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学校法人 新潟総合学園 事業創造大学院大学とBIP株式会社は、「コーポレートベンチャリングによる新規事業開発ベストプラクティス」に関する共同研究契約を締結致しました。
CV(コーポレートベンチャリング=大企業とベンチャー企業の連携)投資を深く理解するため、20165月から11月にかけて、毎月事業投資研究会を開催し、共同研究を進めています。

本記事では、1118日開催の第5回BIP事業投資研究会についてご報告します。

第5回の研究会では、「モニタリングとガバナンス:境界領域を考える」というテーマで、事業創造大学院大学岸田教授からCV投資の成功例を解説いただき、互いの意見交換を行いました。

%e3%82%a2%e3%82%a4%e3%82%ad%e3%83%a3%e3%83%83%e3%83%811)CV投資に対する認識

大企業にとってCVは、様々なメリットは得られても、財務収益を主に求めるものではなく、成功指標を設定しきれていないのが現状です。また、ベンチャー企業にとっては、資金以外のニーズを満たしてくれるメリットがある一方、大企業カラーがついてしまうというデメリットも指摘されています。

2)CV成功のために必要なことは

どうすればベンチャー起業家が大企業とWin-Winの関係を結べるのか。その重要なコツは「大企業とベンチャーの境界をうまく構築すること」「CVを既存企業の信用や事業資源とVB(ベンチャービジネス)の技術やノウハウとの一過性取引に終わらせず、共創的関係を持続させる仕組みづくりにある」と岸田教授は考えます。

3)CV成功事例:三菱商事の事業投資型VBの大成功から学ぶ

岸田教授は、ベンチャーキャピタル勤務時代に様々な形で有力企業のCVに関わってきました。本研究会では、CVの成功事例として、日本ベンチャー学会誌に投稿掲載され、ベンチャー学界全国研究大会で発表した事例を解説されました。取り上げたのは三菱商事の事業投資型VBとして設立されたネットワンシステムズ株式会社(以下NOS)の事例です。

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・総合商社が手数料ビジネスから事業投資に転換し大成功した事例

1988年に三菱商事は技術部の活動の発展系として、米国アンガマン・バス社との合弁会社としてベンチャー企業NOSを設立しました。NOSは、1996年にJASDAQ登録、2001年には東証一部上場、創業16年で売上一千億企業へと急成長を遂げました。三菱商事は既にNOS株式を全株売却済みで、このCV投資によって約20年で数百億円以上の投資リターンを実現したと推察されます。

NOSの自立型VBスタイルと三菱商事の対外的信用力の融合効果

NOSの急速成長を推進したその経営改革の基本戦略とされたのは、技術試験研究を基盤とした「ネットワークインテグレータNO.1戦略」と、「ランチェスター競争戦略」の融合であると岸田教授は述べています。

ベンチャー企業であるNOS自身が米国を中心に出資を行い、先端技術取得のために積極的に投資したことで、競合に負けないNo.1のシステム技術力を獲得しました。

そして同時にランチェスター競争戦略の第一法則、「数的に劣勢な側が勝利するには、一騎打ちとなる条件下で戦うこと」が強く意識されました。NOSが当初請け負っていたLAN機材量販ビジネスでは、第二法則の条件下で戦わざるを得ません。「複数対複数ならば兵の数が多い方が圧倒的に有利となる」、つまり大企業が有利となる条件です。そこから脱却し、第一法則で戦える主流企業向け基幹ネットワークSI(システムインテグレータ=顧客に合わせた情報システム業務を一括で請け負う)ビジネスへと転換し、大手キャリア市場へ事業を展開したことでNOSの急成長は実現されました。

NOS急成長の主要因は、先端技術取得のための積極的な投資と、市場変化に先んじたビジネスモデル変革・経営革新を繰り返し実行したことにあったと言えます。当初三菱商事の子会社だったNOSは、一般的イメージとは異なり、プロパー役員を核として、資本と経営を分離させたと思われる再三の経営改革を断行します。対外的には、三菱商事の信用力が言外に大きな支えになっていた要素も重要です。

・キャズム理論とランチェスター戦略の統合力

さらに、岸田教授は、NOSの戦略をロジャーズ・カーブの「キャズム理論」的視点からも分析しています。

キャズム理論とは、新技術に対して顧客がどのような反応を見せるかによって顧客特性を5分類したものです。積極性の高い順から、新技術に飛びつくINV(イノベーター)、性能重視で担当ビジネスに有用であれば高価格でも購入するEA(アーリー・アダプター)、費用対効果重視で価格と釣り合えば購入するEM(アーリー・マジョリティー)、他の人が使っていれば購入するLM(レイト・マジョリティー)、ハイテク嫌いのLG(ラガード)に分類します。そして、INVEAの比較的新技術に積極的な2層と、EM以下の保守的な3層との間には、越えられない大きなキャズム(溝)があり、各層に対し一辺倒のアプローチをするビジネスは破綻するということを説いています。

03NOSはランチェスター戦略を柱とした戦略によってこのキャズムを超えたと岸田教授は見ています。

NOSの標的市場である主流企業、大手通信業者は、その組織内にINVEAを擁しているため技術情報は豊富、また意思決定プロセスにはLMLG層も参加することが多く、特定のEM市場だけに集中する戦略では不十分でした。

NOSは各層に対し、それぞれ異なるアプローチを行います。INVにはシリコンバレーの最新情報で支持を得、EAにはVB投資を通じて得た新技術を提案へ組み込むことで新技術の評価情報を提供し、EMには提案に実証データを添付したり互換製品の有効活用をしたりすることで費用対効果の高さをアピールし、LMには標準対応のシステム設計を提供、LGにはアプリ層や導入をパートナーや顧客システム部へ分担することによって、パートナーに対応を任せるという方法を取りました。

NOSには投資によって得たCisco等ディファクトスタンダード製品確保と試験研究による高いシステム技術力がありました。そのことが、すべての顧客階層を同時に納得させる戦略に不可欠であったと岸田教授は分析しています。

「ランチェスター戦略はキャズム理論の競争戦略を補完する」、「VBと試験研究設備への投資による差別化がランチェスター戦略第一法則による競争戦略を実現した」「サービス業のイノベーションにも、試験研究は有効である」。このような考察が当事例から導かれました。

4)意見交換

意見交換では、日本企業とCVの現状の考察、日本企業が三菱商事のCV投資のような成功を続けていくために必要なことは何か、といった議題で、多角的な意見が活発に交わされました。

 

学校法人 新潟総合学園 事業創造大学院大学とBIPは、研究会で得られた理論的整理を実践手法へとつなげ、企業の新規事業開発の戦略について調査研究を進めてまいります。
本共同研究の成果は、共同研究後6ヶ月以内に共著論文にて公開することを予定しております。

>>「大阪ガスのオープンイノベーション」をテーマにした前回のご報告はこちらをご覧ください。

>>学校法人新潟総合学園事業創造大学院大学との共同研究についてはこちらをご覧ください。

本件に関するお問い合わせ先:
BIP株式会社  担当 取締役 手塚 里美
TEL:03-5542-1417
E-Mail:info@bi-p.co.jp

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