佐々木昭美のBIエッセイ 明るく楽しくイノベーション
2013/10/01 読書の秋~誕生日に未来力=SF(空想科学小説)とSP(シナリオプラニング)再考
私的なことで恐縮ですが、先週9月25日は私の誕生日。過去の振り返りもありましたが、心はやはり未来に向いていました。
あなたは、誰かと一緒にどんな未来を作りますか? そのためには、「その未来を正しく想像すること」が大事ですよね。自問自答のフレーズです。
未来力を再考するキーワードとしてSFscience fiction(空想科学小説)とSPscenario planning(シナリオプラニング)という言葉を思い出し、大型書店探訪で偶然以下の最新本に出会いました。日本SF作家クラブ編『未来力養成教室』とA・Tカーニー日本代表梅澤高明編著『最強のシナリオプラニング』。
【はじめに】誕生日は未来への一番若い日
今年の誕生日は、不透明で見えないと言われる未来を知る力=未来力を再考してみたいと思いました。過去は戻りませんが、個人も企業も社会も未来に生きる。その点では、10代も、50歳離れた60代も同じだと思った次第です。もちろん、これから生存する年数は異なりますが、誕生日という今は未来への一番若い日という点では同じではないでしょうか?
一般的に各種機関や専門家の「未来予測」は当たらないことが多いが、長期的期間で見るとSF作家の描いた技術・しくみ・世界の多くが実現されているというある雑誌の記事が頭に残っていました。
また、経営支援の仕事柄、未来へのアプローチである経営戦略も変わらねばならないとの提言が増えています。事業経営は、直線型の経済成長時代から不透明な変化の多い経済社会に移行。従って、事業計画策定は過去の延長線も大事ですが、技術、業界、地域のボーダレス化に伴う一見不連続な環境変化への未来力が求められています。その有力な思考技法がSP(シナリオプランニング)です。
【1】 未来は作るものだ~日本SF作家クラブ編『未来力養成教室』
1951年手塚治虫が「アトム大使(鉄腕アトム)」を発表し、1954年映画「ゴジラ」公開されました。皆様、覚えているでしょうか。私も発表時の記憶はなく、後に知りました。そして、1963年3月に小松左京、星新一、半村良などによって日本SF作家クラブが設立されました。
<東野司~未来を描く力は、私たちの内側にある>
日本SF作家クラブ設立50周年の今年7月、日本SF作家クラブ編『未来力養成教室』が出版されました。9名のSF人気作家(夢枕獏、新井素子、荒俣宏、上田早夕里、神坂一、神林長平、新城カズマ、長谷敏司、三雲岳斗)が、10代のジュニアに向けてSFの真髄である“想像のヒミツ”を語っています。私は、世代を超えて役立つ内容だと感じました。
日本SF作家クラブの現会長東野司さんが、本書の序文で10代に向けてこう述べていています。
「未来は難しい。それを語るのはもっと難しい。なぜなら、未来は多様なものだからだ。かつて、未来はひとつだった。・・(略)・・そう、未来はひとつではない。そして、与えられるものではないということだ。・・(略)・・「未来」は向こうからやってくるものではない。自ら作るものだ。・・(略)・・与えられるものではなく、自ら作りだす未来は、自らにあるこの想像力によって得られるものなのだ。それを作家になろうとしたときに、私は気づく。・・(略)・・未来とは自らの中にあり、それを作り出すのは妄想力と想像力であることを。」(参考文献1)
<上田早夕里~「夢」も「悪夢」も大事>
2011年『華竜の宮』で第32回日本SF大賞を受賞したSF作家上田早夕里(うえださゆり)さんのエッセイ「夢と悪夢の間(あわい)で」が印象に残った。
簡単に言うと悪夢SFの2つの効用である。社会の欺瞞を知る、また自然、社会のリスクへの備えとなる想像を否定しない。
「明るく楽しいSFが、“人間の人間性を肯定してくれる朗らかで力強い歌”であるならば、暗くて怖いSFは、“闇夜に輝く豪華な花火”に似ていました。・・(略)・・悪夢、という言葉を聞くと、そんなものが小説に必要なのだろうかと、疑問に感じる方もおられるかもしれません。
現実の私たちの社会には、洒落にならない悪夢が満ちています。・・(略)・・悪夢を想像すること。それは、社会を、いまよりひどい状態にしないために、架空の世界から、情報や知恵を持ち帰る行為と言えるかもしれません。・・(略)・・
地震、台風、洪水、異常気象、人間の生活にかかわる社会問題について、最悪の状況をあらかじめ「想像」できれば、実際に起きたとき、少しでも被害を減らせるでしょう。」(参考文献1)
【2】 複雑な未来への対応は可能~A・Tカーニー日本代表梅澤高明編著『最強のシナリオプラニング』
私が塾長で過去5年間開催したBIP事業リーダー実践塾(詳細はコチラ>>)でシナリオプラニングをビジネスモデル論と事業計画論の講義の中で紹介しています。今年はその実践力を訓練する演習編を予定しています。
何故今、シナリオプラニングなのでしょうか?
A・Tカーニー日本代表梅澤高明編著『最強のシナリオプラニング』は、その背景、概要、応用事例を詳細に記述しています。
<シナリオ思考の時代~3つのシナリオと3つの戦略類型>
本書は、シナリオプラニングの基本的考えをこう説明しています。
「“未来を予測し、対応する計画を作り込む”という従来の経営アプローチは限界を迎えている。むしろ、未来の変化の道筋(=シナリオ)が3つ考えられるなら、それらを可視化し、それぞれのシナリオが起こった時にどんな対応を取ることが適切か、と議論を進める方がよほど生産的だ。これがシナリオプラニングの基本的な考え方である。」(参考文献2)
それでは、従来の「計画重視のパラダイム」と「シナリオ思考」はどこが異なるのか?
未来環境への認識、戦略の特徴、組織能力の面から相違を以下の図で説明しています。
図表1-1 「計画パラダイム」VS.「シナリオ思考」(本書P17より引用)
そのシナリオプランニングは4つのステップで進める。
Step1 環境分析 -> Step2 重要な因子の特定 ->
Step3 因子の評価、シナリオの定義 -> Step4 戦略検討
戦略には3類型あることを理解し、使い分けることの重要性を指摘しています。
図2-8 戦略の3類型(本書のP47より引用)
<業界事例~酒類・飲料、地銀、電力、エコカー、エレクトロニクス、情報通信、FTA>
本書は、各業界や政治経済政策の戦略オプションの事例を詳細に論じています。多くの業界の方に多大な関心をもたらすと思われます。
先般、NTTドコモが戦略を変更し、アップルiPhoneを販売開始した事が大きな話題になっています。関連する日本のエレクトロニクス企業の戦略オプションはどうなるのでしょうか?そのフレームワークも紹介しています。
図9-5 日本のエレクトロニクス企業の戦略アプション(本書 P183より引用)
既にパナソニックはスマホ市場からの撤退を発表していますね。マイクロソフトはノキアの端末事業を買収しました。コア部品である半導体業界の統合・再編も進んでいますね。
結局、シナリオプラニングは「未来へのリハーサル」であり、そのシナリオとは経営環境に関する未来のストーリー(仮説の連鎖)であり、その準備こそが経営の意思決定の柔軟性とスピードを上げ、企業の生き残りと発展に貢献する。
以上
参考文献
(1) 日本SF作家クラブ編『未来力養成教室』(岩波ジュニア新書 2013年7月)
(2) A・Tカーニー日本代表 梅澤高明 編著『最強のシナリオプラニング』(2013年10月 東洋経済新報社)
≪BIP ブックモール≫
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佐々木 昭美(ささき あきよし)
取締役会長 総合研究所所長
経営コンサルタント(経営改善、事業開発、ビジネスモデル、 人事戦略、IPO、M&A、社外取締役)
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