2016/04/01 第21回「事業承継の手段としての株式譲渡」
前回のコラムでは、息子や娘など親族へ事業承継を成功させるためのポイントについて説明しました。しかし、以前のコラムでも書いたように、少子化や職業選択の多様化が進んでいる今の時代、事業を引き継ぐ意欲と適性を持った後継者を親族内で確保することは難しくなってきています。中小企業白書によると親族への承継の割合は5割を割り込んでいます。
親族に承継できない場合、経営幹部などの社員の中から適任者を探す、あるいは外部から有能人材を招聘してくるという方法があります。こうした方法で事業を承継するのにふさわしい人材を確保できれば、株式取得や個人保証の引き継ぎなどテクニカルな問題はあるにせよ、事業承継を行ない、会社を託すことができます。しかし、もし社員や外部人材で適切な人材を確保できない場合はどうすればよいでしょうか?
事業承継できる人材、後継者が確保できないという理由で、廃業の道を選べば、それまで一生懸命働いてくれた社員が職を失ってしまいます。またお客様や取引先にも迷惑をかけてしまいます。
後継者が確保できない場合も、諦めることはありません。第三者(他の会社)への事業譲渡、即ち株式譲渡という方法があります。つまり、他の会社に自社の株式を買ってもらうのです。有力企業に事業譲渡できれば、社員は仕事を続けられますし、その有力企業の傘下に入って事業は今まで以上に発展することも期待できます。もちろん、創業社長としても株式を譲渡することで売却益も期待できます。こうした事情から、近年、事業譲渡による事業承継の割合は増えているのです。
それでは、第三者への事業譲渡とはどのように進めればよいのでしょうか?
第三者への事業譲渡を行なう場合の大まかな流れは以下のようになります。
①専門家(アドバイザー)の起用
事業譲渡(株式譲渡)は、いわゆるM&Aです。多くの経営者には馴染みが少ない専門的な分野の取引となります。従って、株式譲渡による事業承継を成功させるためには、専門家の力を借りることが必要となります。信頼できる専門家を自社のアドバイザーとして起用して、より望ましい事業譲渡ができるように株式譲渡の一連の流れを支援してもらうことが大切です。
②仲介業者の選定
株式の譲渡先となる企業、即ち株式を買ってくれる企業を探すことが必要となりますので、株式の売却先を探してくれる仲介業者の手助けを借ります。数多くのM&A仲介業者が存在しますが、上記の専門家のアドバイスを受けて、適切な仲介業者を選定します。
③企業概要書の作成作業
自社の株式を買ってもらうためには、買収に興味のある企業に対して、自社の会社概要の資料を提供しなくてはならないので、そのための資料作成を行ないます。概要書と言っても、買収希望企業はこの資料に基づいて企業価値の算定を行なう必要がありますので、財務データなどを含む詳細な情報が掲載された資料を作成します。この資料作成と平行して、企業価値算定の作業を行い、売却価格の目処をつけます。
④譲渡先候補企業の選定
株式の譲渡先として相応しい企業のリストを作成します。
⑤候補企業への打診(ノンネームでの打診)
上記のリストの企業に対して買収に興味あるかを打診します。この打診は、自社の企業名は伏せて、会社が特定できないような簡単な会社概要の資料を提供する形で行ないます。買収を希望する企業が現れたら、秘密保持契約を締結した上で、上記③の詳細な資料を提供することになります。買収希望企業をできるだけ多く見つけ出すことが重要となります。
⑥優先交渉先の選定
買収希望企業が出揃った段階で、競争入札により、優先交渉を行なう企業を選びます。この競争入札では、買収価格や買収条件を提示してもらい、最も望ましい企業を選びます。
⑦優先交渉先との交渉
優先交渉権を与えた企業との交渉段階に入ると、デュウデリジェンス(以後、DDと略す)と呼ばれる買収監査が行なわれます。これは買い手側の企業が買う対象の企業(この場合、自社)に何らかの問題や瑕疵がないかを徹底的に調査するものです。ビジネス面、財務状況、契約書等法的な状況を念入りに調査してきますので、この調査に協力をすることが必要となります。この調査で企業価値を減じるような問題、瑕疵が発見されると、入札で提示した買収価格をその分下げる結果に繋がります。こうしたDDの結果を踏まえて、最終的な買収交渉に入っていきます。
⑧株式譲渡契約の締結
買収交渉の結果、買収価格や買収条件で合意に達すれば、株式譲渡契約を締結し、株式譲渡が実行されます。
⑨事業の引継ぎ
創業社長は株式譲渡を行なった後も、事業の円滑な引継ぎに協力を要請されることがあります。
株式譲渡は、上記のような流れが典型的なパターンとなります。もちろん、株式譲渡をこれ以外の形で進めることもありますが、株式の売り手側が望ましい株式譲渡を行なうためには、この形が最も有利となります。
さらに事業譲渡を成功させるための具体的なポイントについては次回のコラムで詳しく説明したいと思いますが、どんなことがポイントとなるでしょうか?
望ましい事業譲渡を実現するためのポイントについて、次回までに皆さんも考えてみてください。
以 上
大塚 直義(おおつか なおよし)
コンサルタント(経営戦略、事業計画、経営管理の仕組み、海外事業、M&A)
経営戦略、事業計画の作り方、経営管理の仕組み等、役立つ情報を事例を交えてご紹介していきます。
◆ご質問・お問い合わせはこちらから
専門コンサルタントへの、ご質問、ご相談等、お気軽にお問い合わせ下さい。