2016/05/18 第22回「株式譲渡による事業承継を成功させるポイントとは?」
前回のコラムでは、後継者が確保できない場合には株式譲渡により他の会社に事業承継する方法があること、そして、株式譲渡の進め方について説明しました。
前回説明したように、株式譲渡の大まかなプロセスは以下の通りです。
①専門家(アドバイザー)の起用
②仲介業者の選定
③企業概要書の作成作業
④譲渡先候補企業の選定
⑤候補企業への打診
⑥優先交渉先の選定
⑦優先交渉先との交渉
⑧株式譲渡契約の締結
⑨事業の引継ぎ
各プロセスのポイントについては前回説明しましたので、今回はこの株式譲渡による事業承継を成功させるための、全体を通してのポイントについて説明したいと思います。
株式譲渡による事業承継を成功させるポイントを4つ挙げます。
(1)秘密保持の厳守
株式譲渡を進める途中で情報が漏れるということが起こりえます。株式を売却しようとしているという情報が漏れると、不都合なことが発生してしまいます。例えば、現業の取引に悪影響が出たり、或いは社員が動揺したりするようなことが起こります。また、買収を希望していた企業が買収を取り止めたりすることもありえるのです。
株式譲渡の案件を進めていく中では、秘密保持が極めて重要となります。関係者を絞り、秘密保持誓約書を提出させるなどして秘密保持の徹底を図る必要があります。
(2)競争入札方式による優先交渉先の選定
上記の株式譲渡の進め方の最大のポイントは、「⑥優先交渉先の選定」のプロセスにあります。なるべく多くの買収希望企業を集め、競争入札させるというプロセスを踏むことが株式譲渡を有利に進める最大のポイントと言ってよいかと思います。
私は、ニューヨーク大学のビジネススクールでファイナンスを専攻しましたが、そのカリキュラムの中でM&Aの授業も受講しました。授業の中で、「売り側のM&Aを有利に行なうためには競争入札に持ち込むことが必要」と、競争入札の重要性を先生が盛んに強調していたことを鮮明に覚えています。卒業後、会社に戻り、多くのM&Aを経験しましたが、M&Aの実務を行なう中で、まさに競争入札に持ち込むことの重要性を実感しています。
売り手と買い手の一般的な取引で考えてみても、買い手が一人だけであれば、買い手側は圧倒的に有利です。逆に買い手が他にもたくさんいれば、売り手は高く買ってくれる人に売ればよいのです。買い手同士の競争がなければ、買収価格は高くなりません。従って、株式譲渡の取引でも、売り手側の企業としては、競争原理を取り入れ、買い手側企業同士に競わせることが大切となります。
この競争入札の際には、単に株式価格だけではなく、その他の買収条件も記載してもらいますので、事業承継する相手として最も希望に合う企業を選ぶことが可能となります。
このように競争入札が重要ですので、M&Aの仲介業者を選ぶ際には、より多くの買収希望の企業を探し出してきて競争入札させることのできる、有力な仲介業者を選定することも大切となります。
(3)優先交渉先との交渉
優先交渉先の企業と交渉を行なう前提として、相手企業から買収監査(デュウデリジェンス)を受けます。この買収監査には誠意を持って対応することが重要となります。情報開示を正直にしっかり行なうことで、相手企業の不安を払拭することになりますし、結果として適正な買収価格とすることに繋がります。
株式の価格、即ち企業価値の評価には幾つかの計算方法がありますが、株価の理論値が算出できるのです。この理論値は一点で決まるのではなく、範囲として認識されます。株式の譲渡価格は、その適正な範囲の中で決まるように交渉を進める必要があります。適正な価格をはるかに下回る価格で譲渡することは避けねばなりません。
株価だけではありません。その他の買収条件にも十分気をつけることが必要です。株式譲渡契約書では、表明保証条項などの形で売主の瑕疵担保責任について規定されます。譲渡後、もし表明保証条項に反するような瑕疵が発見されると、売主は多額の補償請求をされるということが起こりえます。従って過度な責任を負わないように契約書の内容を交渉していく必要があります。
(4)M&Aコンサルタントの活用
株式譲渡は高度に専門的な取引となりますので、経験豊富な信頼の置ける専門家をアドバイザーとして起用して、一連のプロセスをサポートしてもらう必要があります。
M&Aの仲介業者は売り手と買い手の仲介をしてM&Aを成立させることが仕事です。仲介業者のみと契約してM&Aを進めようと考える企業もありますが、仲介業者と契約する前に、株式譲渡のプロジェクト全体を支援してくれるコンサルタントと契約をすることをお薦めします。売り手と買い手の中に入るのではなく、株式の売り手としての自社のサイドに立って、自社の利益を最大化できるように株式譲渡のプロジェクト全体をサポートしてくれるコンサルタントを活用すべきです。信頼できるコンサルタントであれば、信頼できる仲介業者とも契約することができます。
宣伝になってしまいますが、我々BIPでは株式譲渡の支援に多くの実績を有しています。有力な仲介業者とも連携していますので、顧客企業にとって有利な形での株式譲渡の実現を支援することができます。
単に株式が譲渡できて事業承継さえできればよいと考えるのではなく、事業を託すのに望ましい企業に対して、適正な価格と条件で、株式譲渡するようにしてください。
以 上
大塚 直義(おおつか なおよし)
コンサルタント(経営戦略、事業計画、経営管理の仕組み、海外事業、M&A)
経営戦略、事業計画の作り方、経営管理の仕組み等、役立つ情報を事例を交えてご紹介していきます。
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