佐々木昭美のBIエッセイ 明るく楽しくイノベーション
2011/01/04 2011年新春にあたり “新サムライ 複眼二刀流で 未来拓く”
新年明けましておめでとうございます。 旧年中は、大変お世話になりありがとうございました。本年も、引き続き、ご愛顧・ご指導の程、よろしくお願い申し上げます。新春に当たり、皆様が健康で明るい年となりますように心よりご祈念申し上げます。本日より、2011年のBIエッセイを開始します。新春に当たり、年頭所感を稚拙ですが俳句風で表現して見ました。高校での学業以来の試みですので、ご配慮の上読んで頂ければ幸いです。
ここ数年起きた経済、政治、外交、企業の重要な出来事を振り返りながら未来を考えると、100年単位の歴史的視点が必要なことを感じています。皆様も同じ思いがあると思います。
新春に当たって長期的視点で考えたテーマを、山本夏彦『百年分を一時間で』(参考文献1)にあやかり、「100年分を10分で」のつもりで書いてみました。簡にして要に書くということは難しいものですね。論旨が荒くなりがちで、ついつい文章を足すことになります。正月に免じてご容赦願いたい。
(1)題-就職・経済 “新サムライ 世界に跳ぶ志が 日本を拓く”
-日本人は、人類の未来への挑戦者-
2011年より多くの日本企業で新卒海外配置、英語公用語導入が増加しています。新春を海外で迎える日本人は益々増えていくことでしょう。
1月3日付産経新聞朝刊によると、就職難といわれながら、企業側から会社説明会の申し込みがどんどん舞い込む地方大学-国際教養大学(秋田県)を紹介しています。3月まで連日、ソニー、東レ、三井住友銀行、新日本製鉄・・・の日程が埋まっているという。同大は、学生に1年間の海外留学と寮生活を義務づけるなど未来を見据えたユニークな人材育成が企業の関心を呼んでいる。
パナソニックでは、2011年春採用予定者数1390名の内、8割を海外採用が占めるという。
2011年に創業100周年を迎える出光興産中野社長は、次の100年は海外で日本に貢献するとしてこう語る。「日本は海外から大量の食料、エネルギーを購入する貿易立国。購入資金を稼がなくてはならない。海外で新興国の成長に寄与して日本に送金するのが新しい出光の姿。」(1月3日付日本経済新聞朝刊)脱内需型産業の宣言ですね。
仕事と旅行で頻繁に海外から日本を眺めるようになって約20年。日本は本当に自由で豊かな国だと思います。その根源の1つは、日本企業の技術力を核とした経済力であると思います。それは、「龍馬伝」に登場する坂本龍馬や岩崎弥太郎はじめ日本人先達と先進的日本企業の世界への挑戦と貢献の中で実現されてきたものだと思います。
明治、昭和の開国に次ぐ「第3の開国」と言う方もいます。多くの日本企業は必然的に21世紀の経済発展地域への海外シフトを加速しています。企業の永続的発展のためにこの流れは止められませんよね。皆様の会社はどうですか。
この動きは、数年後の就職意識、大学・専門学校教育の内容、そして家庭教育に大きな影響を与えながら、最終的には日本人の生き方、働き方を変えていくと思われます。
常に世界トップクラスの国民一人当たりGNPを持つ人口数百万の国スイス。数年前、日本在住のスイス企業の経営者の方々と意見交換する機会がありました。彼らは生まれた時から「世界は自分たちの家の庭」だと教えられ、多くの若者は世界的企業での就職を目指し、数ケ国語での仕事は当然と述べていました。永世中立国として国連機関やダボス会議を招請して世界とつながり、税金は安く世界から企業、芸能人、プロスポーツマン、資産家、観光客を集め、国内空洞化も防いでいます。もちろん、一方で地域コミュニティーを非常に大切にし、それを他国から守るために全家庭核シェルターを持ち、国民皆兵で全員武装し自衛の体制を敷いています。隣国と仲良くはするが、自国防衛の実際体制を怠りません。世界から信頼され、人や金を集めるということは言葉だけでなく、実際に意志を行動で示すことなのですね。
(2)題-外交・歴史 “和魂漢才 和魂洋才を越え 和魂自才”
-日本は世界一ユニバーサルな独自文明国家-
政治経済は、人生を左右する最大のインフラの1つです。民主主義国においては国民の意思と意識がその骨格と言われます。特に、国家間の利害を戦争でない解決を図る外交は重要ですね。
私は戦後の占領下で生まれた団塊の世代。就職後、前半20年間は高成長、後半20年間は低成長時代でした。生まれる時代、国、父母を選択することはできません。しかし、政治経済体制の国民の選択は自分の人生に直結することを学びました。
2010年、日本領土である尖閣諸島への中国船侵犯と中国からのあっと驚く謝罪、賠償要求、日本領土である北方四島への露大統領訪問、北朝鮮軍の韓国攻撃等。
1991年欧州冷戦終結から20年たったが、アジアの冷戦、戦後或いは近代は終わっていないことを強烈に体験する出来事が起きた。山田吉彦氏(当時、日本財団研究員)が2005年『日本の国境』(参考文献2)で尖閣、竹島、北方領土の国境は危機に晒されていると警告した事が現実となった。私たちは、もう一度歴史つまり長い時間軸で日本を見つめることが有意義だと痛感した次第です。
和魂漢才。奈良時代以来、日本は固有の大和文明に加えて、アジア大陸の文明を受け入れ、交流してきました。元旦、私は近くの大宮氷川神社に初詣しましたが、多くの参拝客で一杯でした。日本は伝統的神道と共にインド文明に学んだ仏教、シナ漢字文明に学んだ国家制度、儒教等を渾然一体で使っている民族ですね。
和魂洋才。明治以降の欧州文明の自発的積極的導入と交流、そして昭和敗戦後のアメリカ文明の強制的或いは自発的導入と交流は日本を大きく変えました。
「20世紀は戦争と社会主義革命の時代」でした。多くのアジア各国は欧米国家に植民地化されましたが、明治開国後の日本人は「富国強兵」「殖産興業」で奇跡的にアジア随一の世界5大国に発展しました。アジアの小さな島国が20世紀に世界の大国となった歴史的意味は教科書以上に大きなものだと思います。
世界経済恐慌が悲惨な世界的「戦争と社会主義革命」となった反省から、自由主義諸国は、戦後IMF、GATTを中心とした自由貿易・資金協力体制とNATO、日米同盟等で再出発しました。敗戦で占領された日本は、サンフランシスコ平和条約で独立し、冷戦下で自由主義陣営の中で奇跡的に世界第2位の経済大国に発展しました。
一言で言えば、日本は東西の世界文明を最も導入し融合したユニバーサルな独自文明を持った民族だと思います。世界各国は自国文化に誇りを持ち、大きな変化はないようです。日本は固有文化に拘わり過ぎるという内外の批判は大局的には当たらないと思います。むしろ、本来の日本文明の良さが明治の開国、昭和敗戦後の占領軍政策によって失われた面もあるのが現実でしょう。良かった面、反省すべき点の両面から歴史を冷静に学び直す必要を痛感しています。
和魂自才。東西文明を吸収し、日本独特の文明を築き上げてきた日本は今後どうすべきなのでしょうか?米国、EU、中国、インド等と異なる自国固有文明の特定解を創造する“和魂自才”の時代に入ったと思っています。
現実に、軍事覇権を辞さない個人独裁全体主義、一党独裁国家重商主義の隣国があり、国連に依存する安全保障という考えはほとんど機能しないことが明白となった以上、自由、自尊、自立を基本に価値観を共有する国々との同盟強化と自由貿易体制(TTP、EPA等)を急いで作らねばならないと思います。100年の長期的視点で経済と安全保障を両立した戦略が必要ですね。
上述した山田吉彦氏(現東海大学教授)が最近出版した『日本は世界4位の海洋大国』は、海洋国家日本の未来にとって参考になる本です。日本は海洋体積単位でみると世界第4位の海洋国家であり、中国の5倍の海を有しています。アメリカが第1位、オーストラリアが第2位、キリバス(太平洋上の島国)が第3位、日本が第4位、第5位がインドネシアである。日本の海は、膨大な鉱物資源、水産資源、エネルギーの宝庫であることを分析し、こう提言しています。
「この海を利用すれば、争いもなく、広大な陸地をもつ大国と太刀打ちができる。そして、日本がこれから築きあげていく海洋開発の技術革新は、世界に贅沢な資源を供給し、国家間の争いのない社会を作ることに貢献するだろう。」(参考文献3)
(3)題-科学技術・文化 “スカイツリー 世界一の電波塔 未来島”
-日本は科学技術・文化立国-
※画像中央「小惑星探査機 はやぶさ」:提供 JAXA/池下章裕/MEF/JAXA・ISAS
※画像右「スカイツリー」
私が海外の経営者層と付き合った経験では、日本の歴史や文化つまり教養を持った日本人を尊敬する。ディベートは戦争であり、欧米エリートは教養を平和的武器として必死に磨きます。
英国BBCの33ケ国世論調査によると、最近5年間の「良い影響を与えている国」最上位が日本であることを竹田恒泰氏(慶應義塾大学法学部講師)『日本はなぜ世界でいちばん人気があるのか』を読んで知りました。
そして、世界はいま空前の日本ブームであるという。マンガ・アニメだけではない。食文化、モノづくり、日本語、和の心、エコなどあらゆる日本文化に好意が寄せられています。理解頂くためにこの本の目次を記します。
序章 世界でいちばん人気がある国「日本」
第一章 頂きます【いただきます】-『ミシュランガイド』が東京を絶賛する理由
第二章 匠【たくみ】-世界が愛するモノづくり
第三章 勿体無い【もったいない】-日本語には原始日本から継承されてきた“和の心”が宿る
第四章 和み【なごみ】-実はすごい日本の一流外交
第五章 八百万【やおよろず】-大自然と調和する日本人
第六章 天皇【すめらぎ】-なぜ京都御所にはお堀がないのか
終章 ジャパン・ルネッサンス-日本文明復興
巻末対談 北野武×竹田恒泰
しかし、上記のBBC調査結果では、日本人の日本への評価は肯定が43%と極めて低いのに驚きます。中国人の中国評価は肯定が81%、韓国人の韓国の評価は肯定76%と高く、米国60%、英国62%と比較しても異常と思えます。
日本人が日本を愛せないのは悲しいことですが、悲観的否定的論調が多いのは何故なのでしょうか?
日本企業の「ガラパゴス化現象」をビジネスモデルの不徹底を指摘する意味としては了としますが、日本は退化したガラパゴスではなく「未来島」として人類の先端を走る面に自信と誇りを持つ必要があると思います。日本は依然として世界では断トツのあこがれの「未来島」なのです。
上述の本で竹田恒泰氏と映画監督でもある北野武氏との紙上対談で、北野氏は世界と接して感じた日本論を展開している。
「戦前の日本人は誇りに溢れていたと思いますよ。だからこんな小さな島国なのに、五大国といわれるくらいの力を持った。でも戦後、徹底的に日本人の誇りを削ぐような教育があって、「国際化」といって何を狂ったか自国の文化を否定して外国文化を採り入れた。外国のルールを学んだことで国際人になったと思っている人がたくさんいますが、それがいかに間違いであるか。たとえばヨーロッパの映画祭に行ったとき、日本文化を語れない人はバカにされるわけです。
・・・戦争に負けたのは確かですが、それによって日本の文化を捨ててほんとうに無条件降伏するんじゃなく、「文化は捨てない」とか条件降伏じゃなくてはおかしいんです。マッカーサーにしても、天皇は残しました。むしろ、その後の日本人の方が、日本文化を否定する方向にミスリードされていった感じがしますね。」(参考文献5)
昨年、探査衛星「はやぶさ」の帰還と鈴木・根岸両教授のノーベル化学賞受賞は、日本人に大きな自信と誇りを与えた出来事でした。やはり、夢、希望、未知への一番めざす健全な競争と挑戦が人類を発展させてきたと思います。
実は、既に2006年、米国の科学誌『サイエンス(Science)』に探査機「はやぶさ」に撮影された小惑星「イトカワ」映像を表紙に、7本の論文が掲載されていました。世界は、はやぶさプロジェクトを世界的快挙と2006年に認め、知っていました。
「小惑星探査は、知的な意味からだけでなく人類全体の安全保障の意味からも極めて重要な分野であると位置附けられているのである。」(参考文献6)
2011年12月、東京スカイツリーが完成予定です。当初の高さを変更して634メートルの世界一高い電波塔となり、地上デジタルを支えます。実は、デジタル放送方式は日本式、米国式、EU式があり、中東地域はEU方式ですが、南米諸国は技術力に優れた日本式を採用し始めました。デジタルビジネスは、プラットホーム覇権をめぐる戦争でもあるのです。
世界に喜ばれ、日本も発展する技術・文化と経済発展の複眼二刀流をどんどん広げていきたいものですね。
以上
(参考文献)
1.山本夏彦『百年分を一時間で』 (文春新書 平成12年10月 第1刷 定価 690年+税)
2.山田吉彦『日本の国境』 (新潮新書 2005年3月 定価 680円+税)
3.山田吉彦『日本は世界4位の海洋大国』 (講談社+α新書 2010年10月 第1刷 定価 838円+税)
4.劉傑『中国人の歴史観』 (文春新書 平成11年12月 第1刷 定価 690円+税)
5.竹田恒泰『日本はなぜ世界でいちばん人気があるのか』 (PHP新書 2011年1月 第1版第1刷 定価 720円+税別)
6.吉田武『はやぶさ』 (幻冬舎新書 2006年11月 第1刷 定価 820円+税)
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