2014/11/01 第26回「商品企画シリーズ⑤(石黒啓司) ■福島の現状に見た商品企画の原点(経営者の姿)」
台風が2度も日本を縦断したかと思えば、先週あたりからは、すっかり秋めいて来ました。
さて、今回は商品企画シリーズとして、ちょっと視点を変えてお送りします。
先週、経産省の中小企業支援事業の一環で、福島の中小企業を訪問する機会がありました。
そこで感じた現在の福島の企業が抱える生の悩み、そして積極的に立ち向う挑戦の姿勢を通じた
『商品企画の原点』についてが今回のテーマです。
東日本大震災の爪あと、そして特に福島が抱える『福島原発の後遺症』には我々の想像以上のものがあります。
その中で、風評被害に負けず頑張り続けている中小企業の実例を2社ご紹介します。
Ⅰ.『いわきゴールドしいたけ』で実績を積み重ねる…いわき菌床椎茸組合
福島県の農産物、また工業製品に関して、放射能の風評被害は3年半が経過した現在でも根強く残っています。
特に東南アジアでは全面的な輸入禁止が続いており、千葉県の知事が台湾を訪問して輸入再開を要請したニュース、
皆さんも記憶にあると思います。
今回訪問した、いわき菌床椎茸組合は、2011年に操業をスタートしました。
創立の主旨は、地元いわき市の雇用促進、特産品開発をテーマに、農業関係だけでなく、地元の建設業の方も加わり、
林野庁の肝入りもあって設立されました。
当初は順調な立ち上がりだったそうですが、大震災と原発の問題に起因する風評被害で14ヶ月もの操業停止。
大ダメージを受けました。
国や県の補助は限られる中で、操業再開の熱意の根源は『品質への自信』を何とか生産復活で再現したいと言う
経営者の強い意志と志でした。
その後もあらゆる融資獲得に奔走し、需要の復活で現在では70名の皆さんが頑張っておられます。
①安定品質、安定供給で、直接取引を目指す
②価格決定権は生産者にあると言う固い信念を裏付ける品質への挑戦
③全員が正社員で、地域の雇用を何としても守る経営姿勢
清潔な設備、メンテナンス、温度湿度管理、工程管理など語れば尽きない努力をされているのは当然だと思いますが、
私が特に感じたのは経営者の固い信念でした。
特筆すべき点は、社員への雇用確保に対する信念です。
操業中止を余儀なくされている期間、給料は減っても維持する姿勢。
また、今後の展開に向けどのように社員の成長・モチベーションアップを計るかなど自分の子のように
『この子達がもっと成長して事業を維持拡大』する方策を練っているようです。
正に『企業はひとなり』を固い意志で実践している点が最大の成功要因と感じました。
これは商品企画と言うより企業の原点と感じました。
Ⅱ.『甘酒への事業拡大で実績を伸ばす』… 味噌蔵 宝来屋本店 郡山
次に訪問したのは操業明治39年の老舗味噌蔵、宝来屋本店です。
味噌の需要は若者の味噌汁離れから年々、減少していることは皆さんにも容易に想定出来ると思います。
地域の好みを反映した地元の味噌は、もちろん地場産業として存在します。
しかし、需要の減少は止められません。
また、味噌の収益を左右するのは原料である米価とのこと。
日本酒並に米を研ぎ、25%削って使わないと米の味が味噌に残ってしまうそうで、
安価なランクの米を使用するとは言え、その米価の変動が経営面で非常に厳しいそうです。
更に過酷なのは残念ながら品質競争よりも価格競争が中心の産業の実態。
ここで経営者は一つの決断をします。
味噌だけでは維持存続は困難であり、得意分野の発酵を活かした『甘酒』への事業拡大です。
①甘酒は家や店で飲むもの…から、手軽に飲める文化を創造する
②甘酒は冬のもの…の概念を変えて、夏でも飲める文化の提案
これらを実現する為の発想はペットボトル・パッケージでした。
皆さんもすぐに気付くと思いますが、従来の家庭用甘酒の流通はビニール袋入り5~6人用のパッケージでした。
これでは主な消費者である中高年齢層の顧客にとって、飲みきれず残ってしまい、購入に躊躇してしまいます。
ここに眼を付けたのが『ペットボトルの採用』です。
これも一朝一夕に実現した訳ではなく、二次発酵で爆発寸前まで膨らむ想定外のトラブルに苦労され、
まるで今放映中のNHKの朝ドラのワインのような話ですがこれらを解決し、適量のペットボトルで、
気軽に飲めるスタイルを提案した結果本年度は100万本を超えるヒット商品に育て上げたそうです。
この実例から痛感したのは、『得意分野である麹文化を継承する』と言う経営者の強い意志でした。
SWOT分析などの屁理屈ではなく、自分の得意な技術を活かす…と言うシンプルな経営方針が産んだ成功です。
また『客の目線に立った商品の工夫』=ペットボトル・パッケージです。
以上、ふたつの企業の実例を紹介させて頂きました。
福島の置かれた大震災と原発風評被害…その中で、苦難を工夫で乗り越える企業の実例を目の当たりにして、
私自身も日頃のコンサルタントでマンネリに陥っていないか、屁理屈に懲り固まっていないか?と自問自答させられました。
目からうろこの落ちる思いであり、私自身への戒めでもあります。
正に『商品企画の原点を地道に実行されている企業の皆さん』への感激です。
福島の皆さんの志と挑戦心に感激するあまり、拙い表現となってしまいましたがお読み頂いている
皆さんへ伝える事が出来たとすれば幸いです。
朝晩の寒さには一抹の淋しささえ覚える今日この頃、皆様におかれましては風邪など召さぬようご自愛ください。
石黒 啓司(いしぐろ けいじ)
コンサルタント(商品企画、マーケティング、仕事力改革)
今の日本、政治・経済の停滞の中、特に企業の元気がありません。構造変化への対応、新しい挑戦の欠如が原因と痛感しています。 これらの打開には先ず、戦略力、創造力・統率力などの仕事力が必須。至近な実例を元に仕事力&元気玉の復活を目指して発信します。
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