佐々木昭美のBIエッセイ 明るく楽しくイノベーション
2014/02/17 未来のために、他業界、他職種のプロフェッショナルに学ぶ
私は今年をSee (調査・視察)と Think(仮説・検証)の1年と決めました。他業界、他職種のプロフェッショナルに学ぶのは、その一つの方法だと信じています。
BIPは今年創立8年目に入りました。2014年は7年間の経験を踏まえ積極的アクションをすることは当然ですが、敢えて過去にとらわれず顧客と自社の事業ポートフォリオの未来、人生の未来を考える年にしたいと思いました。
理由はシンプルです。
第1は、日本始め世界の技術・政治・経済の大きな変化を把握すること。
第2は、生涯現役めざす一人として、今後に影響する変化を把握すること。
(1) 『熱く生きる』~天皇陛下の執刀医天野篤教授の闘う人生哲学に学ぶ
皆様よくご存じである天皇陛下の執刀医となった順天堂大学医学部心臓血管外科天野篤教授。天野教授の過去数冊の著作を参考に、私は約1年前のBIエッセイで『「一流」に学ぶ~天皇陛下の執刀医天野篤心臓外科教授の生き方』を執筆しました。
(・詳細は>>BIエッセイ2013/03/04号「一流」に学ぶ~天皇陛下の執刀医天野篤心臓外科教授の生き方)
当時、私の心に残ったことは3つ。①先達を真似る ②未開でも行く ③山谷あっても努力を続ける。
天野教授は、今月2月5日に『熱く生きる』を出版されました。医師という職業への理解を広げるために、強い思いに満ちた著作です。
私は、今回の著書で時に感動したのでは、医師の職業観、医学の進歩の内側、そして敢えて医療業界への言及をしていることです。
【1. 医師道を信じる~名医となって世のため人のために生きろ】
言葉が熱い。医師になってはいけない医師がいる。能力があっても働かない医師は許せないときっぱりと述べる。親に育てられ、選ばれて、膨大な税金で育った医師への痛烈な言葉である。
あなたの業界の職業観はどうですか?
私は、どの業界・職業にも持つべき職業観として学ぶべきと思いました。
【2. 医学の先を読め~医師教育はどうあるべきか自問する】
心臓外科の進歩は非常に早い。育てるのは簡単ではないが、自分が永遠でないのだから医師教育はやらなければいけない。
外科医の手術は、変化しつつある。一例を語る。「最先端の医療現場では、医師が「ダヴィンチ」という手術支援ロボットを操作して、出血の少ない外科手術を行う時代になった。つまり、小さい頃からコンピューターゲームの得意だった子が、優秀な外科医になりうる時代になっている。」(参考文献1)育て方も変わらねばならない。
当然、「何も考えずに医者になって、なんの使命感もなく医業に携わっているバカなやつがいたとすれば、それ自体が「凶器」になる。」と本当の教育への原則は譲らない。
【3. 3倍の努力は当たり前~2回でなく3回の回診を義務づける】
執刀医は2回のルーティンな回診が多いが、天野教授は3回回診を義務づける。「3回目は自分自身がその患者さんの様子で気になっているポイントを見る」(参考文献1)実は、「人の3倍働いたと自分に思えたときは、必ず神様が何かをくれるもんだ」と70代くらいの患者さんに教えられたのだと正直に語る。
収入の多いものは、誰よりも働かねばならない。報酬論にも触れている。
(2) 『捨てる力』~前人未踏の7冠を達成した羽生善治棋士の進化の秘密に学ぶ
私も幼年時代に将棋の兄弟対決で遊んだ経験があるが、職業としての棋士の世界はもちろん知らなかった。前人未踏の7冠という偉業を達成した羽生善治棋士の言葉に接して、実業界はもちろん、どんな職業にも通じる秘密に満ちており大変驚いた次第です。
【1. 将棋の技術の変化もある~強くなるのは、仮説・検証・反省の単純なプロセス】
最近の将棋のスピードは速く、1~2年前のデータは参考にならないという。そのため、動向を重点的に調べ、全体的流れも把握する。意外に思いきや、将棋の世界も変化対応の世界なのだ。
「最近は、微修正を加えるより高度な内容を求める必要性を痛感しています。・・(略)・・それは、世の中や物事がどんどん変わっていくから。」(参考文献5)
だから、ある手を温存しておこうとか後で使おうというのは駄目で、今持っている力を早く使いきった方が良いのだ。
強くなるプロセスは至って単純であると述べる。
「まずアイデアを思い浮かべる。次にそのアイデアがうまくいくかどうか調べ、それを検証したうえで試合で実行する。最後に、実践したあとに検証・反省する。そして、また最初に戻る。これの繰り返しでした。」(参考文献5)
その時の努力が、3ケ月後や1年後のタイムラグがあって結果として現れると語る。
【2. 攻めのために捨てる ~この作業を繰り返して新しい発想を得る】
「前例のようなものをすべてきれいさっぱり忘れるか、頭の片隅に置いておくぐらいにするか。独創的な思考や創造的な思考に頭を切り替える時、記憶は足を引っ張りますね。」(参考文献5)
これは結局、リスクへの向き合い方とも言える。積極的にリスクを負うことは未来のリスクを最小にすることと断言する。以下、本質をずばり指摘する姿勢が凄い。
「本当のリスクとは、決断を下したあとに伴うリスクではなく、決断を下すべきときに束の間のリスクを恐れ、逃げてしまうこと。怖いと思っても、恐れずに進んでいく気持ちは次の勝利への大切な姿勢だと思います。」(参考文献5)
【3. 棋士という職業は、勝負師という面と研究者という面がある~無駄をなくし、美しさを目指す】
棋士は勝負師として現実主義を求めることと、一方で高邁な理想を追いかけていく部分もあると述べる。どういう意味なのだろうか?
「ドロドロの現実の世界だけでは嫌になると思います。「美しい棋譜を残したい」という気持ちはあります。正しい選択をしよう、最善の手を指そうと思うと、無駄をなくすことが大切になります。洗練されるとはどういうことか。それは無駄をなくすこと。完全に無駄がなくならないと絶対に美しくはなりません。・・(略)・・正しい手を指すためにはどうするかではなく、美しい手を指すことを目指せば、正しい手になるだろうと考えています。このアプローチの方が早いと思います。」(参考文献5)
皆様は、少年少女時代に偉人伝を読んだ記憶があるでしょう。今でも思い出すことがありますね。大人になった現代の私たちは、現代の偉人=プロフェッショナルの追体験を容易にできる環境にあります。一緒に学びたいと思います。
以上
(参考文献)
1.天野篤『熱く生きる』(セブン&アイ出版 2014年2月)
2.天野篤『この道を生きる、心臓外科ひとすじ』(NHK出版新書 2013年2月 定価 本体740円+税別)
3.天野篤『一途一心、命をつなぐ』(飛鳥新社 2012年12月 定価 本体1500円+税別)
4.人間学を学ぶ月刊誌『致知』対談「仁術の道は限りなし」(致知出版社 2013年3月号 定価 1020円+税別)
5.羽生善治 『捨てる力』(PHP文庫 2013年2月)
≪BIP ブックモール≫
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佐々木 昭美(ささき あきよし)
取締役会長 総合研究所所長
経営コンサルタント(経営改善、事業開発、ビジネスモデル、 人事戦略、IPO、M&A、社外取締役)
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