2016/06/02 第23回「経営戦略の重要な手段としてのM&A」
前回まで5回にわたり事業承継についてお話をしてきました。その中で、後継者がいない場合は、事業承継をあきらめてしまうのではなく、株式譲渡(M&A)により事業承継を行なう方法があることを説明しました。
今回はM&Aについて経営戦略の観点からお話したいと思います。
「M&Aの話はニュースなどでは聞くが、自分にはあまり関係がない」と考えておられる経営者の方も多いかと思います。しかし、実際には大企業だけがM&Aを行なっているということではなく、中小企業がM&Aに関わる例は多くあります。株式譲渡による事業承継もまさにM&Aです。
近年、後継者の確保が難しくなってきており、年間7万社の企業が後継者不在のために廃業しているというデータを、以前、示しました。最近では株式譲渡による事業承継の方法が知られるようなってきているので、株式譲渡による事業承継の件数が増えてきています。そうした企業を買うのは大企業だけではありません。中小企業が中小企業を買うというケースも多いのです。
M&Aというのは、企業を売却したい者(セル・サイド)と買収したい者(バイ・サイド)の両者があって初めて成立します。つまり、M&Aには常にセル・サイドとバイ・サイドの両面があるのです。事業承継を株式譲渡によって行なうというのは、セル・サイドの話です。今までセル・サイドを中心に見てきましたが、バイ・サイドを見てみましょう。
バイ・サイドの観点では、後継者不在で事業承継に困る企業が増えているというのは、企業を買収し、事業を拡大するチャンスが増えていることを意味しています。今の時代はまさにM&Aを活用して事業を拡大する好機と言えます。
自社の力で地道に事業を拡大していくことが、当然、基本となりますが、実は自力拡大をベースにしながらも、さらにM&Aを駆使して事業拡大していくという戦略もあるわけです。自力拡大には時間がかかりますので、M&Aにより一挙に事業拡大を図るという考え方です。その意味で、“M&Aは時間を買う行為”という言い方もされます。
企業買収は事業拡大を図る上で、経営戦略上の重要な手段なのです。
それでは再度、セル・サイドの観点からM&Aを見ていきましょう。
事業承継を行なう目的のためにも、M&Aが有効であることは既にご理解いただけたかと思います。こうした株式譲渡による事業承継は、出口(Exit(イグジット))戦略とも呼ばれます。会社を設立し、育て、大きくした後に、M&Aにより、会社の株式を売却することで、株式の売却益(キャピタルゲイン)を得ることができます。もちろん、会社を大きくして株式上場させることができれば、株式市場で株式を売却するという形の出口戦略もあります。しかし、株式上場できない場合でもM&Aにより売却することができるわけです。
セル・サイドのM&Aは、出口戦略だけではありません。事業の一部を売却して、得られた資金を使って主力事業を強化するといった、いわゆる“集中と選択”のためのM&Aがあります。事業構造を変革していく上でM&Aは重要な手段となります。
また、経営者の中には、自分の会社を売却して、得られた資金で、また新たな事業を起こすという起業家もいます。
M&Aはダイナミックな事業拡大や構造変革を実現させる有効な手段となりえますので、中長期の経営戦略を策定する上で、M&Aの活用も検討してみては如何でしょうか。
以 上
大塚 直義(おおつか なおよし)
コンサルタント(経営戦略、事業計画、経営管理の仕組み、海外事業、M&A)
経営戦略、事業計画の作り方、経営管理の仕組み等、役立つ情報を事例を交えてご紹介していきます。
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