2015/07/01 第30回「商品企画シリーズ⑨(石黒啓司) ■商品企画の本質とは?・・・どのフィールドで商品展開するか」
梅雨も半ばを過ぎましたが、皆様お元気でお過ごしのことと思います。
前回は、企業にとって数年後にどのフィールドでビジネスを展開するか…すなわち中期的な展開方針の重要さを、SONY・松下(Panasonic)・Apple を例としてお話しました。
SONYはモルモット精神とその開発力で常に先進商品提案を続け、松下はそれを模倣して総合技術力と生産力で市場もシェアも拡大することで、高度経済成長期をお互いライバルとして切磋琢磨、成長を遂げて来た訳です。
すなわち両者は『どのフィールドで闘うか…』を、知らず知らずのうちに棲み分けていたとも言えます。
翻って現在を見ると、日本の家電業界は中国・台湾・韓国のアジア勢の急激な台頭以降、自らの存在すべき立ち位置、挑戦すべきフィールドを見失っているかのように見受けられます。
また、一見成功しているかのように見える韓国家電メーカーも、その利益は殆ど欧米の投資家に吸い上げられる経営構造にあり、国内経済不振や国民の所得減、更に失業率悪化や雇用不安の四重苦の状況に入っているようです。
これらの中で唯一、先進商品の提案を連続して巨大な成長を遂げているのがAppleです。
何故、Appleは過去最高の売上や利益の快進撃を続けているのか…。
そこにはAppleがビジネス展開をするフィールドを『先進型/提案型の創造商品に特化する戦略』が見えてきます。
ここで次のチャートをご覧ください。
これは家電業界を例として、各商品カテゴリーのポジションを整理したものです。
タテ軸は市場の成長度、ヨコ軸はマーケットサイズを表しています。
ここでAppleを見ると、チャートの右上に位置しており、成長市場かつマーケットの大きいフィールドでビジネス展開をしており、常に時代の先端を行く提案商品で売り上げを伸ばしていることが良く分かります。
さすがにi-Podは多少下火になりつつありますが、i-Phone や i-Pad などに常に挑戦、付加価値の多く取れる成長フィールドを創造してそこでビジネスをしているのです。
ここでTVを例に説明すると、白物と呼ばれる程に大きな固定市場であり、家電業界では『米の飯』とまで呼ばれた中心カテゴリーなのでこのチャートでも真ん中を占めています。
それにも拘わらず、今後の成長度ではTVは厳しい位置にあることは否めません。
それはアジア勢との価格競争や差異化の難しい成熟商品の代表格になり下がっているからです。
TVはデジタル家電の典型例であり、デバイスさえ入手出来れば誰が作っても同じ品質、パフォーマンスの商品になり下がっているからなのです。
それを如実に物語っているのは、SONYを例としたTV事業の分社化です。
分社化して身軽にならないと利益が確保できない、すなわちこのままでは成長カテゴリーでは無くなってしまうというフィールドに立たされているのがTV事業なのです。
TVだけでなく、デジカメやビデオカメラ、携帯Audioでさえ i-Phone に機能が集約されて縮小の動き、またカーナビ、カーオーディオなどは純正部品化が進んで価格競争と特定のマニア層の二極分化が想定されるなど、いつまでも安泰なカテゴリーはありません。
まさに競争戦略ではなく成長戦略のフィールドで戦うAppleは、往時のモルモット的存在であったSONYそのものと言えるでしょう。
そんなAppleのことですから、全く新しい概念のTV商品を開発して、TV業界に新規参入する可能性もあるかも知れませんね。 業界でもそう見ている向きが多いようです。
以上、Appleを持ち上げる積りはありませんが、日本企業の底力はまだまだ充分にあります。
今、一番必要なのは底力を生かしたチャレンジ精神で創造型の商品を開発することであり、思い切った投資の時期が来ていると言う点です。
トヨタの新しい株式提案もそのひとつであり、中長期的な開発投資資金を支える手法として大いに期待したいところです。
次回からは商品ライフサイクルを焦点に当て、導入期、成長期、競争期、成熟期、衰退期それぞれにおける商品戦略、経営戦略を具体的にお話したいと考えています。
石黒 啓司(いしぐろ けいじ)
コンサルタント(商品企画、マーケティング、仕事力改革)
今の日本、政治・経済の停滞の中、特に企業の元気がありません。構造変化への対応、新しい挑戦の欠如が原因と痛感しています。 これらの打開には先ず、戦略力、創造力・統率力などの仕事力が必須。至近な実例を元に仕事力&元気玉の復活を目指して発信します。
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