2017/01/05 第39回「商品企画シリーズ⑱(石黒啓司) ■商品のライフサイクル理論(その9) 成熟期 相手目線シリーズ(販路=土俵を変えて商品を創る)」
新年明けましておめでとうございます。
2017年を迎え、様々な思いで新年をスタートさせたことと思います。
商品ライフサイクル理論の成熟期として相手目線シリーズをお送りして来ましたが、年頭に当たり、心機一転、『販路と商品=土俵を思い切って変える挑戦』を題材に選びました。
成熟期は市場での競争が最も激化する時期と言えます。
漫然と商品力競争や価格競争に巻き込まれるだけでは経営面で行き詰まり、生き残ることは出来ません。根本的な転換、打開策が必要となります。
既存商品を、既存顧客向けに、既存の販路で続けても自ずから限度があります。
そこで戦略転換が重要となる訳です。
今回の実例は、カーナビ業界を題材に、相手目線でのビジネス転換例をご紹介します。
S社は世界に先駆けて米国のGPS技術に着目し、いち早くカーナビを開発・商品化した実績を持ちながらビジネス面では残念ながら他社の後塵を拝する位置に甘んじていました。
その後もカーナビとポータブルナビの融合商品を開発するなど様々な工夫を続けていましたが、なかなか成功には至りません。
そこで改めて市場を徹底的に分析した処、商品力以外に『販路の特異性』が大きな要素である点に注目しました。
皆さまもご存じのように、カーナビ市場は新車購入時の純正ナビとアフター市場向けナビが存在します。純正ナビは自動車メーカーの厳しい品質基準や価格要求の世界であり、家電ブランドが通用しにくい点、取引条件や過去実績が物を言う複雑で参入障壁の多いビジネスです。
一方、新車購入後に顧客が自分でナビを選ぶアフター市場は、家電ブランドでビジネスは可能なものの、『販路の特異性』があります。
すなわちS社の得意な大手家電量販店ではなく『カー用品店が主戦場』です。
ここで、カー用品店の特異性について説明します。
カー用品店とは主に幹線道路沿いに大型店舗を構え、販売から取付けサービス迄を網羅する『フランチャイズ展開』の店が主流です。
従って『仕入れシステムやマージン体系、メーカーの店舗支援の習慣』に特異性があり、家電量販店と比較するとメーカー側には非常に厳しい条件の販路と言えます。
S社にとって、この厳しい条件でのビジネス展開からどう脱却するかが大きな課題でした。
そしてS社が取ったのは『販路=土俵を変える、商品概念を変える』と言う大転換であり、その根底にあったのは正に『販路目線・顧客目線』だったのです。
その発想に至った背景の分析チャートをご覧ください。
1.分析結果~S社の決断プロセス
①カー用品店の土俵に居る限り、ビジネスの転換は困難である=撤退の決断
②家電量販店は取付・実装の設備も経験がなく、新たな設備投資も好まない
③家電量販店に適したナビ=取付/実装/設備が不要で、売り易い簡単なナビ
④家電量販店はS社の得意な取引関係があり、新しいビジネスに貪欲である
2.S社が取った戦略
①家電量販店向け専用商品の開発=簡単装着(取付工事不要)
画期的なダッシュボード吸盤の開発に集中=顧客が自分で装着可能
②販路支援概念=『新規ビジネス提案で新たなWin/Win関係を創出する作戦』
一体感の創出 =新規ビジネスで共に売上を拡大
店頭支援(1) =大型展示台の無償提供で他社商品展示~売場創り
店頭支援(2) =商品勉強会(店員教育)~発売日の店頭イベント
宣伝広告 =発売に向けたTV-CM
3.結果…家電販路でトップシェア獲得
これらの戦略が功を奏し、S社は家電量販店のナビ販売でトップシェアを獲得、相手の目線に立って土俵を変え、商品を変えることでビジネスの転換に成功しました。
また相乗効果として、量販店と一体となり新たなビジネスを創造出来たことにより相互の信頼関係が産まれたことも大きな成果でした。
4.後日譚
以上、S社の成功部分だけに焦点を絞ってご紹介しましたが、その後もビジネスは日々、変化を続けており、S社は簡単ナビを撤退しています。
これもひとつの大きな転換、決断の例と言えましょう。
賢明な皆さんは既に気付いていると思いますが、取付簡単ナビはスマホに世代交代する傾向も見えており、それを見越した決断だったのかも知れません。
過去のビジネスに固執してその範囲内で転換を計る道もあれば、思い切って撤退するのもひとつの決断。悩ましい永遠の課題ですね。
石黒 啓司(いしぐろ けいじ)
コンサルタント(商品企画、マーケティング、仕事力改革)
今の日本、政治・経済の停滞の中、特に企業の元気がありません。構造変化への対応、新しい挑戦の欠如が原因と痛感しています。 これらの打開には先ず、戦略力、創造力・統率力などの仕事力が必須。至近な実例を元に仕事力&元気玉の復活を目指して発信します。
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