佐々木昭美のBIエッセイ 明るく楽しくイノベーション

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2008/10/06 シャープ町田会長が語る液晶TV、携帯電話、太陽電池への連続改革

―読書の秋 日本を元気にする100年の視野と智慧、勇気を求めて(4)―


 今年9月に出版されたシャープ会長 町田勝彦『オンリーワンは創意である』文春新書の紹介です。
激変の時は、リーダーがへこまずに確固とした態度で、困難を新たな事業機会にする気概が大事です。通常、毎月2回発信のBIエッセイですが、今月は毎週“読書の秋 日本を元気にする100年の視野と智慧、勇気を求めて”を執筆して、リーダーの皆さんの元気に少しでも役立ちたいと思って頑張っています。

町田氏がシャープ社長に就任したのは、今から10年前の1998年6月。前年に山一證券の破綻、その年には日本債券信用銀行や日本長期信用銀行の国有化など金融危機と不況の時代である。7月に役員会で、8月には記者会見で「国内で販売するテレビを2005年までに液晶に置き換える」と宣言した。

町田社長の宣言は、“液晶のシャープ”というトップブランドとして現実となった。続いて、最後発で参入したカメラ付き携帯電話で日本トップシェアになり、更に世界一の太陽電池メーカーへと連続改革に挑戦するシャープ。夢物語でなく、世界競争に生きる現実の生々しい改革実践を知ることができる。

(1)ブラウン管他社製の限界を知り、液晶で「家電の王様」テレビ事業に再挑戦

 町田社長が、液晶テレビに集中を決断した背景は2つある。ブラウン管というテレビのキーデバイスを持たないテレビ事業の限界の痛い体験が一つである。もう一つは、家電のブランドはやはりテレビであるという販売第一線での体験であった。「小」が「大」への挑戦をどうするか。液晶への集中は、一見無謀なようにみえるが、よく考えた未来への合理的決断であった。しかし、当時黒字の半導体事業を縮小し、逆に赤字の液晶事業への投資集中は簡単に理解されなかったはずである。

 『今や、「液晶産業」の総生産は、パネルと製造装置、部材だけで約十五兆円となった(2006年度・ディスプレイサーチ・富士キメラ総研の試算)。そこに、関係あるガラス、印刷、繊維、化学、流通などの業界を合わせれば、さらに規模は大きくなる。』(同書39ページ)

(2)「日本で製造業を極める」亀山工場

 町田社長が、1999年インドネシア工場を訪問した。栃木工場の生産エキスパートだった工場長の言葉にショックを受けた。『生産拠点が海外に移転してしまった今、日本に帰っても、私にはもう仕事がありません。栃木工場に戻っても、自分の技術を活かせる場所がないのです。インドネシアなら腕を発揮できますから、一生ここで頑張ります』(同書45ページ) 会社を思う日本人幹部の誠実な気持ちの発露に、「製造業の空洞化」の本質的問題を強く実感したと言う。
 
2001年1月の年頭記者会見で述べた。
『もう一度メーカーの原点に立ち返って製造業というものを日本で極めること、すなわち“極・製造業”に徹することが日本のエレクトロニクス産業における二十一世紀のあり方ではないかと考えます。それにより、生産の日本回帰=モノづくりの復権も進むはずです。』(同書47-48ページ)

亀山工場は約3,500億円投資し、2002年9月建設開始し、2003年夏完成した。製品の歩留まり改善に眠れない日々が半年続いた。2004年1月、「第六世代」のマザーガラスを使用した液晶テレビ製造が開始された。
『三重県の有効求人倍率は2002年2月時点で0.60倍(全国で十三位)。亀山工場が稼働した2年度には1.45倍まで上昇した(全国で四位)。』(同書66ページ)
 

(3)「緊急プロジェクト」がシャープの風土を変えた

 有名なシャープの通称「緊プロ」は、1977年に発足した社長直轄のプロジェクトチームである。メンバーには、役員と同じ金色の社員章が支給されて権威があり、更に強い権限も与えられる。発足以来、310もの「緊プロ」が結成された。現在も11チームが活動中であると言う。

 組織の壁を低くすることが、独創的製品開発のキーだと言う。例えば、カメラ付き携帯は、通信、映像、液晶、情報、半導体など異分野の専門技術の融合で新たな付加価値を創出した。最後発で参入し、日本の販売シェアトップとなり、シャープの事業の20%となった。「緊プロ」という組織開発は、オンリーワン経営の根幹である。

 『私は社員に向かっていつも、「多能工になれ」と言っている。そして、「I型人間でなくT型人間になれ」と説いている。自分の得意分野や、興味のあることだけを追求するのが「I型人間」だ。Iの文字がまっすぐ一本伸びているように。そうではなく、Tの文字が横に広がっているように、専門分野を極めるのはもちろんだが、それに加えて、幅広い知識やスキルが身についた「T型人間」なれということだ。』(同書102-103ページ)

 『「緊プロ」を経験した社員の数は年々増加している。彼らの多くは、いずれシャープの中枢をになう幹部になるだろう。そうすれば、メンバーの選定で確執が生じることもなく、自然に組織の壁は低くなってゆくはずだ。その結果、人も技術も進歩する。こうして企業風土は、長い時間をかけて形成されていく。』(同書159ページ)

 町田氏は、リーダーの資質として「予見力」「構想力」「実行力」をあげている。

以上

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