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2016/03/01 第20回「親族への事業承継を成功させるために」

事業承継を誰に対して行なうかの選択肢としては、①息子・娘などの親族、②社員、③外部からの有能な人材、④第三者(他の会社への事業譲渡)の4つがあります。

①の親族への承継は、割合としては近年急速に下がってきていますが、40%を上回り、最も一般的な事業承継の形態となっています。会社の規模別では、中規模企業で約4割、小規模企業で6割が親族内での承継を行なっています。(なお、中規模企業と小規模企業の定義は、製造業であれば、前者は300人以下、後者は20人以下となっています。)

親族への承継の割合が減っている背景としては、少子化の進展や職業選択の多様化があり、事業を引き継ぐ意欲を持った後継者を親族内で確保することが難しくなってきたという要因が考えられます。

息子、娘など、親族内に適切な後継者を確保できれば、これに越したことはないと思います。

ただし、事業を承継し、会社を托せる人材かどうかを見極めることは大切です。会社を担っていく意欲と能力があるかを見極める必要があるのです。単に息子だから、娘だからという理由で、会社を承継させると、経営者としての適性がない場合、あっと言う間に会社を傾かせてしまうことになりかねません。

経営者としての適性を見極めるためにも、若いうちから自社で社員として働いてもらうことが重要となります。もちろん、最初は他社で働かせて経験を積ませるという方法も、視野を広げる、人脈をつくる、先進的経営方法を学ぶことができるなどの効果が期待できます。しかし、自社の中で少なくとも10年以上は働く期間があった方がよいと思います。

社内では多くの仕事を経験させたいものです。製造業であれば、製造や開発の現場経験は必須です。その他に営業部門、総務人事部門、経理部門の業務経験も積ませるべきでしょう。ビジネスにおける営業活動の重要性はここであらためて強調する必要もないと思いますが、将来の社長候補であれば当然のことながら営業手腕を高めておく必要があります。総務人事といった裏方の仕事も知っておくことが必要です。見落とされがちなのは、経理・会計の仕事です。これからの時代、社長は数字に明るくなくては、経営はできません。是非、経理部門の仕事も経験させ、会計知識を身に付けさせるべきです。

もちろん実務経験だけでは不十分です。会社の役員として経営の一端を担うという経験が必要となります。例えば、会社の中心的な事業部門の担当役員として事業経営の経験を積ませることが重要です。会社の重要な役員ポストで経験を積ませながら、創業社長が獲得してきた経営のノウハウを伝授し、大切にしている経営理念を伝えていきます。そうしながら、経営者としての適性を見極めていくのです。

このように見ていくと、社内の色々な部門をローテーションしたり、役員の経験をさせていくためには、10年では足りません。4部門を経験させようとすると、1部門3年としても12年はかかる計算です。一つのモデルを考えてみましょう。大学を22歳で卒業、他社で5年働いたとすると、自社への入社が27歳。そこから4部門(最後が役員ポスト)で働くと、1部門3年で計算して全部で12年、やっと40歳で会社を承継できる計算です。

後継社長が会社を継ぐタイミングは、早いほどその後の業績向上に繋がると言われています。中小企業白書の統計資料を見ると、40歳未満で承継した後継社長の59.5%が業績を向上させています。4049歳での承継では46.8%、5059歳で43.1%、60歳以上で39.9%という具合に、承継の年齢が遅くなるにつれて、会社業績を向上させるのが難しくなってきます。

なぜ後継社長は若い方が良いのでしょうか?

それは、多くの場合、事業承継後に第二創業が必要となることが関係していると考えられます。創業社長が数十年前に会社を立ち上げ、事業を大きくしてきたものの、事業環境が大きく変化する中で、時代適応していない旧態依然とした事業を継続している企業が多いのです。成功したビジネスモデルでも、10年も経つと古くなって時代に合わなくなるものです。創業社長は過去の成功体験に縛られてしまうこともあり、事業の構造変革やビジネスモデルの変革を進められていないケースがよくあります。従って、後継社長に代替わりをしてから、事業の抜本的改革、第二創業に手を着けざるをえないというが起こります。第二創業を成功させるためには、時代感覚に優れ、気力と体力が充実した30歳代、40歳代が望ましいといえます。もちろん経験も必要となってきますので、後継社長となるのは30歳代後半から40歳代半ばまでがベストなのではないでしょうか。

後継者が社長になったからといって、すぐに第二創業にとりかかれるわけではありません。最初の数年間は現在の事業を継続しながら、徐々に経営に慣れ、経営体制を固めていく必要があります。焦って一挙に事業を変革しようとすると経営幹部がついてこないとか、先代社長との関係が悪化するといった事態にもなりかねません。まさに某家具販売会社の事件のようになってしまいます。第二創業を開始するまでに時間がかかるということもあるので、若い後継社長が望ましいと言えます。

後継社長は実権を握ってからも、古手の幹部社員をリスペクトしながら経営を進めていくことが大切です。社員を大事にすることは企業経営の基本。特に長年、会社に貢献してきた幹部社員には気を遣うことが、企業経営を上手く行なっていくためには必要です。

人心をつかみながら、経営の仕組みを整備していきましょう。創業社長の時代には経営の仕組みが整備されていないケースが多いので、後継社長として会社をさらに発展させていくためには、経営管理の仕組みを整えていく必要があります。そしてタイミングを見て、事業の抜本的改革に着手し、実質的な第二創業を進めていきましょう。

今回見てきたように、事業承継は壮大な長期プロジェクトです。特に後継者の選定と育成には時間がかかりますので、早めに着手し、計画的に事業承継を進めていくことが肝要です。

以 上

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thumbnail_otsuka大塚 直義(おおつか なおよし)

コンサルタント(経営戦略、事業計画、経営管理の仕組み、海外事業、M&A)

経営戦略、事業計画の作り方、経営管理の仕組み等、役立つ情報を事例を交えてご紹介していきます。

 

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