メートル×1.6メートルと大きめの冷蔵庫程度の、小さな探査機なのです。

【①世界初-7年間、60億キロ旅したイオンエンジン(電気推進機)と太陽電池実物大モデルが凄い】

 日本独自の電極を無くし、マイクロ波放電でプラズマを作るイオンエンジンを世界初で開発成功。それを「はやぶさ」の惑星航行に4基搭載。3基を使用し、1基は予備。プラスに帯電した物質をイオンといい、イオンエンジンの名はそれに由来する。「はやぶさ」に積んだ燃料のキセノンガス66キログラム。一般のロケットエンジンは固体や液体燃料を使う化学エンジンと呼ばれますが、イオンエンジンはその10倍以上の排出速度と言われます。

大きく広がり目立った太陽電池は端から端まで5.7メートル、表面積は畳約8畳分あり、探査機比で大きいのは、イオンエンジンへの電力を確保するためだそうです。

【②世界初-日本の技術を総結集して自律型の世界初「電波光学複合航法」で小惑星イトカワとランデブー成功】

 全長約500メートルの小惑星イトカワに、遠隔での位置測定誤差300キロメートルで凹凸の岩面に、着陸・発進する場所を見つけランデブーするのは至難である。「はやぶさ」は自律航行機能を装備した。

「小惑星「イトカワ」に到着した「はやぶさ」は上空10km程度の上空でホバリングしながらカメラ、レーザー高度計、X線計測装置、赤外観測装置等を用いて、大きさや形、地形データ、自転軸、自転周期などの物理的力学的特性や表面組成と構造を調査した。
また、小惑星に接近・軟着陸するためにターゲットマーカーを投下しカメラから得られた画像を逐次自動処理しながら、航行用カメラとレーザー高度計、近距離センサー、衝突防止センサー等を用いて、安全に接近・着陸をおこなった。」(参考文献1)

【③世界初-地球再突入時、1万~2万度高温空気に耐え、小惑星物質を格納したヒートシールドカプセル】

 そもそも、「試料採取容器をカプセルに移動して格納するプロセスは「からくり」だらけである。まず、サンプルを採取容器に導くチューブが、形状記憶合金の働きによって退避する。次に搬送機構をカプセル内に移動。そのあと、搬送機能を一体なった蓋がカプセルにシールされる。最後に、搬送機構を押していた押し板が分離、電線が切れる。」(参考文献3)

 再突入カプセルは直径40㎝。過酷な加熱環境からカプセルを守る耐熱カバーをヒートシールドといいます。アブレーターと呼ばれる特別製ではあるものの、意外にも材料は炭素繊維で強化されたプラスチックの一種なそうです。

 2010年11月16日、採取した微粒子に1500個のイトカワ起源の微粒子を確認したと発表された。数千個から1万個に達するかもしれないという。凄い。日本人の手によって世界初の小惑星サンプルリターンが達成された。

(2)「イカロス」実物展示に驚愕-太陽光で推進する世界初宇宙ヨット(帆船)で金星接近飛行観測成功! 2020年木星探査を目指す?!

参考書籍
 「はやぶさ」に続き、昨年12月、日本の宇宙探査チームは小型ソーラー電力セイル実証機宇宙ヨット(帆船)「イカロス」による金星接近飛行観測を成功させました。偶然会場で、「イカロス」のマネジャー森治氏(宇宙航空研究開発機構(JAXA)宇宙航空システム研究系助教)の笑顔で熱っぽい解説(ギャラリートーク)を聞くことが出来て理解が深まり大変嬉しい思いです。

 「宇宙ヨットの構想は1919年、「ロケットの父」、ロシアのツィオルコフスキーらが提案した。そして1963年、20世紀を代表するSF作家、アーサー・C・クラークが、地球上空から月に向かう宇宙ヨットレースを臨場感豊かに描いた短篇『太陽からの風』を発表、宇宙ヨットは優雅な姿の未来の宇宙船として広く知られるようになった。」(参考文献2)

【①世界初-金星接近飛行観測に成功した宇宙ヨット(帆船)「イカロス」の14Mの巨大膜】
 
 日本が「あかつき」と共に打ち上げた実験機「イカロス」は惑星間で帆の展開に成功し、世界初の宇宙ヨットとなった。
船の帆のように大きい反射膜で太陽光を推進力に航行する宇宙ヨットをソーラーセイル(太陽帆船)とも言うそうです。原理的には、化学エンジンのロケット、イオンエンジン以上の超高速加速ができる。

 宇宙ヨット開発最大の課題は、折り畳んだ帆を宇宙でどのように展開するかです。方式は2つあり、1つは船体から支柱(マスト)を何本か伸ばして、雨傘のように帆を伸ばす方式。もう1つは支柱をつかわず、帆に遠心力を加えて展開する方式である。「イカロス」は後者である。JAXA研究グループは何回も折り紙での模型と数値シミュレーションを繰り返したそうです。帆の材料も日系企業とポリイミドフィルムを独自開発しました。厚さは髪の毛の太さの1/10と大変薄い。
 
 一片が約14m正方形。中央の約4m角の部分は空いていて、その中に円筒状の船体(直径1.6m、高さ約0.8m)が収まる構造となっています。全重量308kgの内、帆の重量15kg。

 打ち上げ前には帆を4本の細長い帯のように折り畳み、宇宙でロケットから分離された後、船体を回転させると遠心力で帆が開く。この展開方式がノウハウである。2010年6月9日、帆が完全に開いた。太陽光圧で加速され、速度が毎秒約1000分の4mmずつ加速していくデータがはっきりと確認された。

【②世界初-薄膜太陽電池と液晶薄膜、気液平衡スラスター噴射装置による推進・制御する凄い技術】

 帆には、薄膜太陽電池が貼り付けられ、通信や機体の温度維持の動力とする。周囲に貼られた液晶薄膜は、電源のオンオフで帆の向きを変える。制御用の噴射装置は化学エンジンを使わず、独自開発した気液平衡スラスター噴射装置で船体と帆の回転を制御するという。

【③世界初-「イカロス」太陽光エンジンと「はやぶさ」イオンエンジンを組み合わせて木星探査をめざす】

「イカロス」の先には、木星とトロヤ群小惑星行きの宇宙ヨット建造が構想されているらしい。帆の薄膜太陽電池で生み出される大動力を投入できる超高速のイオンエンジンを開発中という。

 「はやぶさ」と「イカロス」の両方の技術を統合して、日本ハイブリッド宇宙技術で金星より遠い木星探査に挑む。

(3)次の100年の夢!日本の宇宙科学が世界に貢献する時代。

ハンス・グラーデ単葉機
100年前、日本で初めて動力飛行成功『ハンス・グラーデ単葉機』
YS-11
『YS-11』 
 
 1910年12月、代々木練兵場において日野熊蔵大尉のハンス グラーデ機と徳川敏大尉のアンリファルマン機が日本初の動力飛行に成功してから今年は100周年である。

 日本の航空技術開発100年に当たって、「はやぶさ」「イカロス」の成功は日本国民の多くに勇気と感動を与えました。「一番でなければダメですか?二番ではダメなんですか?」という現大臣やそれに媚びるメディアの皮相な発想は、多くの科学者や国民の凜とした見識と批判を受け、当初激減した「はやぶさ2」予算がなんとか復活しました。今、国産初旅客機YS-11に続く、国産ジェット旅客機MRJが開発中でもある。

 国立科学博物館『空と宇宙展~飛べ!100年の夢』を見て、また関連する本を読んで、日本の航空や宇宙への歴史は、研究機関の技術者、科学者の努力はもちろんのこと、民間企業、国の未来投資、国民の夢・希望と理解・支援、そして国際的成果と連携に支えられていることを強く教えられました。

 それでは、日本の宇宙への100年の夢はなんでしょうか? 的川泰宣氏(JAXA技術参与、名誉教授)はこう述べておられます。

 「アメリカは依然として突出した宇宙開発国であるが、宇宙活動の全地球的規模での取り組みは多極化しつつある。国際情勢を睨みながら宇宙のグランドデザインを描けば、日本がリードし貢献できるものは多い。見方を変えれば、日本の歴史上初めて、私たちは世界貢献できる力を持つに至っているのである。」(参考文献1)
 
 そして、宇宙活動に関して、主要な戦略分野を3つ挙げています。
第1は、地球を住みやすく快適にする課題。全球降水観測計画、水循環変動観測衛星、雲エアロゾル放射ミッション、陸域観測技術衛星2号など。
第2は、「はやぶさ」「イカロス」等、137億年の宇宙の歴史への知的貢献。
第3は、ロケット宇宙船HTVなど日本の宇宙輸送戦略。

「現地」「現物」「現認」が一番ですね。国立科学博物館『空と宇宙展~飛べ!100年の夢』は2月6日までです。是非、早めにご覧になることをお薦めします。

以上


名  称 「空と宇宙展-飛べ!100年の夢」
会  期 2010年10月26日(火)~ 2011年2月6日(日)
会  場 国立科学博物館 特別展会場 (東京・上野公園)
開場時間 午前9時~午後5時 (金曜日は午後8時まで)※入館は各閉館時間の30分前まで
休 館 日 毎週月曜日、年末年始(12月28日~1月1日)、1月11日
※ただし1月3日、1月10日は開館。休館日は変更になることがあります。ご注意ください。
主  催 国立科学博物館、日本経済新聞社

(参考文献)
1.企画・監修 国立科学博物館理工学研究部 鈴木一義、編集 日本経済新聞社文化事業部・日経サイエンス社『空と宇宙展~飛べ!100年の夢』カタログ(日本経済新聞社 2010年)
2.『日経サイエンス』2010年11月号(日本経済新聞出版社 2010年11月)
3.川口淳一郎 カラー版『小惑星探査機はやぶさ』 (中公新書 2010年12月)
4.川口淳一郎『はやぶさ、そうしてまで君は 生みの親がはじめて明かすプロジェクト秘話』 (宝島社 2010年12月)
5.山根一眞『小惑星探査機 はやぶさの大冒険』 (マガジンハウス 2010年7月)
6.吉田武『はやぶさ 不死身の探査機と宇宙研の物語』 (幻冬舎新書 2006年11月)
7.佐々木昭美 BIエッセイ2010年6月14号 『「あ!来た、来た!」「はやぶさ」地球帰還をライブで見ました!世界初540mの小惑星「イトカワ」探査の快挙!』

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