佐々木昭美のBIエッセイ 明るく楽しくイノベーション
2014/06/04 8年ぶりのニューヨーク流通業視察 ~オムニチャネル戦略で収益回復する米国百貨店Macy’sを支えるICT基盤~
5月中旬、8年ぶりにニューヨークを訪れました。最近日本でも話題になっているオムニチャネル戦略の成功実例を視察するのが主たる目的でしたが、予想通り、インダストリアル・インターネットの時代であることを実感したニューヨーク視察となりました。
Amazonは、今や米国流通業界第10位の位置を占めるに至っている。Amazonの脅威に対する既存流通業の対抗戦略から始まった、リアル店舗とネット販売を融合した「オムニチャネル戦略」であったが、今や米国流通業の経営革新を牽引しつつあります。
それを支えているのがICT基盤への投資である。顧客データベース統合やスピーディーな物流在庫情報を支えるICTシステムへの継続した投資が必須。また、ICT人材確保のため、シリコンバレーのICT会社の買収も相次いでいるという。
(1) 米国百貨店Macy’s~ネット販売成長率40%、構成比11%に上昇、営業利益率約10%と収益回復が明白
ICT技術、ビッグデータ、SNS活用で急回復した全米一番の百貨店Macy’sを訪問。
Macy’s、姉妹百貨店ブルーミングデールズなどとあわせて850店舗を持つ全米最大の百貨店チェーン。長期的に低迷していた米国百貨店が数年前のオムニチャネル戦略で回復傾向である。オンライン販売は40%台の売上高成長で11%の構成比まで上昇中。2013年は、2兆8千億円の売上高で営業利益率約10%と収益力を回復中である。
ICT技術では、オムニチャネル戦略のため、顧客データベースの統合、物流システムの刷新が中心となる。SNSを活用したパイラルマーケティング(オンラインによる口コミ)が、米国の挑戦トレンドと言われている。コミュニケーション、ブックマーク(タグ)、レビュー、レーティング、レコメンデーション、シェアリング。多様化したアクセスを便利に提供し、ソリューション情報を上手く乗せていく。
ICT企業とりわけシステムインテグレータの事業機会が飛躍的に生まれている。製造業と同じくインダストリーインターネットの時代である。
巨大企業のプライベートクラウド、巨大企業グループのコミュニティクラウドで自社の事業モデルを変革している。Amazon対策が結果として流通産業を革新しています。
(2) ネット販売企業もリアル店舗出店戦略
ニューヨークのソーホー地区も視察し、オムニチャネル志向で、ネット企業がリアル店舗を出店した実例を2つ見ました。
写真のメンズファッション企業BONOBOSが、試着中心の店舗出店。沢山のお客様が試着していました。米国では、一般的にカタログ販売やオンライン販売の返品率が6%を越えるそうです。その対策から、ネットとリアルの融合した利便性提供へと発展中。
GAPレディースファッションのオンライン販売を行っているパイパーライム(GAPが別ブランドで展開)もソーホー地区に試着中心の実店舗出店。沢山の若い女性でお店の中は一杯でした。
(3) 世界最大の小売企業ウォルマートもオムニチャネルが次の成長エンジン
売上高47兆円の世界最大小売企業ウォルマートもAmazon対策と事業再創造のためにEコマースとオムニチャネルに投資中です。
セルフレジシステム「スキャン&ゴー」は、お客さまが自分のスマホで商品をスキャンして、簡単に精算できるシステム。また、オンラインサイトでの注文品の配達を2つの方法で行っている。1つは、店内に設置したロッカーに当日中に届ける。2つめは、2日以内に商品を家庭に宅配する。
ウォルマートの次なる成長エンジンとしてEコマース、IT企業を次々に買収しています。まだ、売上高に占めるネット販売の比率は2%ですが、20%の成長をしており、既にオンライン販売で全米第4位となっている。世界最大小売業のネット販売潜在力は大きい。
(4) 都市部で好調、自然食品スーパーのホールフーズ・マーケット
都市部で目についたスーパーマーケットは、ホールフーズ・マーケット。1980年に創業したホールフーズ・マーケットは、世界最大のナチュラル・オーガニック・スーパーです。店舗数342店で売上高117億ドル。米国人の健康意識、環境意識の高まりに応えて人気と思われます。
商品や店舗構成に大きな特徴がある。
① 商品は、ナチュラルやオーガニック中心。最高品質でなるべく手をかけないが、味わい深く、天然で保存された食品を提供。
② 総菜は、簡単な前菜や副菜、スープ、ローストグリル、寿司、サンドイッチなどが自然の材料を使って調理している。
③ 鮮魚の漁獲問題に対して、唯一自社の漁場を持つSM。地元農家やベンダーも支援して、地元産には“ローカル”というタグを貼って売っている。
④ PB商品は約1100アイテム。Whole Foods (グローサリー)、 Whole Kids(子供向けのナチュラル/オーガニック商品)、 Whole X(生鮮、冷蔵商品)などブランド展開。
農産物の栄養価を示す「ANDI Score」、海産物のサステナビリティーを格付けする評価システム「Seafood Watch」、精肉を格付けする家畜飼育5段階評価システム「The 5-Step Animal Welfare Rating」、家庭用品洗剤の環境格付けシステム「Eco-Scale Rating」を実施しています。
深くご興味のある方には、4月に日本で翻訳出版されたホールフーズ・マーケットの創業者兼CEO ジョン・マッキー、コンシャス・キャピタリズム・インクの共同創業者『世界でいちばん大切にしたい会社――コンシャス・カンパニー』(参考文献2)をお薦めします。
(5) 消費・娯楽・観光を楽しむ米国人旅行客で賑わうニューヨーク
束の間のオフも楽しみました。その中で、現在の米国を知る機会が沢山ありました。
メトロポリタン美術館ではフェルメール絵画5枚と印象派作品を鑑賞。近くのフリックコレクションではフェルメール絵画3枚を鑑賞できました。まわりは圧倒的に米国人のお客様でした。
昼間の視察疲れもありましたが、夜は、ジャズライブ、ブロードウェイミュージカル「オペラ座の怪人」、自由の女神と夜景を眺めながらのクルージングも楽しみました。どこも米国人旅行客が多い印象でした!
米国FRBは金融緩和縮小を段階的に実施していますが、米国人の消費、娯楽、観光が元気なことからも、NY以外の米国全体の経済回復を実感できます。
沢山の気づきを得たニューヨーク視察でした。
仕事柄、これまで米国は西部地区訪問が多かったのですが、また次回東部地区訪問の機会には、ニューヨークを拠点にして、ボストン、ワシントン等も訪ねてみたいと思いました。
以上
(参考文献)
1.日本小売業協会第19回ニューヨーク最新小売業態視察研修資料
2.ホールフーズ・マーケットの創業者兼CEO ジョン・マッキー、コンシャス・キャピタリズム・インクの共同創業者『世界でいちばん大切にしたい会社 コンシャス・カンパニー』(翔泳社 2014年4月 初版第1刷)
≪BIP ブックモール≫
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佐々木 昭美(ささき あきよし)
取締役会長 総合研究所所長
経営コンサルタント(経営改善、事業開発、ビジネスモデル、 人事戦略、IPO、M&A、社外取締役)
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