2016/01/14 第18回「会社の未来を創る事業承継」
皆さん、明けましておめでとうございます。一昨年の8月からコラムの連載を開始させて頂き、今回で18回目の連載となります。今年も皆さんのお役に立つ情報をコラムの形で提供していきたいと思っています。本年もよろしくお願い申し上げます。
さて、BIPでは事業承継の支援を行っています。
ここ数年の中小企業白書で大きく取り上げられている問題が事業承継です。
高度成長期やオイルショック以後の安定成長期に創業した多くの会社で、経営者の高齢化が進み、60歳代後半や70歳代の社長が増えています。60歳代後半の社長の過半数が後継者不在の状況にあると言われており、年間7万社が後継者不在で廃業しているという現実があります。今後、団塊世代の社長の大量引退が見込まれる中、近い将来には年間10万社が廃業するとの予測もあります。このままでは中小企業の数がどんどん減ってきてしまいます。まさに中小企業の事業承継は日本経済が抱える深刻な課題となってきているのです。
事業を誰に承継するかという選択肢では、息子・娘などの親族が約45%と最も一般的です。次に社員への承継が約35%、外部から有能な人材を招聘して承継するケースも10%強あります。実は選択肢としてはこれだけでなく、第三者(他の会社)への事業譲渡(株式譲渡)という事業承継の方法もあり、10%弱の割合ですが、近年増加しています。
少子化が進んだ関係もあって親族内で後継者を確保することが難しくなってきているという面もあるかもしれませんが、親族への承継の割合が減りつつあり、社員、外部人材、株式譲渡の割合が増えています。親族に適当な後継者候補がいないからと事業承継を諦めるのではなく、4つの選択肢を視野に入れて、事業承継を考えるべきです。
“事業承継は重要”との認識を持ちつつも、事業承継の準備をしていない経営者が、なんと60歳代で6割、70歳代で5割、80歳代で4割いるとのデータがあります。私自身も経営者の方々と話をして感じるのは、事業承継については重い腰をなかなか上げられない高齢の経営者がたくさんいらっしゃるということです。事業承継の準備を始められない経営者が多いのはなぜでしょうか?
それは理屈の問題ではなく、感情の問題が大きく左右していると思われます。創業社長にとって事業承継は自分の引退と表裏一体の関係にあります。経営者の皆さんは、自分は元気で、まだまだやれると思っておられます。それは確かにその通りだとは思いますが、永遠に経営の仕事を続けるというのは、人間である以上、不可能ですし、経営者もそれはわかっています。経営者は自分の引退に直結する事業承継についてはあまり考えたくないというのが本音なのではないでしょうか。
事業承継についてはまだ考えたくないという気持ちは理解できますが、事業承継を円滑に行なうためには時間がかかります。親族の後継者へ承継する場合には、後継者の育成には最低でも5年は必要です。できれば10年は時間をかけたいところです。経営幹部の社員や外部人材への承継もすぐにバトンタッチというわけにはいきません。
会社の事業、社内の業務を理解するだけでなく、社員との関係性、顧客や取引先との関係性も構築していかなくてはいけません。もちろん、経営者として必要な経営知識・スキルの習得も必要です。また、後継社長の育成とともに、創業社長の事業にかける志、理念の承継も進めていくべきです。
さらに言うと、単に事業を承継すればよいというものではなく、第二創業を合わせて行なう必要があるケースが多いのです。創業社長を中心に創り上げてきたビジネスモデルが時代に適合しなくなっている会社が多いという実態があります。某家具販売会社で親子間の壮絶な経営支配を巡る争いがあったのは記憶に新しいところですが、あの争いの背景として、従来のビジネスモデルが行き詰っているという状況があります。従来のビジネスモデル、事業展開を今後どのようにしていくべきか、第二創業のビジョン・計画を、創業社長と後継社長が、時間をかけて話し合いながら構想を練っていくことが重要となります。また、創業社長が自らのリーダーシップで大きくしてきた会社を後継社長が承継し、発展させていくためには、経営体制の整備強化も課題となります。
企業は「社会の公器」です。せっかく創造してきた事業を廃業にしてしまうのではなく、しっかり承継して、顧客、社員、取引先などのステークホルダーに対しての貢献を将来にわたって継続していきたいものです。会社の未来を創るのは社長の仕事。事業承継は5年、10年といった時間がかかる一大プロジェクトですので、会社の未来創りに向けた事業承継の計画・準備に早めに着手していくことが経営者に求められています。
以 上
大塚 直義(おおつか なおよし)
コンサルタント(経営戦略、事業計画、経営管理の仕組み、海外事業、M&A)
経営戦略、事業計画の作り方、経営管理の仕組み等、役立つ情報を事例を交えてご紹介していきます。
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